文化講座
「陰翳礼讃」より深くものを見つめ直すための書
いよいよ秋の気配を濃く感じる季節になりました。秋の夜長に聞こえる虫の声も少し悲しげに感じます。日本に生まれて良かったと感じるのも今頃ではないでしょうか。日没も少しずつ早くなり夕日の撮影も帰り際にできそうですね。
さて今回のテーマ「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」と少し難しそうな名前です。
谷崎潤一郎の随筆で光と陰をこと細く観察して主にその陰の部分が色々なものをどう見せているかを述べたもの(ちょっと大雑把ですが)です。この本は、絵や写真を目指す学生の必読書と言われています。なにせ古い時代の文章ですから漢字や言葉に悩ませられるかもしれません。この時代、明治の家屋の雰囲気も知っていないと情景がぴんとこないかもしれません。しかし、日本人が感じる美しさの根底をしっかりと観察しているので勉強になります。
こんな一節が・・・
『人はあの冷たく滑らかなものを口中に含む時、あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ、ほんとうはそう旨くない羊羹でも、味に異様な深みが添わるように思う。』
・・・この感じを体験するには座敷の電気を消して日が落ちる頃の薄明かりの状態を再現しないとわからないかもしれません。明治の家屋に身を置いてこの書を読むと光と陰の美しさが見えてくると思います。
我々現代の明るさが当たり前の状態でものを見つめていく事と、少しずれてくるかもしれません。しかし日本人という感受性から光と陰の美しさを捉えていくには、この書はとても参考になるのではないでしょうか。この書を参考に、一番綺麗にものが見える場所を探すことができるようになるかもしれません。デジタルカメラが捉えられる光のラチチュードの一番美味しいところが見つかるでしょう。他にも色白に日本美人を見せる明るさの場所を見つけるなど、ポートレートにも役に立ちそうです。秋の夜長に御一読をお勧めします。
参考 「陰翳礼讃」 谷崎潤一郎 (中公文庫)
今月の一枚
"光を見つける"をテーマに撮影したドアの取っ手部分のクローズアップです。日本ぽくない構造を意識しています。北側の柔らかな光を利用して撮影しました。犬山市のリトルワールドで撮影(標準レンズ)。
筆者のブログには、デジ一眼やコンデジで撮影したものを
いろいろ掲載しています。
PHOTO COLOR
http://tatumiiro.exblog.jp/