文化講座
贈与について相続時精算課税制度の使い勝手が良くなりました
1. 概要
個人から財産をもらい受けたとき(贈与を受けた人)は、贈与税の課税対象になります。贈与税の課税方法には、2種類の方法があります。1つは暦年課税といわれる方法で、もう1つは相続時精算課税といわれる方法です。贈与を受けた人は、贈与者ごとにいずれかの課税方法を選択することが可能です。今回は、令和6年より改正のあった相続時精算課税にスポットを当てて考えてみたいと思います。
相続時精算課税は、相続税の課税方式の一つであり、贈与税と相続税を一体的に扱う制度です。2,500万円までは贈与時に課税される贈与税を一旦免除し、贈与者が亡くなった時にその贈与財産の贈与時の価額と相続財産の価額とを合計した金額から相続税額を計算し、すでに納めたその贈与税相当額を控除することにより、相続税として一括に納税する制度です。
受贈者となることができるのは、原則として60歳以上の父母又は祖父母から贈与を受ける18 歳以上の子又は孫であり、その受贈者に対し財産の贈与があった場合に相続時精算課税制度を選択できます。
2. メリット
相続時精算課税は、2,500万円までの贈与について贈与税が非課税となり、それを超える金額には一律で20%の税率で課税されます。令和6年改正では、2,500万円の特別控除前に、110万円の基礎控除も適用でき、相続時の持ち戻しも不要となったため、更なる税額軽減が受けられるようになりました。これにより、贈与税・相続税の軽減、相続財産の早期移転、生前贈与の促進(贈与の自由度)といったメリットがあります。
暦年課税に比べて贈与税の負担が少なく、一度にたくさんの贈与ができるというメリットがあります。贈与税は相続税より高い税率が適用されることが多く、そのため生前に財産を贈与することを躊躇しがちです。しかし、相続時精算課税を利用すれば、贈与税の負担を軽減し、贈与のタイミングを自由に選べるようになります。また、これにより相続税を将来的に安定的に支払えるようにすべく、相続前の計画的な贈与が可能となります。
さらに、不動産など価値が上昇することが見込まれる相続財産について、価値が上昇する前に生前贈与を行うことで、相続税の負担を軽減することができるといったメリットもあります。
また、相続時精算課税を利用することで、相続が発生する前に財産の授受ができるため、相続財産の分割を被相続人となり得る人が生前に進めることができます。これにより、相続発生後の財産分割争いを回避することができ、相続人同士の争いを減らすことが可能となります。
3. デメリット
一方で、贈与額の合算による相続税の増加、相続時の税率が高くなる可能性、贈与税と相続税の一体的な扱いによる負担の繰り越しといった相続時精算課税のデメリットという存在も考慮しなければなりません。
相続時精算課税のデメリットとして、贈与額を相続税申告の際に合算するため、場合によっては相続税の負担が予想以上に増えることが挙げられます。例えば、大きな額を生前贈与した場合、その贈与額が相続財産に合算され、相続税の課税額が増える可能性があります。そのため、贈与額が大きいと相続時の税負担が重くなることを考慮する必要があります。
贈与額が多い場合、相続税の超過累進課税により、税率が高くなる可能性があります。相続税の税率は、相続財産の規模に応じて段階的に高くなるため、生前に大きな額の贈与を行った場合、相続税の税率が高く設定される可能性があり、予想外の高額な相続税が発生するリスクもあります。
また、相続時精算課税では、生前贈与を受けた財産はその時点で贈与税が課税されるわけではなく、相続時にその財産が合算されて相続税の対象となるため、結果的に税負担が後に回されることとなります。これにより、短期間に大きな税負担を抱えることとなり、資産の管理や納税計画が難しくなる場合もあります。
4. まとめ
相続時精算課税は、贈与税の負担を一時的に回避できるとともに、相続財産の移転を円滑に進めるための有効な手段といえます。しかし、贈与額を相続税に合算するため、場合によっては予想外に高額な相続税を支払うこととなる可能性もあります。そのため、制度を活用する際には、専門家の助言を受けつつ、慎重に贈与計画を立てることが重要です。
津田 亜希
税理士