文化講座
令和4年4月からの公的年金の繰上げ・繰下げ
公的年金である老齢基礎年金・老齢厚生年金の受給開始年齢は原則65歳ですが、本人の選択で65歳より前に繰上げたり、65歳より後に繰下げて受給することも可能です。繰り上げてもらう場合、早くて60歳から請求することが可能ですが、65歳から受給する場合と比べて年金額は減額されます。逆に65歳より後に繰下げて受給する場合は年金額が増えます。
この「繰上げ」「繰下げ」の制度に令和4年4月から以下のような見直しがありました。
1.「繰上げ」の減額率の見直し
65歳より前から繰上げて受給した場合の年金額の減額率が一ヶ月あたり0.5%から0.4%へ変更されました。ただし、この見直しは令和4年3月31日時点で60歳未満の方が対象です。
2022年度の老齢基礎年金の満額は777,800円/年です。これを60歳から繰上げ受給した場合の金額を見直し前と後で比較してみると以下のとおりです。
見直し前 777,800円 × 70%(0.5%×60ヶ月=30%の減額)=544,460円
見直し後 777,800円 × 76%(0.4%×60ヶ月=24%の減額)=591,128円
減額率が引き下げられたことで、同じ60歳からの繰上げ受給でも見直し後の方が多くの年金額が受け取れるようになりました。
2.「繰下げ」は75歳まで可能に
公的年金を繰り下げて受給する場合、これまでは最大70歳までであったところ、令和4年4月から75歳まで可能となりました。対象となるのは令和4年3月31日時点で70歳未満、もしくは老齢年金の受給権を取得してから5年を経過していない方です。
これによって60歳~75歳の間でいつから請求するかを選べることになりました。なお、繰下げ受給する場合の増額率はこれまでと変わりなく1ヶ月あたり0.7%です。
3.受給開始する年齢で受取総額はどう変わる?
65歳から満額の777,800円の老齢基礎年金を受け取れる方が、60歳から繰上げて受給した場合と70歳、75歳に繰り下げて受給した場合の年金額は以下のとおりです。
受給開始年齢 | 減額・増額 | 年金額 |
60歳(60ヶ月繰上げ) | 76% | 591,128円 |
65歳 | 100% | 777,800円 |
70歳(60ヶ月繰下げ) | 142% | 1,104,476円 |
75歳(120ヶ月繰下げ) | 184% | 1,431,152円 |
早く亡くなってしまうことがあれば繰り上げて受給開始していた方がよかったとなるかもしれませんが、長生きするのであれば繰下げてもらった方が支給総額は多くなります。ただ、何歳で亡くなるかは誰にもわかりません。いつから受給するかは、60歳以降の働き方やその他の資産や収入など総合的に考えて検討しましょう。また、様々な留意点もあるため、社会保険労務士などの専門家に相談しながら検討してみるとよいでしょう。
石川 友紀
ファイナンシャルプランナー(CFP®)
株式会社家計の総合相談センター