文化講座
暗号資産(仮想通貨)について令和9年から確定申告の方法が変わる可能性があります
1.はじめに
与党税制調査会は令和7年12月19日、令和8年度税制改正大綱を公表し、暗号資産(仮想通貨)取引に関する課税制度を見直す方針を示しました。これまで暗号資産による所得は雑所得として総合課税の対象とされてきましたが、今後は投資家保護を前提とした制度整備の進展を条件に、申告分離課税へ移行する方向性が明らかにされました。
暗号資産を巡る税制は、利用者の拡大や取引の高度化を背景に、長年にわたり見直しの必要性が指摘されてきました。特に総合課税では、価格変動によって高率課税が生じやすく、損失繰越控除も認められないことから、税負担の重さが投資判断に大きな影響を与えてきました。
今回の税制大綱が示す申告分離課税化の趣旨は、暗号資産を株式などの金融商品と同様に位置づけ、税率の明確化や損失繰越の導入を通じて公平性・中立性を高める点にあります。これにより、個人投資家の参入を促進し、Web3産業の育成や国際的な競争力の強化につなげることが期待されており、本改正は暗号資産税制の転換点となる可能性があります。
2.現行制度
暗号資産で得た所得は、原則として「雑所得」に区分されており、年間20万円を超える場合には確定申告が必要になります。
雑所得は、給与所得など他の所得と合算して納税する「総合課税」の対象となります。そのため、所得金額に応じて所得税率は5%から45%まで段階的に上昇し、住民税を合わせると最高税率は55%に達します。暗号資産は価格変動が大きいため、売却益が一時的に膨らむと税率が上がり、税負担が急増するという問題が指摘されてきました。
暗号資産の売却や他の暗号資産への交換、商品・サービスの支払いに使用したことによって生じた利益が課税対象となります。日本円への換金に限られない点には注意が必要です。
所得金額は、売却価額から取得価額および必要経費を差し引いて算出します。取得価額の計算方法には「移動平均法」と「総平均法」があり、原則は移動平均法ですが、継続適用を条件に総平均法を選択することも可能です。どの計算方法を選ぶかによって税額が変わるため、慎重な検討が求められます。
3.改正により分離課税へ
与党税制調査会が公表した税制改正大綱では、暗号資産(仮想通貨)取引に関する課税の在り方について、現行の総合課税から申告分離課税へ移行する方向性が示されました。投資家保護を前提とした制度整備が進むことを条件に、暗号資産を株式等の金融商品と同様に位置づけ、分離課税とすることが検討されています。
税制大綱における分離課税化の狙いは、税制の公平性と予見可能性を高め、投資環境を整備する点にあります。総合課税では、暗号資産の価格変動によって一時的に大きな利益が生じた場合、所得税率が急激に上昇し、住民税と合わせて最大55%の高率課税となる可能性がありました。また、株式投資とは異なり、損失繰越控除が認められていないことも、投資家にとって大きな不利となっていました。こうした点が、個人投資家の参入や市場の健全な成長を妨げてきたとの認識が背景にあります。
申告分離課税が導入されれば、一定の税率(所得税15.315%、住民税5%)で他の所得とは切り離して課税されるため、税負担が明確になります。加えて、株式等と同様に損失繰越控除が認められる可能性があり、長期的・安定的な投資がしやすくなる点が大きなメリットです。税制面での不利が緩和されることで、個人投資家の参入促進や市場の流動性向上が期待されるほか、Web3関連産業の育成や国際的な競争力の強化にもつながると考えられています。
一方で、デメリットや課題も指摘されています。分離課税化により税負担が軽減されることで、短期的な投機的取引が活発化する懸念があります。また、暗号資産は価格変動が激しく、取引形態も多様であるため、適正な課税や損益計算をどこまで制度として整理できるかが課題となります。
このように、暗号資産の申告分離課税化は、税制の合理化と投資環境の改善という大きなメリットを持つ一方で、市場の健全性や制度運用面での課題も併せ持っています。今後は、投資家保護とイノベーション促進の両立を図りつつ、実態に即した制度設計が行われるかどうかが重要なポイントとなります。
4.改正点のまとめ
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分離課税
金融商品取引業者登録簿に登録された暗号資産取引業者に対し、特定暗号資産を譲渡した場合の譲渡所得等は、他の所得と分離して課税され、税率は20.315%となります。 -
損失の繰越控除
特定暗号資産の譲渡によって生じた損失のうち、その年の譲渡所得等から控除しきれない金額については、一定の要件の下で、翌年以後3年間にわたり特定暗号資産の譲渡所得等から繰越控除することが可能となります。 -
総合課税となる暗号資産の取扱い
分離課税の対象外となる暗号資産については総合課税が適用されますが、50万円の特別控除や長期譲渡所得の2分の1特例は適用されず、損失についても他の総合課税所得との損益通算は認められません。 -
適用時期
金融商品取引法の改正法の施行の日に属する年の翌年の1月1日以後に行う特定暗号資産の譲渡等について適用されます。
津田 亜希
税理士

