文化講座
珍奇植物の楽しみ
突然変異などにより、花や葉、茎、枝などが通常とは違った形態をしている植物が見つかっています。そのなかでも特に変異が大きく形が面白く珍しいものを珍奇植物と呼んでいます。
江戸時代(1603~1867)後期になりますと、園芸ブームも一層盛んになり、花の美しさだけでは満足できなくなった人達が見た事もない変異種を、珍重して楽しむようになりました。
文政十年(1827)に出された「草木奇品家雅見」(そうもくきひんかがみ)は、千種を超える変わり物を紹介しており、当時の人気の高さが伺えます。
現在でも園芸愛好家の人気が高く、数多くの変異種が見いだされています。
どのような植物を珍奇植物と呼ぶかというのは明確な基準があるわけではないですが私なりに下記のように分けてみました。
- 標準タイプに比べ変異(変化)が2つ以上ある物。たとえば標準タイプが赤花の植物に白花が咲き加えて葉が斑入りになった物。2つ変異がある物を「二芸品」、3つ変異がある物を「三芸品」と呼びます。「三芸品」になりますと出現率が大変低く銘品としてコレクターに珍重される物が多いです。
- 標準タイプに比べ変異が著しく大きく、形態が特異な物。江戸時代に流行した変化朝顔や椿のランチュウ葉、ノキシノブの鈴虫剣など。「一芸品」でも変異に鑑賞価値がある物。
- 大変珍しい植物で、なおかつ形態が変わっている物(標準タイプですが特異な環境に適応し、特異な形態をしている物)。例としてナミブ砂漠に自生している「奇想天外」(ウエルウィッチア)、日本では東海地方に自生する食虫植物のヒメミミカキグサの岐阜県産(北限の産地)。岐阜県産のヒメミミカキグサの花は1ミリほどで、高さ1センチで髪の毛ほどの太さの茎に咲く姿は、まさに珍奇植物といってよいでしょう。
植物マニア歴40年の私も、最初は花の美しいエビネやウチョウランに熱中していましたが、徐々に葉変わりを楽しむようになってきました。現在は、ジャンルを問わず感動するような植物を求めてアンテナを張り巡らしています。ネットで検索しても見つからないような物が珍品ですね。
ここ数年斑入り植物のブームに続いて珍奇植物も人気がでてきました。皆さんも少し視点を変えてみる事により、植物の奥深さ面白さを楽しんで下さい。
ヒメミミカキグサ(岐阜県産)
極小の所が見所。葉は糸状で大変細く(長さ約5ミリ)ほとんど確認できない。
カラタチ・雲竜「香の煙」(こうのけむり)
枝が雲竜(曲がりくねっている)で葉も糸状に変化している。
あたかも、お香の煙が立ち上っているように感じられる「二芸品」。
イチョウ・ロート葉
ロート状になった葉が珍しい。
杉石化斑入り「目白杉」(芽白杉)
杉の枝が板状に変化し、なおかつ新芽が白く出る「二芸品」。
新芽が白い「冠雪杉」の枝変わりと思われる。
椿・ランチュウ葉「梵天」
金魚葉椿の中から枝変わりを選抜固定した物。葉裏にロート状の葉を出す。
ランチュウの尾びれのように見えるとの事でランチュウ葉と呼ばれる。
白花一重、他に赤花もあります。
ノキシノブ・鈴虫剣「鬼面童子」
葉の先がトゲ状になっているものを、鈴虫のメスの産卵管に見立てて「鈴虫剣」と呼ばれています。同様の葉変わりは、アオキ・椿などでも知られています。
黒松「折鶴松」
葉先がカギ状に変化した松。
古い品種ですが現在はあまり増やされてなく珍しい。
黒松「一葉松」
名前の通り葉が2本に分かれていない。拡大すると良く分かります。
一目みて葉が太くて丸いと感じます。赤松にも同様の変化葉があります。
黒松「紅孔雀」
秋までは白い斑入りの「蛇の目松」に見えますが寒くなると紅葉する松。
愛知県一色町の盆栽農園で実生の中から見つかりました。(60年ほど前)
福寿草「三段咲き」
福寿草の変化花。
セッコク「紅炎」(こうえん)
斑入りの中斑(葉の中心に斑が入る)になると軸(茎)が黄色(アメ矢)になります。
中斑の場合は白花になるのが普通ですがこの個体は紅花が咲きます。
斑入り・アメ矢(飴矢)・紅花の「三芸品」。一つ残念な事は、外見の形状はセッコクですが洋ラン(デンドロ)の交配種だと思われます。
植物の知識が広がる講師HP:
Flowery Hill http://floweryhill.net/