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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

私たちの身体と栄養(22)生殖器

2024年9月からは「私たちの身体と栄養」というテーマを取り上げています。私たちの身体には、心臓や肝臓、筋肉などのさまざまな臓器があり、臓器を作るための細胞が存在します。臓器や細胞は、協調してはたらき、私たちの生命や健康を維持するために機能しています。また、私たちが食べたものは、消化吸収された後、全身に運ばれて細胞や臓器がはたらくためのエネルギーとなります。本シリーズでは、身体の仕組みと栄養との関連について、解説していきます。前回は、尿を作るだけでなく、体内の水分バランスおよび血圧の調整や健康な骨の維持にも重要な腎臓について解説しました。今回は、生殖器について取り上げます。

【生殖器】

生殖器とは、子孫を残すために必要な器官の総称です。女性と男性では構造も役割も異なります(図1)。

女性では、卵巣で卵子が作られるとともに、女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンが分泌されます。卵子は卵管を通って運ばれ、受精した場合には子宮に着床して胎児が育ちます。膣は赤ちゃんの通り道となるほか、外界と子宮をつなぐ役割を担っています。女性の生殖器は、骨盤の中におさまっており、子宮の前には膀胱が、後ろには直腸があります。

男性では、精巣で精子が作られるとともに、男性ホルモンであるテストステロンが分泌されます。アンドロゲンは男性ホルモンの総称で、その95%を占める代表的なホルモンがテストステロンです。作られた精子は精管を通って運ばれ、前立腺などで作られる分泌液と混ざって精液となります。

このように生殖器は、卵子や精子を作るだけでなく、身体の働きを調節するホルモンを分泌する内分泌器官としての役割も担っています。

図1. 生殖器の構造と役割

生殖器は、性別によって構造や役割が異なる。卵子や精子を作り、新しい命をつなぐための器官であるだけでなく、内分泌器官として性ホルモンの分泌を担っている。

【女性生殖器の役割】

女性の生殖器の中心は卵巣です。卵巣では卵子が作られ、精子と受精すると受精卵となり、新しい命の始まりとなります。卵巣では、女性ホルモンも作られます。代表的なのは、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)です。

脳下垂体から分泌される卵胞刺激ホルモン(「私たちの身体と栄養 (18) 視床下部・脳下垂体」参照)の刺激によって卵巣にある卵胞のいくつかが大きくなると、ここから卵胞ホルモンであるエストロゲンが分泌されます。これにより、卵子が成熟し、子宮内膜が増殖します。エストロゲンの分泌量が増えると、脳下垂体から黄体形成ホルモンが分泌され、卵胞から卵子を押し出します。卵子が出た後の卵胞の抜け殻は、黄体と呼ばれます。黄体から黄体ホルモンであるプロゲステロンが分泌されると、子宮内膜を肥厚させ、受精卵を受け入れる準備を整えます。

エストロゲンは、子宮内の環境を変化させるだけでなく、骨吸収を抑制して骨密度を保つことや、血管をしなやかに維持して動脈硬化を抑制することが知られています。また、コラーゲンやエラスチンの生成を促進して肌の弾力を維持したり、ヒアルロン酸の量を増やして皮膚に潤いをもたらしたりします(「私たちの身体と栄養 (5) 皮膚」参照)。さらに、エストロゲンは脳に作用して、記憶力の維持、気分の安定、自律神経の調整にも関わることが明らかになってきています。

女性ホルモンは性(月経)周期に合わせて大きく変動しており、この時期には身体や心の不調が現れやすくなります。例えば、月経前にプロゲステロンの影響でむくみや眠気、だるさ、気分の変化が起こることが知られています。また、更年期には卵巣機能の低下によってエストロゲンの分泌が大きく揺らぎながら減少するため、ほてりや発汗、動悸、気分の落ち込みなど、さまざまな不調がもたらされます。

さらに閉経後には、エストロゲン分泌が大きく減少するため、骨粗鬆症や動脈硬化のリスクが高まりやすくなります。このことからも、女性ホルモンは生殖だけでなく、全身の健康維持に重要な役割を果たしていることがわかります(図2)。

【男性生殖器の役割】

男性の生殖器の中心は精巣です。精巣では精子が作られ、卵子との受精により受精卵となります。精巣では、男性ホルモンであるテストステロンも作られます。テストステロンは、筋肉量や骨量の維持、赤血球の産生を支えるほか、やる気や意欲を支えるなど、多くの働きを担っています。ものごとに対する積極性や攻撃性とも関係があると考えられています(図2)。

思春期になるとテストステロンの分泌が増え、声変わりや筋肉の発達など、身体の変化が起こります。加齢とともにテストステロンは少しずつ減少し、疲れやすさや筋力の低下、気分の落ち込みにつながることがあります。

図2. 性ホルモンの分泌と役割

生殖器で作られる性ホルモンは、視床下部、脳下垂体からの刺激を受けて卵巣または精巣から分泌される。生殖機能の他に、身体や脳の機能を制御するためのホルモンとして作用する。

【栄養との関連】

性ホルモンは、脂質の一種であるコレステロールを材料として作られます。脂質はカロリーが高く、コレステロールは悪者と考える人は少なくないと思いますが、ホルモンの材料として、また私たちの身体を作る細胞の構成成分として、必要なものです。脂質の摂り過ぎに注意しつつ、バランス良く脂質を摂取することが大切です(「老いるオイルと老いないオイル」シリーズ参照)。

亜鉛は、男性の生殖機能との関わりがよく知られています。不足すると、精子の質の低下につながる可能性があります。亜鉛は、牡蠣や赤身の肉、大豆製品などに含まれます。

女性は月経によって鉄分不足になりやすく、貧血や疲労感につながります。鉄分を多く含む食品には、カツオやマグロなどの赤身魚、レバー、牛肉、貝類、青菜、豆類、海藻類があります。魚や肉などの動物性食品に含まれる鉄は「ヘム鉄」と呼ばれ、植物性食品に含まれる鉄「非ヘム鉄」と比べて体内への吸収率が高いです。非ヘム鉄は吸収率が低いですが、良質なタンパク質やビタミンCを多く含む食品を一緒に食べることで、鉄の吸収を高めることができます。

極端な体重減少や肥満は、ホルモンバランスを乱し、生殖機能や心身の不調につながることがあります。十分な栄養と、適切な体重の管理に気をつけましょう。

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