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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第57回 老いるオイルと老いないオイル(8)トランス脂肪酸

第50 回から始まった新しいシリーズ「老いるオイルと老いないオイル」では、脂質について基礎から詳細に知り、ご自身の食生活にどう活かせるか、考えていきます。

シリーズ8回目は、健康への悪影響が懸念されているトランス脂肪酸について解説をします。

【トランス脂肪酸】

トランス脂肪酸は、不飽和脂肪酸の一種で、トランス型の二重結合を有します。トランス型の脂肪酸は、不飽和脂肪酸に含まれる二重結合をはさんだ水素が反対側についている構造をしています(図1参照)。例えば、炭素18 個、二重結合1 個を含む脂肪酸は、シス型のオレイン酸が一般的ですが、牛や羊などの反芻(はんすう)動物の脂肪や牛乳などの乳製品にはトランス型のバクセン酸が含まれることが報告されています(図1 参照)。また、二重結合を2個含むリノール酸からは理論上3つのトランス脂肪酸、二重結合を3個含むα-リノレン酸からは7つ、二重結合を5個含むEPA からは31 個、二重結合を6個含むDHA からは63 個ものトランス脂肪酸が理論上はできると考えられます。

図⒈ 不飽和脂肪酸の構造 ー シス型とトランス型
天然に存在する不飽和脂肪酸は、ほとんどがシス型(左)であるが、一部の動物や加工した脂質にトランス型(右)が含まれることがある。炭素数18 個、二重結合1個を有する脂肪酸は、シス型のオレイン酸が一般的であるが、反芻動物の脂肪や牛乳などの乳製品にはトランス型のバクセン酸が含まれる。食品加工によってできる理論上のトランス脂肪酸は多種存在する。

(天然に存在するトランス脂肪酸)
天然に存在する不飽和脂肪酸のほとんどはシス型という形で存在していますが、牛や羊などの反芻動物では、胃の中で微生物の働きによってトランス脂肪酸が作られます。そのため、牛や羊の肉、牛乳などの乳製品には微量のトランス脂肪酸が含まれています。

(食品加工により作られるトランス脂肪酸)
天然に存在するトランス脂肪酸は限られているものの、油脂を加工あるいは精製する過程、すなわち、常温で液体の脂質(不飽和脂肪酸)から半固体、あるいは固形の脂質を作り出すときに水素添加という硬化処理を行ったり、臭いや不純物を除去するために高温で加熱して脱臭したりする際に、副産物として多種類のトランス脂肪酸ができることがあります。

食品加工によって作られるトランス脂肪酸は、マーガリンやショートニング、また、それらを原料に使った食品としてパン、ケーキ、ドーナツ、クッキー、スナック菓子、生クリームなどに含まれることがあります。

また、ファストフードの食品、フライドポテト、電子レンジ調理したポップコーンなどにも含まれることがあるとされています。一方、市販の揚げ物や冷凍食品を調査した平成28 年度の農林水産省の結果では、揚げ物の約7割、冷凍食品の約9割で、食品100g に含まれるトランス脂肪酸は0.3g 未満であり、消費者庁の基準ではトランス脂肪酸の含有量を「0g」と表示できるとしています。家庭で作る揚げ物などは、トランス脂肪酸はほとんど含まれていないとされています。

【トランス脂肪酸が健康に及ぼす影響】

欧米において実施された大規模研究では、トランス脂肪酸を多く摂取していた人は心血管疾患が増加することが報告されています(N Engl J Med 354: 1601-1613, 2006)。この背景として、トランス脂肪酸を多く摂取することによりLDL コレステロールが増加し、HDL コレステロールが減少すること、炎症性サイトカインが増加することが挙げられます。また、トランス脂肪酸の摂取と糖尿病や不妊、流産のリスク増加に相関があるともされています。さらに、65 歳以上のアメリカ人を対象にした試験では、トランス脂肪酸の摂取が多い人の方が、認知機能が低下することが報告されています(Neurology 62: 1573‒1579, 2004)。一方、多種存在するトランス脂肪酸のうち、どのトランス脂肪酸が心血管疾患を増加させるのかという詳細についてはわかっていません。また、がん発症との関連も明らかにされていません。

これらの知見は、主に欧米における研究成果に基づいており、日本人においてトランス脂肪酸の摂取が心血管疾患を増加させるかどうかは不明であるのが現状です。これは日本人が1 日に摂取するトランス脂肪酸の量が欧米人に比べて少ないからであり、実際、2007 年の食品安全委員会の報告では、アメリカでは全摂取カロリーにおける2.6%がトランス脂肪酸であるのに対して、日本では0.3~0.6%にとどまるとされています。しかし、日本人の中にも欧米人のトランス脂肪酸摂取量に近い人もいる可能性はあるため、なるべく摂取を控える方が良いと考えられます。

【トランス脂肪酸の規制】

トランス脂肪酸による健康への悪影響を踏まえて、アメリカでは、加工食品1食あたりに含まれるトランス脂肪酸量が0.5g を超える場合にはその量を表示することを2006 年より義務付けています。また、州によっては1食あたりのトランス脂肪酸量が0.5g 以下になるように義務化されていたり、そもそもトランス脂肪酸の使用を禁止していたりします。2018 年からは、食品への水素添加油脂の使用規制が始まっています。

アメリカの他、カナダやデンマーク、オーストリア、イギリスなどにおいても食品に含まれるトランス脂肪酸量の表示が義務化されていたり、摂取上限値が設けられていたりします。

一方、日本には表示義務はないものの、企業によってはトランス脂肪酸の含有量を表示していることもあります。また、自主的な努力によって、製法や原料を切り替えることにより、トランス脂肪酸を減らすような対策が進められています。農林水産省による調査によると、2006 年から2014 年までの8 年間において、加工食品におけるトランス脂肪酸の含有量が少なくなったことが確認されています。

トランス脂肪酸や飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置き換えることによって、人体に対する悪影響を改善することができるとされているため、脂肪酸のバランスを考慮し、いま一度、食生活を見直してみましょう。

【多価不飽和脂肪酸を積極的に摂る 参考レシピ・カツオの韓国風カルパッチョ】

カツオの旬は年に2 回、3~5月と9~11 月に迎えます。カツオを使って韓国風カルパッチョにしてみてはいかがでしょう。

(材料:4人分)

  • カツオ(刺身用・皮なし・柵取り) 270g
  • きゅうり             1 本
  • 白ネギ              15cm程度

調味料A

  • しょうゆ           大さじ2・1/2
  • ごま油            大さじ1 弱
  • コチュジャン         大さじ1 弱
  • 砂糖             小さじ1
  • マヨネーズ          適宜
  • 松の実(炒る)        小さじ1~2
  • 糸唐辛子           適宜

(作り方)

  1. 1)カツオはごく薄く(刺身で食べるカツオの半分くらいの薄さ)に切ります。
  2. 2)きゅうりは千切り、ネギは白髪ネギにして水にさらします。
  3. 3)器に1)を敷き詰め、混ぜ合わせた調味料A を塗るようにしてかけ、マヨネーズを上にしぼります。
  4. 4)上にきゅうりとネギを飾り、松の実と糸唐辛子を添えます。

【まとめ】

今回は、不飽和脂肪酸の中でもトランス脂肪酸について解説しました。トランス脂肪酸は健康に対して悪影響があることが報告されており、飽和脂肪酸と併せて摂取を控えたい脂肪酸です。ファストフードや加工油脂、加工油脂を使ったスナック類を食べすぎないように気をつけましょう。

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