文化講座
第11回 腸から腸健康へ!
これまで、メタボリックシンドロームを中心に、それぞれの病気がどのように発症するのか、どうすれば予防できるのかということについて解説してきました。わたしたちの腸内にはたくさんの細菌が住み着いていますが、どの腸内細菌が多く住み着くかによって、太りやすさや病気の発症が決定されることが明らかになってきました。また、近年の研究から、腸内細菌が性格までも決定しているのではないかとも考えられています。たしかに「腹が立つ」「腹を決める」「腹黒い」など、「腹」がつく言い回しは多く、まるで昔の人は「腹」がわたしたちの心を決めているのを知っていたかのようです。そこで今回は、近年注目を集める腸内細菌について解説することにします。
【腸の役割】
腸には、小腸と大腸があります。わたしたちが食べ物を口にすると、口の中で噛み砕かれ、唾液中に含まれる消化酵素で分解されて胃に運ばれます。胃ではさらに消化酵素によって食べ物が分解され、流動状になります。その後、小腸に運ばれるとさらに消化されるとともに、食事中から摂ったほとんどの栄養素は小腸から吸収されます。食べ物の残りかすはドロドロの状態ですが、大腸に運ばれて小腸で吸収しきれなかった栄養素と水分が体に取り込まれることによって固形状になり、便として排泄されます。このとき、健康な大腸は「蠕(ぜん)動運動」という、縮んだり緩んだりする運動をすることによって、作られた便をスムーズに押し出していくのです(図1)。
【わたしたちと共生する腸内細菌】
わたしたちの腸内には、3万種類以上、100~1,000兆個以上の腸内細菌が生息し、それらは重さにすると1.5~2kgにもなります。なかでも小腸の終わりあたりから大腸にかけては、様々な腸内細菌が種類ごとに密集して存在しており、その様子がまるでお花畑のようであることから「腸内フローラ」と呼ばれています。
3万種類以上も存在する腸内細菌は、善玉菌、悪玉菌、日和見菌の大きく3つに分類して理解されます(図2)。善玉菌は、その名の通り、わたしたちの体にとって良い役割をしているもの。悪玉菌の増殖を抑えて、免疫能を向上させたり、エネルギー代謝を活発にして太りにくい体を維持したり、ビタミンを作ったりします。一方、悪玉菌は、腸内を腐敗させてガスや有害物質を作り出します。そのため、便やおならが臭くなります。善玉にも悪玉にも分類されず、どちらにもなりうるのが日和見菌です。善玉が優勢に働いているときには日和見菌は善玉の応援をしますが、体調を崩したときには悪玉として働くので、善玉を優勢にして味方につけたい菌です。
善玉菌:悪玉菌:日和見菌の割合は、理想的には3:1:6だと言われていますが、体調不良や寝不足、精神的ストレス、食べ過ぎ、栄養バランスの偏り、飲酒などによって腸内細菌のバランスは崩れてしまいます。短期間で腸内細菌のバランスが劇的に変わることはないですが、不規則な生活や食事バランスの乱れが続くと、少しずつ変化してきて、最終的に体に不調をきたすことになります。
【腸内環境の変化に伴う体への影響】
近年の腸内細菌研究によって、腸内細菌は、わたしたちが食事中から摂った栄養素を使って生活していること、その過程で作られる様々な物質が、わたしたちの体に影響をもたらしていることが明らかになってきました。例えば、ビフィズス菌などの善玉菌は、食物繊維やオリゴ糖を使って短鎖脂肪酸を作り出します。この短鎖脂肪酸は、脂肪組織に働いて脂肪の蓄積を抑制し、エネルギー代謝を活発にして太りにくい体を作るような作用があるため(第10回「老いるオイルと老いないオイル(2)」参照)、ヨーグルトなどの発酵食品や食物繊維を摂ると良いというわけです。太っている人にはこのような善玉菌が少なく、実際、太った人と正常体重の人から腸内細菌を採ってきて、マウスに移植すると、太った人の腸内細菌を移植したマウスは太りやすく、正常体重の人の腸内細菌を移植したマウスは太らないという結果が実験的に得られています。
では、人でも痩せている人の腸内細菌を移植すれば痩せるのではないか?と思われるかもしれません。実は、 一部の病気の治療では、糞便移植という方法が使われています。腸内細菌は糞便中にたくさん出てきますので、健康な人の便を採ってきて、治療を受けたい人に移植するのです。潰瘍性大腸炎やクローン病といった大腸炎の治療法として、一部の大学病院などで行われています。
この他、腸内環境が感染やガン、うつ病などの発症にも関わっていることがわかってきており、腸内環境を整えることが健康維持にいかに重要であることかがうかがえます。
【便は健康のバロメーター】
では、自分の腸内環境が健全なのかが気になるところです。最近では、検便と同様、糞便を業者に送って腸内細菌バランスを検査してもらうことが可能です。腸内細菌の多様性、善玉菌:悪玉菌:日和見菌のバランス、体に良いとされる細菌がどの程度いるか、などを調べてもらえます。
もっと簡便な方法は、毎日自分の便がどんな状態であるかをチェックすることです。健康で腸内環境が良ければ、便は黄土色から茶褐色で、それほど臭くありません。いきまなくても自然にバナナ1~1.5本分くらいが出るのが理想的です。一方、不健康で腸内環境が乱れている人の便は、濃い褐色で刺激臭が強く、太くて短い、あるいはコロコロとした形状をしています。これは、腸の蠕動運動が不十分で、便が腸を通過する時間が長いほど濃い色になり、腸内に酸化物が多く異常発酵するためです。毎日の健康状態を知るためにも、定期的にチェックすることが最も簡便で確実だと言えます。
腸内環境を整えるために、暴飲暴食を控え、なるべく栄養バランスの良い食事を摂るように心がけましょう。肉類をたくさん食べ過ぎると、腸内環境が乱れます。魚や豆腐、卵など、タンパク質をいろんな食品から摂ると良いでしょう。また、野菜をたっぷり食べ、食物繊維を摂ることを意識しましょう。食物繊維は野菜に偏らず、こんにゃくや海藻類からも摂るのが理想的です。
腸内環境を健全に保ち、腸から超健康になりましょう!
【腸内環境を整える献立例】
根菜カレー
レンコン、にんじん、ごぼう、里芋を入れたカレーです。和食材が多いので、かつおと干し椎茸でだしをとり、戻した干し椎茸もカレーに入れると良いでしょう。豚薄切り肉を入れると美味しさがアップします。
- (栄養のポイント)
- 根菜類には食物繊維が多く含まれているので、腸内環境が整い、便通がスムーズになるでしょう。
- カレーに合わせるご飯は雑穀米にすると、味も美味しく、食物繊維やビタミンを併せてとることができます。
黒酢玉ねぎドレッシングのサラダ
レタス、きゅうり、トマトなどを盛り合わせたシンプルなサラダに、粗みじん切りした新玉ねぎ、しょうゆ、黒酢、砂糖、塩、オリーブオイルで作ったドレッシングをかけて食べます。
- (栄養のポイント)
- 酢は発酵食品です。
- 玉ねぎに含まれるアリシンは血流を良くし、高血圧や動脈硬化を予防しましょう。
- 玉ねぎに含まれるビタミンB群や酢は、疲労回復硬化もあります。
キウイのラッシー
キウイ、プレーンヨーグルト、牛乳、はちみつをミキサーで混ぜた冷たい飲み物です。
- (栄養のポイント)
- ヨーグルトには善玉の腸内細菌を増やす効果や、免疫能をアップする力があります。
- 人によって合うヨーグルトが異なります。ひとつのヨーグルトを1週間から10日間程度食べ続けて、調子が良くなれば、そのヨーグルトを日々の食生活に取り入れると良いでしょう。