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文化講座

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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第32回 家庭でできる花粉症対策

冬の終わりから春にかけて、花粉症に悩まされる人は多いのではないでしょうか。花粉症はスギなどの花粉が原因となって起こるアレルギー疾患のひとつで、年々花粉症の患者さんは増加しています。何ヶ月にもわたって日常生活や気分に大きく影響するからこそ、できるだけその症状を抑えたいもの。花粉症の症状が出る前に、家庭でできる花粉症の対策をご紹介します。

【花粉症とは】

花粉症は、スギなどの花粉を吸い込むことによって、くしゃみや鼻水、鼻づまり、目のかゆみ、涙、皮膚や喉のかゆみ、下痢、熱っぽさなどの様々なアレルギー症状を起こす病気で、季節性アレルギー性鼻炎とも呼ばれます。日本では、花粉症の約70%がスギ花粉症だと推察されています。これは国土におけるスギ林の面積が多いためです。スギの他にはヒノキやイネ、ブタクサなど、50種類以上もの植物が花粉症を引き起こすとされています。北海道にはスギ花粉飛散は極めて少なく、沖縄にはスギが生息しません。一方、関東や東海地方ではスギ花粉症の患者さんが多くみられます。

植物によって花粉が飛散する時期が異なり、スギやヒノキに対するアレルギーを持っている人は冬から春にかけて、イネの場合は春から秋、ブタクサの場合は秋に症状がみられます(図1)。2020年の花粉飛散量は、過去10年の平均花粉飛散量と比較すると30%程度少なくなる地域が多いと見込まれていますが、自身の花粉症原因植物とその花粉が飛散する時期を知り、早めに対策する必要があります。

【どうして花粉症が起こるの?】

わたしたちの体には、害をもたらす異物を排除するシステム「免疫」が備わっています(第12回「わたしたちの体を守る免疫」参照)。花粉症の場合には、体が花粉を害のある異物だと認識したことによって、免疫反応が過剰に起こってしまいます。

体に侵入してくる異物を「抗原」といい、特にアレルギーを引き起こす抗原のことをアレルゲンといいます。鼻や目から花粉が体内に入ってくると、体の中ではマクロファージなどの免疫細胞が花粉を抗原と認識し、T細胞やB細胞などの免疫細胞を活性化する結果、B細胞から花粉に対する抗体が作られ、肥満細胞に結合します。再び体内に抗原が入ってくると抗原は抗体と結合し、肥満細胞を刺激、肥満細胞からはヒスタミンなどのアレルギー誘導物質が放出されて、花粉症の症状が出てしまいます(図2)。すなわち、花粉を異物だと認識して免疫が過剰に反応してしまう体質の人に花粉症が起こりやすいというわけです。

【医療機関で行われる花粉症治療】

花粉症の治療には、症状を抑える「対症療法」と、完全に治すための「根治療法」があります。

(対症療法)

花粉症の症状を抑えるための対症療法には、点眼薬、点鼻薬などによる局所療法、内服薬による全身療法、レーザーなどによる手術などがあげられます。

  • 薬剤療法
    アレルギー症状を誘発するヒスタミンやロイコトリエンという物質の働きを抑制するような、抗ヒスタミン薬や抗ロイコトリエン薬、化学伝達物質遊離抑制薬などの抗アレルギー薬や、ステロイド薬を点眼薬、点鼻薬として局所的に作用させるような治療法があります。根本的な解決法ではないものの、辛いアレルギー症状を緩和することができます。
  • レーザー手術
    薬剤治療で十分な効果が得られず、特に鼻づまりの症状が強い場合には、レーザー手術を行うこともあります。鼻粘膜の表面に麻酔をかけ、粘膜にレーザーを照射して、アレルギーを起こす場所を少なくしてアレルギー反応を抑えるという治療法です。
(根治療法)

アレルギー症状を軽減する目的で行われる上記の対症療法とは異なり、根本的な治療が目的の根治療法では、アレルゲン免疫療法への期待が高まっています。この治療法では、アレルゲンをごく少量から体内に取り入れ、徐々に増やして免疫を慣れさせ、アレルギー症状を和らげることを目的としています。治療には3年程度、症状によって5年程度かかりますが、花粉症が治り得る唯一の治療法ともいわれます。

これまでは、医療機関で注射してもらう「皮下免疫療法」しかありませんでしたが、最近では、舌の下に治療薬を毎日入れる「舌下免疫療法」の治療薬が使えるようになり、頻繁に通院しなくても自宅で服用できる方法が可能となっています。

【家庭でできる花粉症対策】

いろいろな治療が可能になってきているものの、毎日のことと考えると家庭で簡単に取り組めることから始めたいもの。セルフケアで大切なことは、花粉との接触をできるだけ避けるということです。次のことに気をつけるとよいでしょう。

  • 花粉の飛散情報に注意する
  • 花粉が多く飛んでいる日は窓を開けない
  • 花粉が多く飛んでいる日は布団を外に干さない(干すなら飛散量の少ない午前中に)
  • 花粉が多く飛んでいるときは外出を控える
  • 外出時には、マスクやメガネを使う
  • 上着は凹凸が少なく、表面がツルツルとした素材のものを選ぶ
  • 帰宅後は、衣服や髪をよく払ってから入室し、洗顔やうがいをして、鼻をかむ
  • 部屋の掃除をこまめにする
  • 喫煙は粘膜を傷つけるため、控える
  • ストレスをためないようにする
  • 睡眠時間を十分にとり、規則正しく生活する
  • 食事はバランスよくとる

【食事のポイント】

花粉症は、これを食べれば治るという食品は明らかにされていませんが、毎日の食事に取り入れると良いと考えられている食品があります。

(発酵食品)
腸内環境を整えるために、納豆や味噌、ヨーグルトなどの発酵食品を食べましょう。特に、納豆、ヨーグルト、チーズやキムチ、ぬか漬けなどの乳酸菌が豊富に含まれる食品には、わずかながら花粉症の症状を緩和する効果があると指摘されています。

(食物繊維を含むもの)
発酵食品と同様、食物繊維は腸内環境を整えることにより、免疫バランスを整え、アレルギー症状を抑える可能性が指摘されています。野菜、果物、根菜類や海藻類、こんにゃくなどの食物繊維を含む食品を積極的に食べましょう。

(魚)
脂質の質は、アレルギー症状に大きく影響するといわれています。揚げ油や炒め物油に含まれるオメガ6系の脂質を減らして、魚の油に含まれるオメガ3系の脂質を増やすよう、心がけましょう。

オメガ6とオメガ3を食べる比率は4:1程度が理想的ですが、現代人のわたしたちは10:1~50:1の割合でオメガ6の摂り過ぎているといわれています(図3)。オメガ6を摂り過ぎによって、免疫システムのバランスが崩れ、アレルギーを発症しやすくなることが報告されているので、なるべく揚げ物や炒め物を控えて、魚を食べるようにすると、脂質のバランスが改善され、アレルギー体質も改善する可能性が期待されます。

一方で、脂身の多い肉類、揚げ物などの高脂肪のものや菓子類、飲酒は花粉症を悪化させる可能性があるので、控えるようにすると良いでしょう。

【花粉症軽減のための献立例】

アジの南蛮漬けとアジの骨フライ

3枚に卸したアジの身の部分は小麦粉をまぶして揚げます。千切りにした玉ねぎや赤パプリカ、にんじんと揚げたアジに、煮立てた酢、しょうゆ、みりん、酒をかけ、冷やして味をなじませます。

3枚卸しにした骨の部分は塩こしょうと小麦粉をまぶして揚げると骨フライせんべいとして食べられます。

(栄養のポイント)
青魚にはオメガ3脂肪酸が多く含まれます。
春から夏にかけて旬を迎えるアジは、脂がのって美味しく食べられます。脂がのっているということは、オメガ3脂肪酸も多いということ。旬の魚は旬に食べるのが栄養価としても良いのです。
骨の部分もせんべいにして食べることで、無駄なく食べられ、カルシウムを補給することもできます。
花粉症の方には揚げ物は控えたいところですが、魚フライであれば、オメガ6とオメガ3のバランスも偏り過ぎることがなくて良いでしょう。
いなり寿司

熱湯で油抜きした油揚げを煮ておきます。別鍋で細かく刻んだ干ししいたけやにんじん、ツナ缶、黒ごまなどを煮ておき、酢飯に混ぜたものを油揚げに詰めていなり寿司にします。

(栄養のポイント)
いなり寿司は、中に詰める酢飯を白米だけでなく、煮た野菜を入れることがポイントです。そうすることで、野菜を一緒に食べることができます。
野菜を混ぜることで、炭水化物の食べ過ぎを防ぐこともできます。
なめことねぎのかき玉汁

かつおだしに洗ったなめこを入れ、塩、しょうゆ、みりんで味付けし、溶いた卵と刻んだねぎを入れて吸い物にします。

(栄養のポイント)
なめこには食物繊維が豊富に含まれます。
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