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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所助教・中日文化センター講師
医学博士・食医学者 伊藤 パディジャ 綾香

第50回 老いるオイルと老いないオイル(1)私たちの健康に不可欠な脂質

前回までは、「世界の食に学ぶ健康長寿の秘訣」について、1年間にわたり取り上げました。
今回からは、「老いるオイルと老いないオイル」というシリーズで、脂質について解説していこうと思います。近年、「良質な油を選びましょう」「オイルの質」と頻繁に聞かれるようになり、単に油の量を減らせば良いというものでなく、質が大切だということが広く知られるようになりました。

第9回、第10回でも脂質についての解説をしましたが(第9回「老いるオイルと老いないオイル」第10回「老いるオイルと老いないオイル(2)」参照)、今一度、脂質について基礎から詳細に知り、ご自身の食生活にどう活かせるか、考えていきたいと思います。

【脂質?オイル?油?何が違う?】

脂質と言ったり、オイルと言ったり、一体何がなんなの?と疑問に思われる方もいらっしゃることと思います。脂質とは、水に溶けない生体成分の総称。中性脂肪、糖脂質、リン脂質、コレステロールなどがあり、これらを構成するための重要な要素として脂肪酸があります。私たちの体に関わるものに限定すると、脂質は、食べ物から摂取する脂質と、私たちの体の中に存在する脂質に分けることができるでしょう(図1)。

食事由来の脂質は、オイルあるいは油脂とも呼ばれます。油脂は、サラダ油やごま油のように常温で液体のものと、バターや肉の脂身のように常温で固体のものに分けられます。前者の常温で液体のものは、主に植物性の脂質であり、「油」と言います。一方、後者の常温で固体のものは、主に動物性の脂質であり、「脂」と区別することができます(図1)。

図1.脂質とは
私たちの体に関わる脂質には、食事から摂取する脂質と、私たちの体内に存在する脂質があります。食事由来の脂質には、常温で液体の「油」と、常温で固体の「脂」が存在し、合わせて「油脂」と呼ばれます。
私たちの体内にも様々な形で脂質が存在します。

【私たちの体内に存在する脂質】

では、私たちの体内にはどんな形で脂質が存在するのでしょう?体内にも、コレステロールや中性脂肪、リン脂質、脂肪酸など、様々な形で存在しています。皮下脂肪や内臓脂肪、肝臓などの臓器に中性脂肪やコレステロールとして脂質が蓄積されていることもあれば、血液検査を受けると、コレステロール、LDL(いわゆる悪玉)コレステロールやHDL(いわゆる善玉)コレステロール、中性脂肪の濃度を測定するように、血液中に存在することもあります。

私たちの体は60兆個もの細胞で作られていますが、これらひとつひとつの細胞の膜にもたくさんの脂質が含まれます。細胞膜は脂質の二重膜とタンパク質でできています(図2)。

図2.私たちの体を構成する細胞膜
細胞の膜はリン脂質が2層になった、脂質二重膜構造をしており、間にコレステロールやタンパク質が埋め込まれたような構造をとっています。

【食べる脂質と体内の脂質、何が違う?】

食事で摂取する脂質は、主にトリアシルグリセロール(=中性脂肪)の形で私たちの体に取り込まれます(図3)。トリアシルグリセロールは、1つのグリセロールと3つの脂肪酸が結合した状態のものです。体内の消化酵素で分解されて、1つのグリセロールと3つの脂肪酸にバラバラにされるときにたくさんのエネルギーを生じ、私が体を動かすために必要なエネルギーとなります。

運動不足でエネルギーを必要としないとき、あるいは脂質をたくさん摂り過ぎて余剰になってしまうと、グリセロールと脂肪酸3つが再結合して、トリアシルグリセロールに再び形を変え、体の中に貯蓄されます。

近年よく耳にする「オイルの質」「油の質」の「質」は、トリアシルグリセロールに含まれる脂肪酸によって決まります。この詳細は次回以降、じっくりと説明していくことにしましょう。

図3.食事由来の脂質と体内の脂質の関係
食事由来の脂質は主にトリアシルグリセロール。1つのグリセロールに3つの脂肪酸が結合しています。体内の消化酵素によって、バラバラに分解され、エネルギーとして私たちの運動や生命維持に利用されます。使われず、余剰となるとトリアシルグリセロールの形に戻されて体内に蓄積されます。

【私たちの健康に欠かせない脂質】

これまで、脂質や油は体に悪いものと考え、脂質の摂取量を少なくすることが体重の維持や健康の維持に必要だと考えられてきました。しかし、私たちの体を維持していくためには脂質は欠かせません。私たちの体にとって、脂質はどのように重要なのでしょうか。

①脂質はエネルギー源
脂質は、炭水化物やタンパク質と同様に、私たちの体にとって必要なエネルギーを産生するための重要な栄養素のひとつです。炭水化物やタンパク質は1gあたり4kcal(キロカロリー)のエネルギーを作り出すのに対し、脂質はその2倍、すなわち、1gあたり9kcalものエネルギーを作り出すことができます。

エネルギーとは、私たちが動くために、あるいは生命を維持するために必要な活動源です。活動量に応じて、成人男性では1日あたり2300~3000kcal、成人女性では1日あたり1700~2200kcalのエネルギーを必要とします。動いていなくても、寝ていても、心臓は動いていますし、呼吸をすることによって肺が使われたり、食べたものを消化するために消化器官が使われたりしますので、エネルギーは必要であり、脂質はそのエネルギー供給源として重要な役割を果たしています。

②脂質は体温維持に必要
エネルギーを作り出すということは、熱を生み出しているということです。寝ている間にも汗をかきますが、これは脂質や炭水化物、タンパク質などの三大栄養素が燃えて熱を作り出しているからです。食事をした後、体がポカポカと温かくなるのも、食べたものを消化することによってエネルギーを作り出しているからです。

脂質が生み出すエネルギーは、炭水化物やタンパク質と比べると2倍以上になるため、体を素早く温める優れた栄養素と言えます。カナダ北部の先住民であるイヌイットは、アザラシなどの海の生物を食べて生活するため、脂質の摂取量がとても多いです。これは、寒い気候の中、体温を下げないような重要な栄養素であるからと考えられます。

このため、脂質を必要量摂取しておかないと、低体温になり、冷え性や体の不調をきたす可能性があります。

③脂質は脂溶性の栄養素の吸収を助ける
栄養素の中には、水に溶けやすい性質(水溶性)のものと、水には溶けにくいけれど脂質に溶けやすい(脂溶性)性質のものがあります。例えば、ビタミンの中でも、ビタミンBやビタミンCは水溶性であり、ビタミンA、D、E、Kは脂溶性です。脂溶性のビタミンは、脂質を共に摂取することで吸収率を高めるため、脂質の摂取量が不足すると、ビタミン欠乏になるリスクもあります。

食事を摂取すると、体内では胆汁酸が作られ、脂肪の消化吸収を補助します。この胆汁酸の原料になっているのは、コレステロール。栄養素を効率良く消化吸収するためには、体内にも一定量のコレステロールが必要だということです。

④脂質は体の細胞を構成する重要な因子
前述のように、私たちの細胞は脂質の膜に覆われており、細胞の内外は水で満たされています。細胞膜を構成する脂質二重膜の外側は親水性であるため、細胞内外の環境になじむことができますし、内側は疎水性なので、細胞の内外を遮断することができます。

脂質二重膜の主成分はリン脂質。水になじみやすい親水性部分に、水になじみにくい2つの脂肪酸が結合しています。どんな脂肪酸がどれだけ含まれるかによって細胞膜の硬さが変わります。この細胞膜の硬さは体温調節や、個々の細胞の機能調節においても重要な役割を果たすことが報告されています。

⑤脂質はホルモンを作る原料
脂質の中でもコレステロールは、私たちの体の維持に必要なステロイドホルモンと呼ばれる一群のホルモンの原料となります。ステロイドホルモンには、副腎皮質から産生される副腎皮質ホルモン(グルココルチコイドとミネラルコルチコイド)と、性腺から産生される性ホルモン(アンドロゲン、エストロゲン、プロゲステロン)があります。

グルココルチコイドは、ストレスを感じると作られ、ストレス応答を和らげるような作用を有します。ミネラルコルチコイドは体内の塩分と水分のバランスを調節、性ホルモンは生殖器の発育や発達、性周期を調節するホルモンです。

このため、コレステロールが不足し過ぎると、ストレスによる体調不良や体液バランスの乱れ、性周期の乱れがもたらされる可能性があります。

【まとめ】

脂質は私たちの健康維持には欠かせない、重要な栄養素です。もちろん食べ過ぎはいけませんが、食べないというわけにはいきませんし、過度の食事制限や体重減少によって体内の脂質を減らし過ぎることも危険です。次回は、脂質の質を決める脂肪酸の性質について解説します。

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