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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第16回 自律神経を整える

第11〜15回までは、免疫力(免疫を正常に作用させる力)を保ちながら体の健康を保つことの大切さについて解説し、腸内環境が免疫をはじめとする体の機能に大きく影響していること、腸内環境を整えるための代表的な食品として、発酵食品の魅力に迫りました。今回からは、神経の調節がわたしたちの健康に及ぼす影響について解説します。「自律神経を整える」と、よく耳にしますが、そもそも自律神経って何なのでしょう?

【神経について】

「神経」とひとことで言っても、たくさんの種類が存在し、大きく2つの分類方法があります。ひとつは、部位による分類。すなわち、神経細胞がたくさん集まっている脳や脊髄の領域を「中枢神経系」、脳や脊髄以外の場所を「末梢神経系」と分けることができます。もうひとつの分類は、機能による分類。すなわち、感覚や運動を司る「体性神経系」と、わたしたちの体を無意識的にコントロールする「自律神経」に分けることができます。では、今回のテーマである「自律神経」について、もう少し詳しく解説しましょう。

【自律神経とは】

自律神経は、「わたしたちの体を無意識的にコントロールする」と説明しました。例えば、離れたところにある物を手にしたいとき、その場まで歩いたり、腕を伸ばしたりしますが、そのときには意識的に足を動かしたり、腕を動かしたりしており、運動神経が働きます。一方で、自律神経は運動神経と異なり、意識によってコントロールできない神経です。交感神経と副交感神経があり、シーソーのようにバランスをとりながら、血管の収縮や血圧、心拍、腸のぜん動運動、発汗などをコントロールしています。

交感神経は「闘争と逃走の神経」といわれ、ストレスを感じているときや激しい活動をしているときに活発になる神経です。緊張していると、心拍が早くなり、筋肉が緊張し、手に汗をかくことがありますが、それは交感神経が活性化しているためです。病院に行って血圧を測ると、いつもより血圧が高くなるのは、緊張しているからでしょう。ストレスがたまると、交感神経が優位になりますが、この状態が長く続くと、健康を害する状態になることがあります(図1・上段)。

一方、副交感神経は、睡眠時やリラックスしているときに活発になる神経です。ソファに横たわり、テレビを観ているときには、心拍がゆったりとし、汗をかくこともなく、血圧も落ち着いているでしょう。副交感神経は、心や体を休息に導くための神経なのです。しかし、常に副交感神経が優位であると、免疫バランスが崩れて、アレルギーや細菌感染が発症したり、肥満になりやすくなったりと、弊害をもたらしてしまうこともあります(図1・下段)。

すなわち、適度な緊張感と休息、交感神経と副交感神経のバランスを上手に保つことが、健康に生きるための鍵となるのです。自律神経のバランスが乱れてしまうと、イライラしたり、鬱になったりと精神不安定になることもありますし、不眠や疲れ・だるさを感じやすくなることもあります。また冷え症、免疫力の低下、便秘や消化吸収不良がもたらされることもあります。女性であれば、女性ホルモンの乱れによって、月経前症候群や更年期障害が起こることもあります。これらはいき過ぎると、自律神経失調症と診断され薬を服用しなければならなくなることも。では、どうやって自律神経を整えることができるのでしょうか。

【自律神経バランスが乱れるのはなぜ?】

自律神経のバランスが乱れてしまう理由は、ズバリ、ストレス。わたしたちは日々さまざまなストレスにさらされています。人間関係や環境の変化による精神的なストレスがあります。性格によってストレスに対する感受性の高い人もいるでしょう。過労や寝不足、栄養不足などの身体的なストレスもあります。また、風邪ウイルスの感染や気温・湿度の変化など、外因的なストレスもあります。 これらのストレスが大きいほど、自律神経バランスを乱してしまう可能性が高くなります。

ストレスのない社会で生きていけたら幸せですが、そういうわけにもいかないのが現状でしょう。いかにストレスを少なくするか、いかにストレスをためないための生活を送るかがポイントとなります。ストレスをためないためには、食事・運動・睡眠・休息の習慣を見直し、改善していくことが大切です。その中でも今回は、食事に焦点を当てて解説することにし、次回は、睡眠について解説することにしたいと思います。

【ストレスをためないための食事】

何はともあれ、規則正しく食べることが一番大切です。朝食、昼食をしっかり食べ、夕食は控えめに、就寝3時間前までには、食べ終えることが理想的です。自律神経は、1日の中でもバランスをとっています。すなわち、起きているときは緊張感があり、交感神経が活発化している一方、寝ている間はリラックスしている状態であり、副交感神経が活発化しています(図2)。この日内変動を正常に保つためにも、規則正しく食べることが大切なのです。

そして、バランス良く食べること。「バランス良く」と言ってもどう食べたらいいかわからないという人も少なくないでしょう。そんな方は、食品の色を気にしながら食べると良いでしょう。特に、以下に挙げる5つの色がまんべんなく食事中に含まれているか、どれかひとつの色に偏っていないかなどに気をつけましょう。これらの5色をバランス良く食べれば、自然と栄養バランスも良くなるでしょう。

赤: 肉類、魚類、にんじん、トマトなど
   摂取できる栄養素は、タンパク質、脂質、ビタミン

白: ごはん、パン、麺、芋類など
   摂取できる栄養素は、炭水化物、ビタミン
黄: 大豆、大豆製品、卵、とうもろこし、かぼちゃなど
   摂取できる栄養素は、タンパク質、ビタミン

緑: ほうれん草、小松菜、ブロッコリー、ピーマンなど
   摂取できる栄養素は、ビタミン、ミネラル

黒: 海藻類、きのこ類、ごぼう、ゴマ、こんにゃく
   摂取できる栄養素は、食物繊維、ミネラル

疲れやすいときや、ストレスがたまっていると感じるときには、ビタミンB、ビタミンA、カルシウムを積極的に摂りましょう。

(ビタミンB)

ビタミンBは、タンパク質や糖質、脂質が体の中で正しく使われるために欠かせません。ビタミンBが不足すると、栄養素の代謝が滞ってしまうため、より疲れを感じやすくなってしまいます。
鰻や豚肉、ほうれん草、大豆などの食品には、ビタミンBが豊富に含まれるので、疲れたときにおすすめの食品です。また、ニンニクやネギにはアリシンという成分が含まれており、一緒に食べるとビタミンB1の吸収率を高めてくれます。鰻に小口切りにしたネギを添えたり、豚肉をニンニクと一緒に炒めたりすると良いでしょう。

(ビタミンA)

疲れがたまっていると、免疫力も低下します。ビタミンAは、皮膚や粘膜を強化して、免疫力を高めるので、ストレスによる病気の予防にもつながります。ビタミンAを多く含む食品には、にんじん、モロヘイヤ、春菊、レバーなどがあります。ビタミンA脂溶性である(油に溶けやすい)ので、油と一緒に調理すると吸収率が高まります。

(カルシウム)

カルシウムは、歯や骨の形成に欠かせないだけでなく、不足するとイライラしたり、神経系に障害が起こったりします。最近イライラしているあなた、カルシウムが不足していませんか?小魚、海藻類、牛乳やヨーグルトなどの乳製品を食べましょう。

【自律神経を整えるための献立】

担々麺

中国・四川省発祥の辛い麺。豆板醤や甜麺醤などで味付けした豚ひき肉と白髪ネギをのせて食べます。スープには練りゴマやしょうが、ニンニクなどが使われます。

(栄養のポイント)
唐辛子の発酵食品である豆板醤や甜麺醤、しょうがは、体を温め、血行を良くします。
ビタミンB1を含む豚ひき肉は、白ネギやニンニクと一緒に食べることで、吸収率が高まります。
中華薬味のせ豆腐

豆腐の上に、みじん切りしたトマトや桜エビ、ザーサイ、ネギ、ゴマなどを添えて、ごま油としょうゆをかける料理です。

(栄養のポイント)
桜エビにはカルシウムが豊富に含まれます。
トマトはリラックス効果のあるGABA(次回解説する予定です)を含み、ビタミンも豊富です。
豆腐は胃腸に優しいタンパク質を含みます。血行を良くする効果もあります。
にんじんのカラムーチョサラダ

千切りしたにんじん、玉ねぎ、ツナ缶、スナックポテト菓子をマヨネーズで和えただけの簡単サラダです。

(栄養のポイント)
にんじんはビタミンAの宝庫!疲れがたまっているときには積極的に摂りましょう。
オイル(このレシピではマヨネーズ)と和えることで、ビタミンAの吸収率が高まります。
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