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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

食の安全について考える(1)食の安全とは?

今回から新しいシリーズが始まります。テーマは「食の安全について考える」。私たちは日々、食品を食べて生きており、食生活は、住んでいる場所や気候、個人の生活習慣、好き嫌い、経済状況などを反映しています。いかに食の安全を確保するかは、私たちの健康を左右する大きな要因のひとつです。本シリーズでは、食の安全について考え、ご自身の食生活をより豊かにできるよう、情報をお伝えしていきたいと思います。

【食の安全とは】

Codex(コーデックス)委員会の「食品衛生に関する一般原則」では、「食が安全である」とは「予期された方法や意図された方法で作ったり、食べたりした場合に、その食品が食べた人に害を与えないという保証」であるとされています。

私たちが食べるものには、「絶対に安全である」とか「リスクゼロ」の食品はありません。例えば、未加熱の大豆には消化酵素であるトリプシンの働きを阻害する、トリプシンインヒビターが含まれるため、未加熱の状態で大豆を摂取すると消化不良になることがあります。そのため、大豆は加熱して食べます。また、ジャガイモには、ソラニンという毒物が含まれており、特に芽や皮に多いため、調理の際には除去しますし、青梅には、アミグダリンという毒物が含まれるため、梅干しや梅酒などにして毒成分を少なくした状態で食べます。健康食品として市販されているものであったとしても、継続的かつ大量に摂取することによって健康問題をもたらす場合もあるのです。

このように、食品は絶対に安全であるという食品はないという前提で、私たちに害を与えないよう、リスクを許容できる程度に低くした状態を「食の安全」と言います。

【食の安全を脅かす可能性がある因子】

健康に悪影響を与える可能性のある食品、あるいは食品中の物質には、食中毒を引き起こす有害微生物や、フグ毒などの自然毒、アレルギーを引き起こすような物質(アレルゲン)、また意図的に使用される物質に由来するものとして、食品添加物や農薬などが挙げられます(図1)。環境からの汚染物質や、加工中に生成される汚染物質もあるほか、物理的な因子として、ガラスや金属、石などが異物として混入してしまう場合もあります。健康に良いという理由で摂取する健康食品やサプリメントであっても、過剰かつ継続的に摂取することにより健康被害が生じる場合もあります。

前述のように、絶対に安全、リスクがゼロであるという食品はありません。どのような危害因子があるのかを知り、量を意識することが大切です。

図⒈ 食品中の様々な危害要因の例
食品中には、私たちの健康に害を与える可能性のあるものが存在する。絶対に安全、という食品は存在せず、どのような危害要因があるのか、その性質や量を意識することが安全に食べるうえで重要である。(図は、内閣府食品安全委員会「みんなのための食品安全勉強会(2018年3月9日)講義資料「食べ物と食品安全の基本について」より改変)

【食の安全を守る仕組み】

食の安全を守るため、さまざまなレベルでの仕組みが存在しています。ここでは、世界的な仕組みと日本の仕組み、個人で取り組めることについて述べます(図2)。

(世界的な仕組み)

前述のCodex委員会は、消費者の健康保護、公正な食品貿易の確保などを目的として、国連食糧農業機関(Food and Agriculture Organization of the United Nations, FAO)と世界保健機関(World Health Organization, WHO)が合同で、設立された世界的な組織であり、国際的な食品規格の策定等を行なっています。

食品の安全を確保する手法として、HACCP(ハサップ)があります。Hazard(危害)Analysis(分析)Critical(重要)Control(管理)Point(点)の頭文字をとっています。すなわち、食品の原料や出荷までの各工程で起こり得る危害(異物混入や微生物の汚染、増殖など)を特定、分析し、どのように管理するか、あるいはどのように除去するかを決定する方法です。例えば、ある食品から食中毒の原因となる病原体を除去するために、高温で加熱殺菌するなどがあります。

HACCPには、業界団体や地方自治体が運用するものなど、様々なHACCPがあり、内容に統一性がないため、Codex委員会は国際的な基準となるガイドラインを作成し、世界的に採用を推奨しているのです。日本政府が国内向けに策定している食品規格も、食品添加物、残留農薬、放射線など、Codex HACCPを参考にして作られたものがたくさんあります。

(日本国内の仕組み)

食品中にどのような危害因子が含まれるかを特定し、どのくらい摂取すると、どの程度の健康への悪影響が起きるかを科学的、客観的、中立的に評価することが大切であり、内閣府の食品安全委員会によって評価されています。

また、食品安全委員会のリスク評価を受けて、農林水産省や厚生労働省、環境省、消費者庁は、食品の規格基準を設定したり、リスク管理を行なったりしています。

図⒉ 食の安全を守る仕組み
国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)により設立されたCodex委員会は、Codex HACCPという国際的な食品規格の策定などを行なっている。
日本国内では、リスク評価とリスク管理を独立して行われており、相互に情報・意見交換を行なっている。
個人レベルでも食品を扱う際に気をつけるべきことがある。

(個人レベルの取り組み)

2006年、WHOは「Five Keys to Safer Food Manual(食品をより安全にするための5つの鍵マニュアル)」を出版しました。これは、主に食中毒を予防するためのマニュアルですが、私たちが食品を安全に扱うために個人で取り組めることとして、とても重要なポイントです。

(1)清潔に保つ
食中毒は、食中毒を起こす原因となる微生物や毒素がついた食品を食べることによって、腹痛、下痢、嘔吐、発熱などの症状が出る病気のことです。食中毒を起こさないためには、食材そのもの、あるいは食材を扱う人や場所、環境を清潔に保つ必要があります。

(2)生の食品と加熱済みの食品とを分ける
加熱していない生の食品(特に生の肉類、魚介類)には、食中毒の原因となる細菌やウイルスが含まれる可能性があり、調理中に他の食品に移行する可能性があります。まな板や包丁などの調理器具は、加熱済み食品と分けて利用する、生の食品と加熱済みの食品は別の容器で保存するなどしましょう。

(3)よく加熱する
適切な温度で加熱することにより、食中毒の原因を除去することができます。調理済みの食品であっても再加熱をするようにしましょう。

(4)安全な温度に保つ
調理した食品を室温に2時間以上放置せず、保存する場合は素早く冷却することが重要です。温度を5℃以下、または60℃以上に維持することで微生物の増殖を抑制することが可能です。しかし、一部の微生物には5℃以下であっても増殖可能なものが存在するため、冷蔵庫内であっても、食品を長時間保存しないようにしましょう。

(5)安全な水と原材料を使う
安全な水、そして新鮮で良質な食品を選別しましょう。野菜や果物を特に生で食べる場合には、よく洗うようにしましょう。

【まとめ】

食の安全を確保するためには、健康を害する可能性のある要因を知り、できるだけそれらのリスクを低くすることが大切です。今回は、概要として、どのような危害因子があるのか、食の安全を守るための社会の仕組み、個人でできる取組みについて述べました。本シリーズでは、食の安全に関する様々な問題・課題を取り上げます。自ら食の安全を確保し、健康に生きるため、正しい知識を身につけ、考えていきましょう。

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