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インターネット公開文化講座

文化講座

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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第23回 サルコペニアって何?

前回、前々回は健康な歯を保つことが健康に食べることにつながり、健康な骨を保つことが寝たきり予防につながることを述べました(第21回「歯の健康から始めるエイジングケア」第22回「骨の健康と骨粗鬆症」参照)。健康な歯や骨は、健康寿命を延ばすことにつながりますが、それに加えて大切なのが、健康な筋肉を保つことです。運動不足や加齢によって筋肉量が減少したり、筋力が低下したりするものですが、いつも、いつまでも、筋肉を保つためには、どうしたらよいのでしょうか。

【サルコペニアとは】

加齢に伴って生じる筋量と筋力の低下の状態を「サルコペニア」と言います。「サルコペニア」は、Irwin Rosenbergによって生み出された造語で、ギリシャ語で筋肉を意味する「sarx(sarco:サルコ)」と、喪失を意味する「penia(ペニア)」を合わせた言葉です。すなわち、筋肉量が著しく減少することや、加齢や病気によって握力や足の筋肉、体幹を整える筋肉など、全身の筋力低下が起こることを指します。サルコペニアになると、歩くスピードが遅くなる、杖や手すりが必要になるなど身体機能の低下が起こります。

ロコモティブシンドローム(略称:ロコモ)とは、足腰が弱って、要介護になるリスクが高まる状態のことですが(第2回「ロコモティブシンドローム」参照)、サルコペニアはロコモの一部であり、原因であるといえます(図1)。すなわち、サルコペニアを予防することがロコモティブシンドロームの予防につながるのです。

ふくらはぎの一番太い部分を、両手の親指と人差し指で囲んでみてください。囲んだ部分に隙間ができていませんか?隙間ができている場合、ふくらはぎの筋肉が少なくなってきているかもしれません。サルコペニアの可能性も高まりますので、筋肉を強くするための対策をおすすめします。

【サルコペニアの原因】

では、どうしてサルコペニアになってしまうのでしょうか。原因は大きく4つあります。

①運動不足によるもの
 寝たきりや不活発な生活スタイルの人は、筋肉が衰え、筋力が低下してしまいます。また、宇宙飛行士のように、無重力で生活している場合にも筋肉の著しい減少がみられます。

②病気に関連するもの
 重症の臓器不全や、炎症性疾患、がんなどを患っている方は、筋力低下が起こりやすくなります。

③栄養不足によるもの
 消化・吸収不良、食欲不振、食欲不振をもたらす薬などによって十分な栄養が摂れない場合にサルコペニアがみられます。

④加齢によるもの
 上記①~③の明らかな原因が認められない場合、加齢によるものと考えられます。

【サルコペニア肥満にご注意を!】

サルコペニアは筋肉が衰える状態のことですので、サルコペニアになると体重減少が起こります。運動していないと体重が減るのは、多くが筋肉量の減少によるもの。同じように、栄養が不足している場合も、病気や加齢に伴って体重が減少してくるのも、筋肉量が少なくなることによります。

気をつけなければいけないのは、「サルコペニア肥満」。サルコペニア(筋肉量の減少)と肥満(体脂肪の増加)が重なっている状態です。体重が変わらないため、サルコペニアであると気付きにくいですが、気付かず放置してしまうと、生活習慣病になりやすくなります。太りすぎていませんか?筋肉量は維持されていますか?握力は以前と変わらず保たれていますか?握力が男性で30kg、女性で20kgよりも低い場合には注意が必要です。太っていて筋力が少ない人は特に気をつけて、対策をしましょう。

【70歳からはメタボ対策よりもサルコペニア対策を!】

サルコペニア肥満に気をつけなければいけない一方で、70歳以上の人では、メタボリックシンドロームであっても寝たきりになる割合は変わらないというデータもあります。また、70歳以上の人は、メタボリックシンドロームよりも、筋力低下の方が寝たきりの原因になるということが報告されています。70歳以上の方は、多少肥満気味であったとしても、痩せようとする努力より、筋肉をつけようとする努力の方が必要になってくるのです。

食が細くならないように、しっかり食べられるように、工夫をしましょう。例えば、高齢になると味覚が変わり、味を感じにくくなることがありますので、だしをきかせる、香辛料や香草を使うなど、味を感じやすい工夫が大切です。また、加齢に伴って飲みこむ力が弱まってくるので、片栗粉や葛粉でとろみをつける、天ぷらには天つゆを添えてパサパサとした食感を改善するなどの工夫も良いでしょう。

【筋肉の健康を保つためにはタンパク質とビタミンを!】

筋肉を含め、皮膚や髪の毛、骨など、私たちの体の多くはタンパク質で構成されています。しかし、たくさんのタンパク質を食べても一度に代謝できる量は限られているので、毎回の食事とおやつを含めた1日3~5回の食事で少しずつタンパク質を補給することが推奨されています。

また、タンパク質が体の中で効率良く使われるためには、ビタミンやミネラルを併せて食べることが必要です。特にビタミンB群を含む食品を食べることが、筋肉の維持、増強につながります。

(タンパク質)
強い筋肉を保つためにはタンパク質が重要です。タンパク質は、肉類(牛肉、豚肉、鶏肉など)や魚類、卵などの動物性タンパク質と、大豆などの植物性タンパク質があります。動物性タンパク質の方が植物性タンパク質より吸収効率が優れていますが、タンパク質の種類が異なるので、両者を組み合わせて食べることが大切です。

◆タンパク質を多く含む食品(図2)
肉類(牛肉、豚肉、鶏肉など)
魚類
大豆などの豆類

1日に必要なタンパク質は、男性で60g、女性で50gです。タンパク質を含む上記の食品を250~300gは食べるようにしましょう。

(アミノ酸)
タンパク質は、20種類のアミノ酸がつらなってできています。タンパク質を食べると、体の中の消化酵素で分解されてアミノ酸となり、吸収されます。吸収されたアミノ酸は、体の中でタンパク質に再合成されて、筋肉や皮膚を含む体の大半を構成しています。

20種類のアミノ酸は、主に2つに分けられます。私たちの体の中で作られるために食事から摂る必要のない非必須アミノ酸と、体の中で作られないために食事から摂る必要がある必須アミノ酸です(図3)。

動物性タンパク質と植物性タンパク質には、含まれるアミノ酸が異なります。また、動物性でも肉の種類によって、魚によってアミノ酸が異なるので、複数種類の食品から、バランス良くタンパク質を食べるようにすると良いでしょう。

(ビタミン B)
ビタミンB(B1、B2、B6)は代謝力を高めるために必要です。ビタミンBが不足すると、タンパク質がうまく分解、合成されないために筋肉が衰える原因となってしまいます。またビタミンBは糖質や脂質の代謝にも必要です。ビタミンBの不足によって疲労物質がたまりやすく、疲れを感じやすくなったりもしますので、意識してビタミンBを摂取しましょう。

◆ビタミンBを多く含む食品
うなぎ
豚肉
カツオ
マグロ
大豆

*にんにく、ねぎに含まれるアリシンはビタミンB1の吸収率を上げることが知られているので、上記の食品と組み合わせて食べるとより効果的です。

【運動をしましょう!】

食事をしっかりと食べて運動を組み合わせると、より良いサルコペニア対策になります。2日に1回は、30分~1時間の運動をするよう心がけましょう。普段の生活の中でも歩いていますが、普通に歩くよりも少し疲れたなと感じるくらいの運動が良いでしょう。また、運動の後には筋肉の分解が起こりますので、運動したら1時間以内にタンパク質を食べましょう。1時間以内に食事を食べることができない場合は、タンパク質を含むような食品(ゆで卵、プリンや豆乳など)をおやつとして食べると良いでしょう。

【サルコペニアを予防するための献立例】

チキンと野菜のうまうまソース煮

一口くらいの大きさに切った鶏もも肉に塩こしょうで下味をつけ、フライパンに油を入れてこんがりと焼きます。千切りにした玉ねぎ、しめじ、ヘタを取ったミニトマトをフライパンに入れ、ウスターソース、醤油、にんにくで味付けをしてフタをして蒸し焼きします。

(栄養のポイント)
鶏肉にはタンパク質が含まれます
野菜と一緒にバランスよく食べることができます
夏野菜とザーサイのサラダ

トマト、きゅうり、みょうが、塩茹でしてさやから外した枝豆ととうもろこし、粗みじん切りにしたザーサイを、ごま油、塩、醤油、酢、黒ごまで和えます。

(栄養のポイント)
色んな種類の野菜を混ぜることによって、色んな栄養素を摂ることができます
旬の食材は栄養価が高いので積極的に取り入れましょう
キャラメルミルクゼリー

鍋にグラニュー糖と水を入れてキャラメルを作ります。茶色くなるまで焦がしたら、水を入れて少し煮詰めてキャラメルソースを作ります。生クリームにグラニュー糖とキャラメルソースを入れて混ぜ、ゼラチンで固めます。

(栄養のポイント)
牛乳を含むので、手軽にカルシウムとタンパク質を摂ることができます
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