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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

食の安全について考える(10)健康食品の購入・使用時のポイント

2023年9月からは「食の安全について考える」というテーマを取り上げています。私たちは日々、食品を食べて生きており、食生活は、住んでいる場所や気候、個人の生活習慣、好き嫌い、経済状況などを反映しています。いかに食の安全を確保するかは、私たちの健康を左右する大きな要因のひとつです。本シリーズでは、食の安全について考え、ご自身の食生活をより豊かにできるよう、情報をお伝えしていきたいと思います。今月は、前回につづき、健康食品を取り上げ、健康食品を購入・使用する際の問題点とポイントについて解説します。

【健康食品の安全性】

前回、健康食品の分類について解説した際にも触れたように、健康食品には、国が定めた安全性や有効性に関する基準を満たした「保健機能食品」と、それ以外のものがあります(食の安全性について考える(9)「健康食品」参照)。また、健康食品はあくまで食品であり、医薬品ではありません。特に、保健機能食品(栄養機能食品、機能性表示食品、特定保健用食品)以外の健康食品の安全性は、消費者に任されているのが現状です。しかしながら、近年、健康食品による健康被害が問題となる事例もあります。

このような事態を受けて、2023年、食品安全委員会は、健康食品について気をつけてほしいこととして、以下のような呼びかけをしています(図1)。

図1. 内閣府食品安全委員会からの呼びかけ
内閣府食品安全委員会ウェブサイト「食品安全委員会20周年企画」より抜粋

【健康食品による健康被害の特徴】

健康維持のために、国民の4?6割が健康食品を利用しており、利用によって体調不良を訴える人が数%はいるという報告があります。その内容は、発疹などのアレルギー症状や胃部不快感、下痢、頭痛やめまいなど、多岐に渡ります。サプリメントによる健康被害は、2021年から2023年にかけて、42例報告されており、うち8割程度は、違法に医薬品成分が加えられた「無承認無許可医薬品」によるもの、残りはアレルゲンや重金属、微生物などの混入によるものでした。

健康被害があった事例のうち、ダイエット効果をうたったゼリーに医薬品成分「シブトラミン」が加えられていた例があります。海外の製品であってもインターネットで簡単に購入できるようになりましたが、海外製品の中には、日本では医薬品に該当する成分が含まれていることもありますので、注意が必要です。

他にも、美容を目的とした「プエラリア・ミリフィカ」というマメ科の植物を原材料として配合された健康食品には、強い女性ホルモン様作用があり、摂取によりホルモンバランスが崩れるという健康被害が報告されています。また、ビタミン様物質として扱われているα-リポ酸(チオクト酸)は、インスリン自己免疫症候群を引き起こし、低血糖になる場合があると報告されています。α-リポ酸は、牛や豚の肝臓、心臓、ほうれん草やトマトなどにも含まれていますが、これらの食品に含まれる量はわずかであるため、健康被害が出ることはありません。一方、サプリメントなどに高濃度に含まれる場合には注意が必要になります。

表? 厚生労働省が定めた特別の注意を必要とする指定成分

【いわゆる「健康食品」に関する19のメッセージ】

健康維持はとても重要な課題ですが、そのために摂取した健康食品によって健康を害されては、本末転倒です。健康食品を健康に、安全に摂取するためにどうしたら良いのでしょうか。食品安全委員会がまとめている以下の19のメッセージを参考にして、厳しい目を持って健康食品を取り入れるようにしましょう。

1) 「食品」でも安全とは限りません
2) 「食品」だからたくさん摂っても大丈夫だと考えてはいけません
3) 同じ食品や食品成分を長く続けて摂った場合の安全性は正確にはわかっていません
4) 「健康食品」として販売されているからといって安全ということではありません
5) 「天然」「自然」「ナチュラル」などのうたい文句は「安全」を連想させますが、科学的 に「安全」を意味するものではありません
6) 「健康食品」として販売されている「無承認無許可医薬品」に注意して下さい
7) 通常の食品と異なる形態の「健康食品」に注意して下さい
8) ビタミンやミネラルのサプリメントによる過剰摂取のリスクに注意して下さい
9) 「健康食品」は、医薬品並みの品質管理がなされているものではありません
10) 「健康食品」は、多くの場合が「健康な成人」を対象にしています。高齢者、子ども、妊婦、病気の人が「健康食品」を摂ることには注意が必要です
11) 病気の人が摂るとかえって病状を悪化させる「健康食品」があります
12) 治療のために医薬品を服用している場合は「健康食品」を併せて摂ることについて医師・薬剤師のアドバイスを受けて下さい
13) 「健康食品」は薬の代わりにならないので、医薬品の服用を止めてはいけません
14) ダイエットや筋肉増強効果を期待させる食品には、特に注意して下さい
15) 「健康寿命の延伸(元気で長生き)」の効果を実証されている食品はありません
16) 知っていると思っている健康情報は、本当に(科学的に)正しいものですか?情報が確かなものであるかと見極めて、摂るかどうか判断して下さい
17) 「健康食品」を摂るかどうかの選択は「わからない中での選択」です
18) 摂る際には、何を、いつ、どのくらい摂ったかと、効果や体調の変化を記録して下さい
19) 「健康食品」を摂っていて体調が悪くなった時には、まず摂るのを中止し、因果関係を考えて下さい

【健康食品を使用して体調不良になったら】

上記の点について気をつけていても、体調を崩してしまうこともあるでしょう。健康食品を食べた後に体調不良を感じたら、すぐに使用を中止するようにしましょう。そのうえで、図2のフローチャートを参照して、対応するようにしましょう。

図? 健康食品を使用して体調不良になったときの対応フローチャート
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所「健康食品」の安全性・有効性情報を参考・改変

健康食品を使用したことによる医療機関の受診の際には、健康食品のパッケージまたは写真、健康食品の使用記録、お薬手帳(薬を服用している場合)を持っていくと良いでしょう。また、近くの保健所などにも連絡をしましょう。販売元に連絡をして「問題がないので利用し続けて下さい」と言われる場合があるかもしれませんが、間違った対応です。医療機関で「関係がない」と診断されない限り、利用し続けることは避けましょう。

【まとめ】

「健康食品」と言っても、消費者である私たちが気をつけるべきことはたくさんあります。「◯◯に効く」、「△△が治る」など、効果を強くうたうものには特に注意し、安全な健康食品の摂取を心がけましょう。次回は、輸入食品を取り上げます。

参考資料

予防医学としての食を学ぶ
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