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インターネット公開文化講座

文化講座

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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第14回 発酵食品のパワー①

前回までの3回は、腸内環境を整えることが、私たちの健康を維持するうえで大切なこと(第11回「腸から超健康へ!」参照)、腸をはじめとする全身では、外敵から私たちの体を守る「免疫」が常に働いていること(第12回「わたしたちの体を守る免疫」参照)、その免疫が過剰に働いてしまうことによってもたらされるアレルギーについて解説しました(第13回「食物アレルギー」参照)。近年、発酵食品が体に良いと話題になっています。発酵食品は、腸内環境を整えることによって便秘を解消することができますし、免疫を正常に作用させ、アレルギーなどの病気を改善する効果があると考えられ、とても魅力的な食品です。今回は、発酵食品のパワーについて解説致します。

【発酵食品とは】

発酵食品は、微生物や酵素の作用によって、食品中の炭水化物やタンパク質を分解させ、加工した食品のことです。微生物と聞くと、体に有害なものをイメージするかもしれません。微生物の中には、わたしたちの健康を害する有害微生物も多いのですが、良い働きをする有用微生物も存在します。発酵食品には、有用微生物である、酵母(イースト)や乳酸菌、麹菌、納豆菌などがあり、発酵には欠かせません。有用微生物は、食材が有する糖質やタンパク質を分解したり、新たに作ったりすることによって、新たな成分をし、食材の風味や栄養素、健康への影響を変化させます。この過程を経て作られる食品を、発酵食品といいます。一方で、食品の腐敗もまた、微生物によって栄養素が分解されることによって起こるものですが、腐敗はわたしたちの体に悪影響を及ぼすものを作り出すのに対して、発酵はわたしたちの体に有益なものを作り出します。

【発酵食品いろいろ】

最も古い発酵食品は、今から8,000年も前に遡ります。コーカサス山脈のあたり(現在のジョージア、アルメニア、アゼルバイジャンが位置するあたり)のワインが最古の発酵食品だと言われています。7,000年前にはイランでもワインが醸造されていたことが確認されています。

現在、世界では様々な発酵食品が食べられていますが、酪農業が盛んなヨーロッパや中東にかけては、チーズやヨーグルトなどの乳発酵食品やサラミなどの肉類がよく食べられますし、漁業が盛んな北欧では、魚を発酵させた食品が食べられます。一方、日本をはじめ、東アジアや東南アジアでは、大豆や米などの植物、あるいは魚類を発酵させた調味料などがよく食べられます。味噌、醤油、みりん、鰹(かつお)節は日本食には欠かせませんし、ナンプラーやヌクマムのような魚を発酵させてできる魚醤や、エビを発酵してできるシュリンプペーストなどは、東南アジアの料理には欠かせません。このように、地域によって原料や食材が異なるものの、発酵食品は世界中の様々な地域の食文化を形成する重要な要因になっています(図1)。

【発酵食品の魅力】

発酵食品にはたくさんの魅力があります。発酵の過程で、もとの食材にはなかった栄養価やうま味成分、香りがうまれ、嗜好品や調味料として楽しめるだけでなく、体に良い作用も発揮してくれます。

①栄養価が高くなる
 微生物は発酵の過程で様々な栄養素や代謝産物を作っています。例えば、納豆菌が作るナットウキナーゼという酵素には血栓溶解作用がありますし、骨の形成を促進するビタミンKも納豆菌から作られます。また、味噌や醤油の発酵の過程では、メラノイジンという褐色色素の成分が作り出されますが、メラノイジンには抗がん作用や乳酸菌の増殖を促す作用、血圧上昇を抑制する作用などがあることが明らかになってきています。

②栄養の消化・吸収が良くなる
 微生物が食材の持つ糖質やタンパク質などの栄養を分解することによってできるのが発酵食品。つまり、わたしたちの体の中で行われる消化を、微生物が前もってしてくれるので、消化・吸収が良くなります。例えば、牛乳を飲んでおなかを壊してしまう「乳糖不耐症」の人でも、ヨーグルトは食べられる人もいます。これは、ヨーグルトを作る過程で、乳酸菌が2〜4割の乳糖を分解するからなのです。

③保存性が高まる
 ある有用微生物が発酵の過程で増えると、他の微生物=食品の腐敗を促進する微生物の増殖を抑えるため、保存性が高まります。味噌や醤油の原料である大豆にせよ、鰹節の原料である鰹にせよ、そのままでは長持ちしない食材でも、発酵させることによって長持ちします。

④風味やうま味が増加する
 発酵が進むにつれて、独特な香りやうま味成分が作られます。醤油や味噌、オイスターソースにはうま味成分であるグルタミン酸が多く含まれますし、鰹節にはうま味成分のイノシン酸が多く含まれます。グルタミン酸とイノシン酸を混ぜ合わせることによって、うま味が一層増します。 醤油や味噌のグルタミン酸と、鰹節のイノシン酸が組み合わせた味噌汁や吸い物が美味しいのも納得頂けることでしょう。

⑤腸内環境を整える
 腸内には、3万個以上、1,000兆個以上の腸内細菌が生息しており、善玉菌:悪玉菌:日和見菌が3:1:6の割合で存在することが、わたしたちの体の健康維持のために理想的であると言われています(第11回「腸から超健康へ!」参照)。漬物やヨーグルト、納豆などに含まれる、乳酸菌やビフィズス菌は、「プロバイオティクス」として、腸内細菌のバランスを整え、整腸作用をもたらしてくれます。プロバイオティクスとして発酵食品に用いられるような有用菌を積極的に食べることに加えて、有用菌が育ちやすい腸内環境を作る「プレバイオティクス」として、食物繊維やオリゴ糖などを含む食品を食べると、より効率良く整腸作用をもたらしてくれることでしょう。「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」を合わせて「シンバイオティクス」といい、腸内環境を整えるための概念として近年注目を集めています。

【発酵食品を用いた献立例】

韓国風のり巻き

キンパと呼ばれる韓国風のり巻きには、韓国の発酵食品である白菜のキムチと、もち米麹と唐辛子を発酵した調味料であるコチュジャンを使います。卵焼き、ほうれん草、炒めた牛肉をのり巻きにします。海苔は韓国海苔を使うと本格的ですが、普通の海苔で巻いて、塩をふり、ごま油で少し焼き付けても良いでしょう。

(栄養のポイント)
キムチやコチュジャンは発酵食品であるだけでなく、唐辛子を使っているので、血行が良くなり、代謝が活性化するでしょう。
ほうれん草や卵焼き、牛肉など、たくさんの食材を食べることができるので、バランスの良い食事と言えます。
鯖(さば)の生姜醤油焼きとなます

鯖を醤油、酒、みりんとすりおろした生姜に漬けて焼きます。醤油、酒、みりんはいずれも発酵食品。特別に意識をしなくても、日本食を食べることにより、日常的に発酵食品を摂っているということがわかります。生姜を加えることによって、魚の臭みを感じにくくなり、より食べやすいでしょう。にんじんと大根のなますには、発酵食品である酢を使います。

(栄養のポイント)
鯖は秋に旬を迎えます。旬を迎える魚は脂がのって美味しくなるだけではありません。その脂にはEPA、DHAが豊富に含まれますので、積極的に食べましょう。
酢には、疲労回復効果や食欲促進効果があるだけでなく、糖尿病や高血圧を予防する効果もあります。
ギリシャ風サラダ

グリルした鶏肉、玉ねぎ、ピーマン、きゅうり、トマト、オリーブなどの生野菜に、オリーブオイルとバルサミコ酢、フェタチーズを加えたサラダです。バルサミコ酢とフェタチーズが発酵食品です。バルサミコ酢の代わりに純米酢を使っても良いでしょう。

(栄養のポイント)
チーズには整腸作用があります。カルシウムを豊富に含むので、骨粗鬆症の予防として毎日少しずつ取り入れると良いでしょう。
たくさんの野菜に加え、鶏肉とチーズでタンパク質を摂ることができます。
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