文化講座
第53回 老いるオイルと老いないオイル(4)不飽和脂肪酸
第50回から始まった新しいシリーズ「老いるオイルと老いないオイル」では、脂質について基礎から詳細に知り、ご自身の食生活にどう活かせるか、考えていきます。
シリーズ4回目は、「油脂」のうち「油」である不飽和脂肪酸について、詳細に解説します。
【不飽和脂肪酸】
不飽和脂肪酸は、炭素の間に二重結合を有する脂肪酸の総称で、常温で液体の形状をとるものが多いと述べました(第51回「老いるオイルと老いないオイル(2)脂質の質を決めるもの~積極的に摂りたいオイルと控えたいオイル~」参照)。植物油や魚介類に含まれる油が代表的なものです。
不飽和脂肪酸は、二重結合の数や位置によって分類され、二重結合を1つだけ有する脂肪酸は一価不飽和脂肪酸、二重結合を複数有する脂肪酸は多価不飽和脂肪酸と言います。短鎖、中鎖、長鎖と、炭素の数によって分類される飽和脂肪酸と異なり、不飽和脂肪酸には長鎖脂肪酸しか存在しません(図1、第52回「老いるオイルと老いないオイル(3)飽和脂肪酸」参照)。
一価不飽和脂肪酸には、オレイン酸やエルカ酸があり、オリーブ油やべに花油、キャノーラ油に多く含まれます。一価不飽和脂肪酸は、食品として食べることにより体内に供給するだけでなく、体の中でも作ることができます。そのため、目標とする摂取量は設定されていません。
一方、二重結合を複数有する多価不飽和脂肪酸は、体内で作ることができないため、食品として摂取する必要があります。これを必須脂肪酸と言います。多価不飽和脂肪酸は、二重結合の位置によってさらにオメガ3系とオメガ6系に分類され、オメガ3系脂肪酸であるα-リノレン酸やエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)は、魚介類の他、亜麻仁油やエゴマ油にも含まれます。オメガ6系脂肪酸であるリノール酸やγ-リノレン酸、アラキドン酸は、コーン油、大豆油、綿実油などに多く含まれます。
トランス脂肪酸もまた、不飽和脂肪酸に分類されますが、炭素の二重結合の数は1つの場合もあれば複数の場合もあります。牛、羊などの胃において微生物により生成されることが知られていますが、それ以外は自然界にはほぼ存在しません。しかし、食品を加工する過程で、副産物としてトランス脂肪酸が生じ、海外の研究では、トランス脂肪酸が健康に害を及ぼす可能性があることも報告されています。
図1.不飽和脂肪酸の特徴と分類
不飽和脂肪酸には、二重結合を1つだけ有する一価不飽和脂肪酸と、二重結合を複数有する多価不飽和脂肪酸、自然界にはほぼ存在しないトランス脂肪酸があります。
多価不飽和脂肪酸はさらに、二重結合の位置によりオメガ3系、オメガ6系に分類されます。
【不飽和脂肪酸と健康】
不飽和脂肪酸の健康への影響は複雑です。それは、不飽和脂肪酸の中に多種多様な脂肪酸が含まれ、それぞれの健康に対する影響が異なるからです。ここでは大きく一価不飽和脂肪酸であるオメガ9系、多価不飽和脂肪酸であるオメガ3系、オメガ6系の脂肪酸に分けて説明します。トランス脂肪酸は次回以降、詳細に解説することにします。
①一価不飽和脂肪酸・オメガ9系脂肪酸
オリーブ油やべに花油、キャノーラ油に多く含まれるオレイン酸は、オメガ9系脂肪酸です。アボカドやアーモンドにも含まれます。オレイン酸にはLDL(悪玉)コレステロールを低下させる作用があることが知られており、Seven Countries Studyという欧米の臨床観察研究では、一価不飽和脂肪酸の摂取が心血管疾患の発症による死亡リスクを下げるのではないかと示唆されています。
では、一価不飽和脂肪酸を積極的に食べれば良いかというと、そういうわけでもありません。というのも、欧米で行われた他の研究では、一価不飽和脂肪酸の摂取量と心血管疾患の発症には関連がなかったという報告や、一価不飽和脂肪酸の摂取量が多い人はむしろ心疾患の発症を増加したという報告もあります。
すなわち、オメガ9系脂肪酸は、食べれば食べるだけ良いというものではなく、総エネルギー摂取量が多くなり過ぎないように、他の脂質との置き換えが必要なのです。実際、オリーブオイルを中心とした脂質摂取を行っている地中海の国々の食事は「地中海食(Mediterranean Diet)」として注目されていますが、地中海食は、脂質の摂取源が主にオリーブオイルであり、他国と比べて相対的に肉類の摂取が少なく(すなわち飽和脂肪酸の摂取が少なく)、魚介類の摂取が多い(すなわちオメガ3系脂肪酸の摂取が多い)のが特徴です。
私たちの普段の生活では、サラダ油の代わりにオリーブオイルやキャノーラ油を使う、おやつを食べるならチョコレートやケーキではなく、アーモンドにするなど、置き換えるのが良いでしょう。いつもの食事に上乗せしてしまうと、エネルギー過多で太ってしまうので、要注意です。
②多価不飽和脂肪酸・オメガ3系脂肪酸
近年、健康に良い脂質としてオメガ3系脂肪酸が注目されています。亜麻仁油やエゴマ油、魚介類に多く含まれますが、亜麻仁油、エゴマ油と、魚介類では含まれる脂質が少し異なります。亜麻仁油やエゴマ油に含まれるのはα-リノレン酸であり、魚介類に多く含まれるのは、EPAやDHAです。
いずれも私たちの体内では作ることができず、不足すると皮膚炎などを発症するため、必須脂肪酸として、食品から摂取する必要があります。α-リノレン酸は体内に入ると、その一部がEPAやDHAに変換されます(図2)。
図2.オメガ3系脂肪酸の体内での変換
オメガ3系脂肪酸には、血中の中性脂肪やコレステロールを低下する作用や、肥満の改善、心血管疾患の発症リスクの低下、ドライアイを改善、運動時の疲労回復(関節や筋肉へのダメージ軽減)、抗炎症作用、アレルギーの改善、アルツハイマー病やうつ病のリスクを軽減、乳幼児における脳や神経の発達など、実に様々な効果が報告されています。特に、EPAは血管に、DHAは脳にとって良い効果をもたらすと考えられています。
健康に良いからと言って食べ過ぎるとどうなるの?と心配される方もいらっしゃるかもしれませんが、EPA、DHAに関しては、食べ過ぎてメタボリックシンドロームになることもなく、問題になるようなことは報告されていません。α-リノレン酸に関しても、LDLコレステロールを含む血液の問題を引き起こすことはありませんが、α-リノレン酸の摂取量が多過ぎると前立腺がんの発症リスクが上がるということが報告されているので、特に男性におかれては、食べ過ぎに気をつける必要があります。
普段の生活には、是非オメガ3系脂肪酸を摂り入れたいものですが、毎日魚介類を食べるのは大変と思う方も多いことと思います。地域によっては魚に水銀、ダイオキシンなどの有害物質が含まれることもあり、特に妊娠、授乳中の方の中には魚介類摂取を控えている方もいらっしゃるでしょう。そのような場合には、有害物質の蓄積しにくい小型の魚を食べたり、亜麻仁油やエゴマ油など、植物性のオイルかつオメガ3系脂肪酸を多く含むような食品を摂り入れたりすると良いでしょう。亜麻仁油、エゴマ油は酸化されやすいため、加熱を控え、食品にかけて食べます。
③多価不飽和脂肪酸・オメガ6系脂肪酸
オメガ6系脂肪酸もまた、私たちの体内では作られないため、必須脂肪酸です。しかし、オメガ6系脂肪酸が含まれる油には、大豆油、コーン油、綿実油などがあることから想像できるように、通常の食事で足りなくなることはなく、むしろ摂り過ぎていると言えます。これらのオイルは安価で、炒め物や揚げ物など、汎用性が高いことから、必須脂肪酸であるからと言って積極的に摂る必要はありません。
オメガ6系脂肪酸は、プロスタグランジンやロイコトリエンといった炎症を引き起こす物質を体内で作り出すため、摂取量が多くなり過ぎることによる弊害が心配されます。食べ過ぎに気をつけましょう。また、オメガ6系脂肪酸とオメガ3系脂肪酸は、その摂取バランスが大事であることもわかっており、その比率は、オメガ6:オメガ3=4~5:1が理想的であるとされています。普段の食事で、揚げ物や炒め物が多く、魚が少ないと感じている人は、是非前者を少なくして、代わりに魚を食べるようにしましょう。
【理想的な不飽和脂肪酸の食べ方 参考レシピ・フィッシュラグーのパスタ】
(材料:4人分)
- 刺身(マグロ、サーモン、白身魚など数種類入ったもの) 200g
- オリーブ油 大さじ3
- にんにく(みじん切り) 1/2粒
- 赤唐辛子(種を取る) 1本
- 玉ねぎ(みじん切り) 1/4コ
- アンチョビ(みじん切り) 1枚
- 赤ワイン 50ml
- ブラックオリーブ(種なし)12コ
- トマト缶 400g
- 水 150ml
- 塩 小さじ1/2
- 砂糖 少々
- 黒こしょう 少々
- スパゲッティ 240g
- ブロッコリー 80g
(作り方)
- 1)フライパンにオリーブ油を入れ、にんにくと赤唐辛子を入れて弱火でじんわりと炒めます。
- 2)1)に玉ねぎを入れて、甘い香りがするまで炒めます。
- 3)粗く切った刺身とアンチョビを加え、ワインを入れてアルコールを飛ばすように煮てから唐辛子を取り出し、オリーブとトマト缶、水を入れます。
- 4)3)に調味料を加えてソースの出来上がり。
- 5)たっぷりの熱湯に塩(分量外)を入れ、スパゲッティを茹でます。仕上げに小房に分けたブロッコリーも加えます。
- 6)4)のソースに5)を混ぜ入れて仕上げます。
【まとめ】
今回は、不飽和脂肪酸について解説しました。不飽和脂肪酸には、炭素の二重結合の数や位置によって種類が異なること、健康に対する影響が異なることなどを理解頂けたことと思います。日頃の食生活に積極的に摂り入れたいのは、魚介類などのオメガ3系脂肪酸。サラダ油などのオメガ6系脂肪酸はなるべく控えめにしましょう。オリーブオイルなどのオメガ9系脂肪酸は、積極的に食べたいなら、肉類やオメガ6系脂肪酸を控えるなどして、油脂を摂り過ぎないように気をつけましょう。