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インターネット公開文化講座

文化講座

インターネット公開文化講座

予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第5回 異常な脂肪蓄積は死亡への入り口

第4回では、脂肪組織には皮下脂肪と内臓脂肪の2種類があり、ウエスト周囲径が大きくなって内臓脂肪が増える、内臓脂肪型肥満になることがメタボリックシンドロームの最も大きな原因であることを述べました(第4回「いまさら聞けないメタボリックシンドローム」参照)。近年、皮下脂肪や内臓脂肪とは異なる、第3の脂肪として 「異所性脂肪」が注目を集めています。「異所性脂肪」は 本来蓄積されないはずの場所に脂肪が蓄積される厄介な脂肪。そしてこれを放置するとメタボリックシンドロームの危険性が高まるのです。

肥満者の数はいまや世界的に増加しており、その数は1980年の1.47億人と比較すると2008年には約3.45倍の5.07億人にものぼります。一般的に肥満は、身長と体重の比から測定され、
BMI(Body Mass Index: 体格指数)=体重 (kg) ÷ 身長 (m) ÷ 身長 (m)で計算されます。BMI22が最も病気になりにくく、それより太っていてもやせていても、死亡率が高くなることが報告されています(図1)。また、日本ではBMI25以上が肥満であると判断されますが、世界的にはBMI30以上が肥満であると判断されます。これらのことから、太りすぎもやせすぎも不健康であること、特に日本人は、欧米人と比べて太っていなくても病気になりやすいことが想像できるでしょう。

【異所性脂肪とは】

体内の余剰エネルギーは、中性脂肪として皮下脂肪組織や内臓脂肪組織に蓄えられますが、脂肪組織以外の場所に蓄積する場合があり、これを「異所性脂肪」といいます。特に、肝臓や筋肉、すい臓、心臓などに蓄積して、臓器の働きを悪くすることによって糖尿病などのメタボリックシンドロームを招くことが明らかになってきました(図2)。肥満が進行している人では、皮下脂肪組織や内臓脂肪組織に蓄積しきれない溢れたエネルギーが異所性脂肪として蓄積されることがあります。一方、やせていても脂肪組織が正常に働いていないために正しい場所に余剰エネルギーを蓄えることができず、異所性に脂肪を蓄積してしまうこともあります。

【肝臓に脂肪が蓄積すると・・・】

お酒を飲まないから肝臓は大丈夫と思っている人が多いのではないでしょうか?ところが最近、お酒を飲まなくても肝臓に脂肪が蓄積する「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)」という病気が増えてきています。ひどくなるとフォアグラのような状態になります。特にNAFLDのうち、肝臓の細胞が死んでしまったり、炎症が起こっていたりする場合を「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」といい、高い頻度で肝硬変から肝臓がんを発症してしまいます。BMI25以上の肥満と診断された人のうち、半数以上が脂肪肝であることも報告されています。また、健診センターで受診した日本人成人の3人に1人が脂肪肝であることが報告されていますので、太っていないからといって安心はできないのです!

【すい臓に脂肪が蓄積すると・・・】

すい臓は、血液中の糖の量を調節するホルモン「インスリン」を作っています。食事をとると血液中に糖が増えますが、すい臓からインスリンが分泌されるおかげで血糖値が上がり過ぎないように調節されています。ところが、すい臓に脂肪が蓄積されてしまうと、インスリンが出にくくなってしまうため、血糖値が高くなって糖尿病になってしまう可能性があります。

【筋肉に脂肪が蓄積すると・・・】

すい臓からインスリンが分泌されると、筋肉は、血液中の過剰な糖分を取込んでエネルギー源に変えます 。ところが、筋肉に脂肪が蓄積すると、筋肉はインスリンに反応しづらくなり、糖を取込む能力が落ちてしまいます。筋肉への脂肪の蓄積は2種類あります。筋肉と筋肉の間に脂肪組織が入り込んで、いわば霜降りのような状態になる場合と、筋肉を構成する筋細胞という細胞の中に脂肪が蓄積する場合です。後者の場合、CTスキャンでは見ることができないのですが、この脂肪が多いほど、糖取込み能が低下することがわかっています。

【心臓に脂肪が蓄積すると・・・】

心臓や血管の周りに脂肪が蓄積すると、脂肪から産生される悪玉のアディポサイトカイン(第4回「いまさら聞けないメタボリックシンドローム」参照)が直接、心臓や血管の壁に作用して、血管の働きを悪化させ、動脈硬化症を引き起こす可能性が示唆されています。

以上のように、異所性脂肪は様々な病気の発症に深く関わっています。つまり、異常な脂肪の蓄積が死亡のリスクを高める原因になっているのです。残念なことに、日本人は肥満の程度が軽度であっても、皮下脂肪に比べて内臓脂肪や異所性脂肪の蓄積が多いことが知られています。このことは、日本人が欧米人に比べると太りにくいにも関わらず、糖尿病を発症しやすい原因のひとつであるとも考えられます。

【異所性脂肪の蓄積を予防するために】

現段階で、どうしたら異所性脂肪を減らせるかという定説はありません。ただ、異所性脂肪の代表である脂肪肝は、運動や食生活を見直し実践することにより改善できることから、食べ過ぎや運動不足にならないように気をつけることが、異所性脂肪の予防や減少に効果的であると考えられます。 食事は腹八分目にバランス良く食べる、運動不足にならないように今よりも10分長く身体を動かすなど、毎日少しずつ心がけましょう。

【異所性脂肪の蓄積を予防する献立例】

牛肉ときのこの釜飯

牛肉と、しめじやしいたけ、エリンギなどのきのこをたっぷりと混ぜたご飯の上にうずらの卵やにんじん、いんげんをトッピングした釜飯です。

(栄養のポイント)
牛肉も時々は食べたいもの。脂肪分の少ない部位を使えば、良質のタンパク質を摂ることができ、運動をするための筋肉を作ってくれます。
低カロリーで食物繊維を豊富に含むきのこ類を食べることで、腸内環境を整えましょう。
具沢山のご飯にすることで、白飯を食べ過ぎないように工夫できます。
ほうれん草とかにのすだち浸し

茹でたほうれん草とかにの身を、すだちを絞ったかつおだしに浸した料理です。

(栄養のポイント)
ほうれん草にはビタミンA、C、Kや鉄分が豊富に含まれるので、抗酸化作用や貧血防止などの効果が期待できます。
だしを効かせることで、塩分摂取を控えましょう。
すだちの酸味は唾液の分泌を促進し、消化を助けてくれます。
わかめのかき玉汁

わかめと卵の吸い物です。

(栄養のポイント)
食物繊維とミネラルを豊富に含むわかめは、整腸作用と代謝アップに効果的です。
タンパク質は1種類の食品からではなく、数種類の食品から摂るとパランスが良いです。牛肉、魚、大豆製品などと併せて食べることでよりバランスが良くなるでしょう。
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