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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第41回 世界の長寿食(4)日本 ~おせち料理~

世界の食に学ぶ健康長寿の秘訣、4回目は日本です。WHO(世界保健機関)が2018年に発表した統計によると、日本は世界一の長寿国で、平均寿命は84.2歳。今回は、2020年の最終回ですので、おせち料理を通して日本の長寿の秘訣について学び、素晴らしい2021年を迎える準備としたいと思います。

【御節(おせち)とは】

御節とは、元旦や五節句(人日1月7日、上巳3月3日、端午5月5日、七夕7月7日、重陽9月9日)の節目のことを指します。元来、御節の日に食べられる料理のことを御節料理と言いましたが、現代では、一年の最初の御節料理である正月料理をおせち料理と呼ぶようになりました。

「節」は季節の節で、一年の間に節があるという考え。「供」はお供えで、歳神様に捧げる食事のことを言います。節という特定の日に歳神様にお供えをし、神様と人が一緒に食事をする日を節供(せちく)または御節供(おせちく)と呼ばれたのが語源となっています。

日本には伝統的に、節句や冠婚葬祭などの特別な場面「ハレ」と日常「ケ」という概念があります。
おせち料理を含めたハレの日には、日常生活ではあまり口にすることのない、特別な料理が供されたのです。

【祝い箸】

ハレの日の料理には、両先端が細くなった祝い箸を使います。これは、両口箸とも呼ばれます。両端が細いのは、一方を神様、もう一方を人が使う、つまり神様と人がともに食事をして節目を祝うという意味からです。ですから、使わない方の先端を取り箸として使用するのは、マナー違反。また祝い箸には、折れにくい柳が使われ、真ん中の膨らんだ形から、子孫繁栄を託すという意味もあります。

【おせち料理】

おせち料理は重箱に詰めて供されます。これは重箱を重ねることが、福を重ねることや、めでたさが重なることにつながるからです。本来は五段重で、一の重には数の子や田作り、黒豆など口取り・祝い肴を、二の重には焼き物、特に鰤(ぶり)や鯛、海老などの海の幸を詰めます。三の重には煮物、四の重には酢の物や和物が入ります。五の重は空にしておきます。これは五の重が、年神様から授かる福を詰める場所とされているためで、できるだけたくさんの福が入るようにと、何も入れないようにするのが慣習です。

現代では四段重、三段重へと簡素化されており、一段のおせち料理を作ることもあります。祝い肴の基本である数の子、田作り、黒豆があれば正月を迎えられると言われるほど重要なものなので、重箱の数が少なくなっても、その三種類は入れたいものです。


三段重おせち料理の例
著者とその母がプロデュースしているおせち料理で、写真左から、一の重、二の重、三の重

【おせち料理のいわれと栄養】

本来、おせち料理は保存食がほとんど。煮炊きを控えて、物静かに過ごすために、日持ちする料理が選ばれました。五穀豊穣、家内安全、子孫繁栄、不老長寿、などの意味を込めた縁担ぎの食材を贅沢に盛り込むおせち料理は、野菜、魚介類、肉類、卵と食材は様々であり、栄養バランスも良いのです。では、それぞれについて、いわれと栄養を解説していきます。

(数の子)
数の子はニシンの卵であり、その魚卵の多さから子孫繁栄を願うものです。またニシンは、二親の当て字もあり、夫婦仲円満の意味もあります。

魚の卵ということで、コレステロールが気になる方もいらっしゃるかもしれませんが、コレステロールは鶏卵の3/4程度。タンパク質のほか、EPA・DHAが多く含まれるため、質の良い脂質を摂ることができます。ただ塩漬けしてあるので、塩分過多にならないよう、十分に水にさらした後、味付けするのがポイントです。一方で塩分を抜きすぎると苦味が出るので、程よく仕上げるためには途中でよく味見をしましょう。

(田作り)

かたくちいわしを乾燥させたごまめは、かつて田んぼの肥料に使われたことから「田作り」と呼ばれます。ごまめは五万米とも書き、豊作を祈り、願いが実を結ぶようにという意味が込められています。

カルシウムやミネラルが豊富なので、骨粗しょう症予防やイライラ防止が期待できます。クルミやアーモンドなどのナッツ類を入れるとビタミンEも摂取できるうえ、食感を楽しむこともできます。

(黒豆)
まめに働き、まめに暮らせるようにという意味で、健康を願うものです。

良質のタンパク質、骨粗鬆症を予防するイソフラボンをはじめ、血中コレステロール濃度を抑えるリノール酸を含みます。ビタミンBを多く含むので、疲労回復や風邪予防にも効果的でしょう。ただし、市販品は糖分が多いので、食べ過ぎに注意し、できるだけ手作りしましょう。手作りした時の煮汁は水で割って、レモン汁を足すとジュースにもなります。

(伊達巻)

巻いた形が書物を表し、文筆の上達を願う意味が込められていることから、学業向上を願うものです。

鶏卵と白身魚(はんぺん)を使うことから、タンパク質を豊富に含みます。これも黒豆同様、市販品は糖分が多いので、手作りすると良いでしょう。今回は、フライパンで作ることができる伊達巻をご紹介しますので、ぜひ作ってみて下さい。

フライパンで作る伊達巻き
材料 1本分 作り方
5コ (1) (A)をミキサーにかけます。
砂糖 大さじ2 (2) オーブンペーパーをフライパン(直径約26㎝)より少し大きめに用意し、四つ角に切り込みを入れてフライパンに敷きます。
みりん 大さじ2
少々 (3) フライパンに沿うように(1)を流し入れ、フタをしてごく弱火で25分間焼きます。
白はんぺん 60g
オーブンペーパー 適宜 (4) フライパンから取り出し、鬼まきすをかぶせて裏返し、焦げ目が上になるように置きます。
(5) (4)をしっかりと巻き、輪ゴムで留めて冷めるまで置き、両端を切り落として8切れに切ります。

(紅白かまぼこ)
半円形の形が初日の出を連想させ、紅白であることからも縁起が良いとされます。紅で始まり、紅でとめるのが、盛り付けのポイントです。

白身魚のすり身から作られるので、魚のタンパク質やカルシウムを手軽に摂ることができます。できるだけ着色の少ないものを選ぶと、より健康的に食べられるでしょう。

(たたきごぼう)
ごぼうが地中に深く根を張ることから、家がその地に根を張って安泰になるようにとの願いが込められています。

食物繊維が多いため、腸内環境を整える効果があり、血液中のコレステロールや中性脂肪を下げる効果が期待できます。柔らかく茹でて、熱いうちにすりこぎで叩き繊維を壊すことで、子どもや高齢の方にも食べやすくすることができます。

(きんとん)

キレイな黄色は金貨の色。きんとんは金団と書き、財産が貯まるようにと願うものです。クチナシで色をつけて作ります。

一般的にはさつまいもと栗を使います。さつまいもに含まれるビタミンCは加熱に強いタイプで、食物繊維も含まれます。写真は百合根を使って作ったもので、上には柚子ジャムをのせました。百合根には滋養強壮、咳止め、利尿作用などの効果があります。

何れにしても甘いものですから、食べ過ぎに気をつけましょう。田作り、数の子、黒豆などから食べ始め、少しお腹が落ち着いてきた頃にきんとんを食べれば、血糖値の急激な上昇を防ぐこともできるでしょう。

(昆布巻き)
昆布は「喜ぶ」、巻は「実を結ぶ」を意味しています。

昆布に含まれるヨードは、代謝促進効果があります。甲状腺機能異常がある方は、食べ過ぎに注意が必要です。カルシウム、食物繊維を豊富に含みます。

(金柑)
「金冠」と掛けられていて、黄金のような眩ゆい色と合間って富を象徴しています。

金柑には、レモンと同じくらいのビタミンCが含まれます。また、ビタミンAが含まれるので粘膜を強くして風邪予防にもつながるでしょう。お腹のハリにも効果があるとされ、漢方に使われるケースもあります。金柑は生で食べると下痢をする人もいます。おせち料理に入っているのは甘露煮が一般的ですが、きんとん同様、糖質が多いので、食べ過ぎ、食べ方に注意すると良いでしょう。

(海老)
ひげが長く、腰の曲がった姿を、長寿の老人に見立てたもので、長命と一家繁栄の祈りが込められています。

タンパク質のほか、疲労回復効果のあるタウリン、抗酸化物質であるビタミンEとアスタキサンチン、食物繊維であるキチンが含まれます。またカルシウムも豊富なので、筋肉や骨を強く維持するために効果的です。

(鰤の柚庵焼き)
鰤はワカシ→イナダ→ハマチ→ブリと成体になるに従って名前が変わる出世魚であることから、出世を祈願するものです。

冬が旬の鰤は、脂がのって美味しいですが、脂がのるということは、EPA・DHAが豊富に含まれるということ。EPAには脂質低下作用が、DHAには認知症予防効果があることがわかっています。さらに、カルシウムを作るビタミンDや、代謝を助けるビタミンBが含まれ、鉄分も豊富です。

鰤の柚庵焼きは、みりん、しょうゆ、酒を全て同量混ぜたところに鰤の切り身と柚子の輪切りを漬け混んで焼くだけ。1~2日程漬けておくと美味しいでしょう。

(紅白なます)
紅白の彩りがめでたさを演出し、平安、平和を祈る縁起物です。

にんじんはビタミンA、B、Cを多く含み、風邪予防に効果的な食品のひとつです。大根はデンプン消化酵素のジアスターゼなどが多く含まれているので、消化吸収を助けてくれます。正月は食べ過ぎてしまうという方もいらっしゃるかもしれませんが、大根を食べることで胃腸の調子を整えられるでしょう。酢の物は疲労解消にも良いです。赤カブを使っても良いでしょう。

(煮〆)
れんこんは穴があいていることから、先の見通しが良いとされます。成功を祈願するものです。

にんじん、れんこん、干し椎茸のような野菜のほか、鶏肉、こんにゃくも入り、バランスの良い一品です。正月は野菜不足になりがちですから、煮〆はたっぷり作って、たっぷり食べると良いでしょう。

【屠蘇と雑煮】

(屠蘇)
屠蘇は山椒、肉桂、桔梗などの薬草を調合し、みりんなどに浸したもので、中国から伝わりました。
一年の無病息災を願って、最初に家族そろって頂きます。年少者から飲んでいくのが一般的です。

(雑煮)
歳神様にお供えした品々を餅とともに煮て、歳神様と一緒に食べ無病息災を願うのがお雑煮のいわれです。正月を雑煮で祝うことは室町時代には行なわれていたようです。お供えの品は土地の産物であることから、雑煮には地域性が出ます。

愛知県では、餅菜と餅をかつおだしで食べるというのが一般的ですが、これには諸説あります。徳川家以来の質素倹約の名残だという説、シンプルに仕上げるからこそ素材の良さが引き立てられるのだという説、「名を上げる」ために菜を入れる、など、様々です。

一般的に東日本は醤油ベースのだし汁に角餅を、西日本は味噌ベースのだし汁に丸餅を入れて雑煮が作られます。愛知は味噌文化が浸透しているものの雑煮には味噌は使いません。また、丸餅でなく、角餅を使うので、雑煮は東日本タイプだと言えます。

【最後に】

毎年当たり前のように食べているおせち料理ですが、いわれや栄養を見直してみると、理に適った長寿食であることがわかります。塗りの器や、華やかな食器を使って、テーブルコーディネートを楽しまれるのも良いですね。

2021年も健康にお過ごし下さい。皆様にとって素晴らしい一年となるよう、心よりお祈り申し上げます。

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