文化講座
栄養と代謝(9)水溶性ビタミンの役割
第62回から始まったシリーズ「栄養と代謝」では、私たちの健康に必要な栄養素とその代謝について基礎から学び、ご自身の食生活をより豊かにできるよう、情報をお伝えしています。
シリーズ9回目は、ビタミン、特に水溶性ビタミンについて取り上げます。
【水溶性ビタミンとは】
ビタミンには、水に溶けにくく油に溶けやすい「脂溶性ビタミン」と、水に溶けやすい「水溶性ビタミン」が存在します。前回は脂溶性ビタミンについて取り上げ、ビタミンA、D、E、Kについて解説しました。今回取り上げる水溶性ビタミンには、ビタミンB、ビタミンCが含まれます。さらにビタミンBには、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン(ビタミンB3)、パントテン酸(ビタミンB5)、ビタミンB6、ビオチン(ビタミンB7)、葉酸(ビタミンB9)、ビタミンB12があります(図1. 栄養と代謝(8)「脂溶性ビタミンの役割」参照)。
水溶性ビタミンは、酵素の補酵素として生体内の代謝に関わっています。補酵素とは、代謝に必要な酵素に結合して、酵素の役割を補助する役割を果たすため、補酵素が欠乏すると代謝が低下することになります。代謝の低下により、太りやすくやせにくい、疲れやすい、血行が悪くなり冷え症や顔色が悪くなる、シミやシワ、肌荒れ、便秘、生理不順などの問題が生じます。水溶性ビタミンは一時的に多量摂取しても貯蓄されることなく尿中に排泄されてしまうため、日常的な摂取が必要です。一方、大量摂取による障害があるものもあり、注意が必要です。
【ビタミンB1】
ビタミンB1は、ビタミンの中で最初に発見されました。糖質をエネルギーに変換する際に必要な酵素の補酵素として働きます。
(ビタミンB1の機能と欠乏による弊害)
ビタミンB1の不足は脚気を招きます。脚気は、全身の倦怠感、食欲不振、足のむくみや痺れなどを生じる病気であり、江戸時代には白米の普及によって日本人が白米を主食とするようになってから脚気が目立つようになったとされています。ビタミンB1は、米の発芽部分に含まれているため、玄米や発芽米でなく白米を主に食べると、ビタミンB1不足になってしまうのです(図2)。実際、大正時代には副食を十分に摂取せず白米で空腹を満たすようになった頃や、昭和に入ってからジャンクフードの普及による栄養の偏りが見られた頃には脚気が問題になっています。また、近年でも高齢者における副食不足からビタミンB1不足になって脚気を発症する例が報告されています。
脚気のほか、欠乏により疲労感や食欲不信、便秘、浮腫などを生じることがあります。
一方、ビタミンB1を多量摂取すると、吸収率が低下し、尿中への排泄が高まります。すなわち、体内の濃度が高くなりすぎないような仕組みが備わっています。
(ビタミンB1を含む食品)
前述のように、ビタミンB1は米の発芽部分に多く含まれるため、白米でなく、発芽米や玄米を取り入れるとビタミンB1を摂取することができます。玄米は食物繊維が多く、消化するのが難しいため、白米全てを玄米に変えるのではなく、玄米を少し混ぜて食べるくらいが良いかもしれません。
米以外には、カツオやマグロ、サケなどの魚類、豚肉、鶏肉などの肉類、バナナ、パプリカ、さつまいもなどの果物・野菜類に含まれます。
【ビタミンB2】
脂質代謝を補助する補酵素です。
(ビタミンB2の機能と欠乏による弊害)
ビタミンB2の欠乏により、口内炎や口角炎を起こします。また、成長期の子どもは不足により成長障害を起こすことがあります。また、ビタミンB2の欠乏は、同時に他のビタミンB群(ビタミンB6、ニコチン酸、葉酸など)の欠乏も招くことが多いです。
(ビタミンB2を含む食品)
魚や卵、乳製品、納豆、ほうれん草などに含まれます。
【ビタミンB6】
アミノ酸代謝を助ける補酵素です。
(ビタミンB6の機能と欠乏・過剰による弊害)
正常な免疫の維持や皮膚の抵抗性維持に重要な役割を果たします。このことから、ビタミンB6が欠乏すると、皮膚炎などの免疫系への影響が出ます。この他、欠乏によってけいれんや貧血、高コレステロール血症などが認められます。抗うつ薬や経口避妊薬によってビタミンB6が欠乏することも報告されています。ビタミンB6は、過剰摂取によって神経症状が現れるため、注意が必要です。
(ビタミンB6を含む食品)
ビタミンB6を多く含む食品には、ヒラメ、イワシ、サケなどの魚類、肉類、卵、バナナ、さつまいもなどがあります。
【ビタミンB12】
ビタミンB12は、タンパク質合成やアミノ酸の代謝に関わります。他のビタミンとは異なり、植物はビタミンB12を合成せず、微生物が合成しています。すなわち、動物は微生物が合成したビタミンB12を食物として外界から摂取して体内に取り込んでおり、私たち人間は動物を食することによって動物が取り込んだビタミンB12を摂取しています。
(ビタミンB12の機能と欠乏による弊害)
ビタミンB12は、葉酸の代謝に関わっていて、その欠乏は葉酸が関与するDNA合成に支障をきたすことになります。また、葉酸とともに正常な赤血球を作るために重要な役割を果たしており、ビタミンB12の欠乏は貧血を招きます。
(ビタミンB12を含む食品)
魚介類、レバー、卵、乳製品などの動物性食品に含まれます。
【葉酸】
字の如く、葉にちなんだビタミンであり、葉酸はほうれん草から抽出されました。
(葉酸の機能と欠乏による弊害)
葉酸はDNAやRNAの合成に関わります。DNAやRNAは、細胞を構成する因子であり、細胞の増殖に関与します。葉酸の不足は、貧血を招きます。また、動脈硬化の引き金等になる血清ホモシステイン値を高くすることも知られています。
胎児の神経管閉鎖障害は、無脳症や髄膜瘤などの異常を呈し、2011~2015年においては1万出生あたり6件程度の発生率であると報告されています(2020年食事摂取基準)。受胎前後に葉酸のサプリメントを摂取することによって神経管閉鎖障害のリスクが低減することが様々な試験で明らかにされていることから、妊娠初期だけでなく、妊娠を計画している女性や妊娠の可能性がある女性は葉酸の摂取が推奨されています。
(葉酸を含む食品)
レバー、ほうれん草やブロッコリーなどの新鮮な緑葉野菜に多く含まれます。
【ビタミンC】
別名をアスコルビン酸と言います。16~18世紀にかけての大航海時代に、新鮮な野菜や果物の摂取が制限された船員たちの間で流行した壊血病を予防する成分としてオレンジ果汁から発見されました。壊血病とは、あざや、歯ぐき・歯のトラブル、毛髪や皮膚の乾燥、貧血が起こる病気です。関節痛を伴い、死に至ることもあります。
(ビタミンCの機能と欠乏・過剰による弊害)
ビタミンCは、ビタミンA、ビタミンEと共に、抗酸化作用を有することでよく知られ、ビタミンACE(エース)とも呼ばれます(栄養と代謝(8)「脂溶性ビタミンの役割」参照)。風邪やストレスに対する抵抗力を高めます。風邪をひいた時には、要求量が高まるため、いつもよりも多く摂取することを心がけましょう。また、コラーゲンの合成に関与することから、ビタミンCの摂取が健康的な肌の維持にも関わっていると言えます。さらに、鉄吸収率を向上させる効果もあり、貧血予防にも欠かせません。
前述のように、ビタミンCの欠乏により壊血病になりますが、これは、コラーゲン合成が阻害されるため、出血しやすくなるのだと考えられます。皮下出血のほか、貧血や骨形成不全などが引き起こされます。
一方、ビタミンCの過剰摂取によって、細胞死を引き起こす可能性が指摘されており、サプリメントなどによる多量摂取には注意が必要です。
(ビタミンCを含む食品)
柑橘類、いちご、キウイなどの果実類、パプリカ、ゴーヤ、キャベツなどの野菜類、じゃがいも、さつまいもなどの芋類に含まれます。野菜ジュースに含まれるビタミンCは、これらの食品から摂取する場合と比較して、排泄までの時間が短いとされるので、できればジュースではなく、食品から摂るのが良いでしょう。また、芋類のビタミンCは、加熱をしても壊れにくいとされます。
【まとめ】
今回は、水に溶けやすい水溶性ビタミンについて解説しました。水に溶けやすいビタミンだからといって、過剰症がないわけではないので、過剰摂取しないように気をつけましょう。次回はミネラルについて取り上げます。