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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

栄養と代謝 (2) 糖質と代謝

前回から始まったシリーズ「栄養と代謝」では、私たちの健康に必要な栄養素とその代謝について基礎から学び、ご自身の食生活をより豊かにできるよう、情報をお伝えしていきたいと思います。

シリーズ2回目は、糖質と代謝について解説します。

【糖質とは】

糖質とは、炭水化物に含まれるもののうち、私たちのエネルギー源になるものを指します。炭水化物は、グルコース(ブドウ糖)やフルクトース(果糖)などの単糖から構成されているものの総称ですが、糖質だけではなく、食物繊維も炭水化物に含まれます(図1)。糖質はエネルギー源である一方、食物繊維は私たちの体にとってはエネルギー源にはならないことから、三大栄養素の一つとしての炭水化物は主に糖質のことを指します。本項では糖質についての解説を進め、食物繊維については別途取り上げることにします。

炭水化物から食物繊維を除いたものが糖質ですが、糖質は、分子量の小さい「糖類」と、分子量の大きい「多糖類」に分けられます。「糖類」はグルコースやフルクトース、ガラクトースなど、糖の最小単位である「単糖類」や、2つの単糖類が結合した「二糖類」を指します。二糖類には、グルコースが2つ結合したマルトース(麦芽糖)や、グルコースとフルクトースが結合したスクロース(ショ糖)、グルコースとガラクトースが結合したラクトース(乳糖)があります。

糖類以外の糖質には、3 つ以上の単糖類が結合したものや、10 分子以上の単糖類が結合した多糖類、糖アルコールが含まれます。

図1. 糖質・炭水化物とは
炭水化物には、私たちの体にとってのエネルギー源となる糖質と、エネルギー源にはならない食物繊維が含まれる。三大栄養素の一つとしての炭水化物は、主に糖質のことを指す。

【糖質の摂取量】

前回解説したように、糖質摂取量の目安は、総摂取カロリー量の約5~6割を占めます(図2. 第62回「栄養と代謝(1)栄養と代謝の概論」参照)。

糖質を含む食品には、ご飯、パン、麺類、果物、イモ類、砂糖など甘味料を使ったスイーツ、清涼飲料類などがあります。白米、食パン、うどん、中華麺は主に糖質が含まれる一方、玄米、雑穀米、全粒粉パン、全粒粉パスタには糖質以外に、食物繊維、ビタミンB 群、鉄分が含まれます。

図2. 三大栄養素の摂取バランス
エネルギー摂取量全体に占める三大栄養素の理想的な摂取バランスは、炭水化物50~65%、タンパク質13~20%、脂質20~30%

数年前には、糖質制限ダイエットという食事を取り入れることにより、体重減少の高い効果が得られると話題になりました。この糖質制限ダイエットは、文字通り、食事中の糖質を制限する食事方法で、主に炭水化物を食事から抜く分、エネルギー摂取不足にならないように、タンパク質や脂質でエネルギーを補うというものです。確かに短期間での体重減少効果が大きいのですが、気をつけなければいけない点もあります。そのひとつは、上述のように「炭水化物 = 糖質 + 食物繊維」であるということ。また、炭水化物を含む食品(米、小麦、芋類)にはビタミン類も含まれます。食事中から炭水化物を抜いてしまうと、同時に食物繊維やビタミンの摂取量も少なくなる可能性があります。そのため、野菜や果物、海藻類などを食べ、食物繊維やビタミンが不足しないように気をつける必要があります。

また、糖質制限ダイエットをすると、炭水化物が少ない分、タンパク質や脂質の摂取量が多くなるため、図2の三大栄養素の摂取バランスは大きく崩れます。長期的に糖質制限ダイエットを取り入れたときの安全性に関する証拠は十分でないため、ご自身の食生活に取り入れる際には十分に気をつけましょう。

【糖質の役割】

糖質の役割は、私たちの体を維持するためのエネルギー源であるということです。エネルギー源として使われるのは、炭水化物のうち糖質がほとんどであり、食物繊維は、腸内細菌にとってのエネルギーにはなるものの、私たちの体は直接エネルギー源として使うことはできません。糖質は1g 食べることにより、4kcal のエネルギーを作り出すことができます。

おなかが空いている時、何を食べたいと思いますか?という質問すると、多くの人から、キャンディー、チョコレート、大福、おにぎりなどの答えが返ってきます。これらの食品に共通しているのは、糖質を多く含むということ。糖質は最も素早くエネルギーとして変換できることから、空腹時に効率良くエネルギー供給をするために、本能的に糖質を欲しているのだと考えられます。

脳や神経組織、赤血球、腎尿細管、精巣、酸素が不足しているときの筋肉などは、通常、グルコース(ブドウ糖)しかエネルギー源として利用することができません。朝食を食べずに学校や仕事に出かけると頭が働かないというのも当然のこと。通常、寝ている間に消費されてしまった糖を朝食で補うため、脳を働かせるためのエネルギーが供給されるのですが、朝食を食べないと、脳が働くためのエネルギーが枯渇してしまっており、脳を働かせることができないというわけです。実際、脳は体重の2%ほどの重さしかありませんが、全基礎代謝量のうちの20%は脳によって使われていると考えられているほど、脳はエネルギー源を糖に頼っているのです。

【糖質の代謝】

食品中の糖質の消化は、口の中から始まります。唾液に含まれるアミラーゼという酵素によって分解されると、胃へ運ばれ、胃酸によってpH が低くなるまで唾液アミラーゼによる消化が続きます。胃から十二指腸に送られた後は、膵臓から作られる膵アミラーゼによって、二糖類から少糖類にまで分解され、小腸において単糖類に分解されます。糖質の最小単位である単糖類まで分解された後は、小腸から吸収されます。

体内に吸収された糖質は、一旦肝臓に運ばれ、肝臓から全身の各臓器に分配されてエネルギーとして利用されます。エネルギーとして使われない場合、あるいは過剰に糖質を摂取してしまうと、脂質を合成することとなり、中性脂肪として脂肪組織に蓄積されたり、血中脂質濃度が高くなったりしてしまうため、注意が必要です。

グルコースは、体内では血糖、あるいはグリコーゲンとして存在しています。グリコーゲンは肝臓と筋肉に貯蔵されており、血糖値が低くなった時には肝臓のグリコーゲンからグルコースを作り出します。また、筋肉を動かすためには筋肉でのグルコース消費が大きく増えるため、運動が開始されるとすぐに筋肉中のグリコーゲンが分解されてエネルギー源となります。

【糖質とスタミナ】

長時間の運動が必要な場合には、スタミナが必要です。マラソンのような長時間かけて大量のエネルギーを消費するような自給運動には、筋肉中のグリコーゲン量が重要になってきます。マラソン選手は、筋肉中のグリコーゲンをより多く貯蔵しておくことを目的として、マラソンを走る約1 週間前から、グリコーゲンローディング(あるいはカーボローディング)という食事を取り入れます。この方法により、長時間走り続けても途中でエネルギー不足にならないよう、持久力を高めているのです。

古典的には、試合の約1 週間前に各種の運動を組み合わせて行い、肝臓と筋肉のグリコーゲンを限りなく減少させます。その後3日間、糖質を含まない高脂肪・高タンパク質な食事を摂取し、その期間のグリコーゲン合成を抑制します。さらにその後3日間は、高糖質食に切り替えて一気にグリコーゲン合成を高め、肝臓と筋肉にグリコーゲンを蓄積させます。この方法によって、体内のグリコーゲン量がローディング前の約2倍にも増加すると言われています。しかし、上述の方法では、負担が大きいことから、現在では改良型として、試合の約3日前から糖質の摂取量を多くするという方法に切り替えられているようです。マラソンをされる方は参考にしてみて下さい。

【まとめ】

今回は、糖質の役割と代謝について解説しました。糖質は私たちの体を動かすためのエネルギー源として重要な栄養素であるため、無理に控えることなく、適切に摂取することが大切です。また、体内に余分な脂質を溜め込まないために、適度な運動を組み合わせることも必要です。次回は、糖質の代謝異常によって引き起こされる病気について解説します。

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