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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第12回 わたしたちの体を守る免疫

前回は、腸内環境を健康的に保つことが、わたしたちの体の健康を維持する鍵になっていることを解説しました。 腸内には、100〜1,000兆個以上の腸内細菌が生息しているとともに、全身に存在する免疫細胞の60〜70%が腸内に存在するといわれており、腸が免疫の鍵といってもいいほど大切な器官です。近年の研究によって、免疫の異常がさまざまな病気を引き起こすことが明らかになってきました。そこで今回は、わたしたちの体を守る「免疫」について解説します。

【免疫】

わたしたちの体は、微生物やウイルスなどの病原菌、ダニやホコリ、花粉などの汚染物質、発がん物質など、日々さまざまな外敵(非自己)に曝されています。しかし病気を引き起こすことなく、健康に生活することができています。それは、「免疫」がわたしたちの体を守ってくれているからなのです。「免疫」とは、「疫(えき)を免れる(まぬがれる)」という意味であり、体に有害なものを排除し、自己や無害なものには反応しない自己防衛システムをさします。

【免疫を司る細胞たち】

免疫は、実に複雑なシステムで成り立っており、さまざまな種類の細胞が担当しています(図1)。異物(非自己、抗原)が体の中に侵入してきたときに、第一線で働くのが、骨髄系幹細胞から作られる細胞集団。異物を食べて処理するマクロファージや好中球、全身に情報提供をする樹状細胞、異物を攻撃し破壊するNK細胞などの細胞から成り立つ、この一次防御機構を自然免疫といい、体を守るために最前線で戦っています。

一方、自然免疫は、体に入ってきた異物を記憶しておくことができません。そこで登場するのがリンパ球系幹細胞から作られる細胞集団。T細胞とB細胞が存在します(図1)。一次防御機構で異物を取り込んで情報を得た樹状細胞は、リンパ節へ情報を運んでヘルパーT細胞に抗原の侵入を知らせます。ヘルパーT細胞は司令塔としてキラーT細胞に抗原を攻撃することを指示すると同時に、B細胞に抗体を作らせます。このシステムを獲得免疫といいます。これに対して、免疫の過剰な活性化にブレーキをかける制御性T細胞という重要な細胞もいます。獲得免疫は時間がかかるのですが、異物の情報を記憶することができるので、再び同じ異物が侵入してきたときには、素早く攻撃して異物を排除することができるのです。

この仕組みを利用したのがワクチンによる予防接種です。インフルエンザのワクチンを接種しておくのは、流行する前に感染力を弱くしたインフルエンザウイルスを注射することによって、あらかじめ獲得免疫に記憶させておき、同じインフルエンザウイルスが侵入してきたときに発症を防いだり、症状を軽くしたりするなどのメリットがあります。

これらの細胞は全て骨髄の中の造血幹細胞から作られて、リンパ管を介して全身に運ばれ、全身に存在するリンパ節のほか、脾臓や胸腺、腸などに分布して、常に異物に対する監視機構と攻撃体制を整えています。さまざまな免疫担当細胞がバランス良く、チームプレイすることによって、わたしたちの健康を守ってくれているのです。

【免疫バランスが崩れると】

本来、わたしたちの体を守ってくれているはずの免疫がバランスを崩してしまうとどうなるのでしょう。免疫システムが正常に働くための鍵となるのが、「自己」と「非自己」の認識、そして過剰な免疫反応を防ぐことです。

免疫は「非自己」に対してのみ反応するのですが、何かしらの理由で、自己の一部を非自己とみなして攻撃してしまう場合があり、自己免疫疾患を発症することがあります。関節リウマチや全身性エリテマトーデスなどの膠原病(こうげんびょう)や1型糖尿病などがあります。

また、免疫が過剰に反応してしまうことによって引き起こされるのが、アレルギーです。花粉やハウスダスト、ダニ、特定の食品や薬品、金属などに対して過剰に反応する場合があります。

近年の研究では、ガンの発症にも免疫バランスが重要であることが明らかになってきています。免疫が正常に働いているときには、ガン細胞は異物として認識され、排除されますが、増殖し続けるガン組織では、免疫を回避するためのシステムが働いてしまいます。つまり、免疫の抑制機構が働いているため、ガンを攻撃することができません。現在、これに対して免疫を正常に働かせるための治療が始まっています。

【免疫バランスを維持するために】

正常な免疫システムの維持には、以下の5つが大切です。

①バランスの良い食事を心がけましょう
 食生活の偏りや栄養バランスの乱れによって、免疫に必要な栄養が不足すると、免疫の低下を招きます。健康な免疫細胞を維持するために、タンパク質やビタミンA、ビタミンEは欠かせませんし、ミネラルや脂質も必要です。なるべく多くの種類の食品をバランス良く食べることを心がけましょう。バランスの良い食事とは、主食(ご飯やパン、麺などの炭水化物)に主菜(魚、肉、卵、豆類などのタンパク質・脂質)、副菜(野菜、きのこ、海藻などのビタミン、ミネラル)、牛乳・乳製品・果物などを組み合わせた食事です。図2の「食事バランスガイド」は、厚生労働省と農林水産省によって策定されたものです。バランスの良い食事を摂るための指標として使うと良いでしょう。

また、腸内細菌の数が少ないと、病原体に感染しやすく、症状が悪化しやすいという報告もあります。味噌やヨーグルトなどの発酵食品、食物繊維などを食べて、腸内細菌のバランスを整えることで、免疫バランスを維持しましょう(第11回「腸から超健康へ!」参照)。

②適度な運動を取り入れましょう
 「食事バランスガイド」の中にもあるように、適度な運動を取り入れることは、健康に生きるために必要です。運動することにより、自律神経の働きを整えて、免疫細胞が正常に働くのを助けましょう。昼間に30分から1時間程度の運動を取り入れると良いでしょう。

③睡眠をしっかりとりましょう
 自律神経のバランスが免疫機能に大きく影響しています。その自律神経の働きを整えるために、質の良い睡眠をとることが大切です。

④ストレスをためず、笑いましょう
 ストレスもまた、自律神経のバランスを崩す原因です。適度なストレスは生活にメリハリを与え、肥満防止などにもつながりますが、過度のストレスは免疫バランスを崩し、体調不良の原因となります。できるだけ笑って、ストレスをためないようにしましょう。

⑤体を冷やさないようにしましょう
 体温の低下は免疫機能の低下を招き、体温の上昇は免疫機能の活性化につながります。バランスの良い食事と運動を組み合わせて、血行を良く保ち、新陳代謝を良くすることで、栄養を全身の免疫細胞に運び、老廃物を除去して免疫細胞が正常に働くでしょう。

【免疫バランスを整える献立例】

大豆と手羽先と昆布の煮物

水で戻した大豆と椎茸、水で戻して小さく切った昆布、鶏手羽先を圧力鍋に入れ、しょうゆ、酒、砂糖で煮た料理です。

(栄養のポイント)
昆布などの海藻類には、不足しがちな水溶性の食物繊維が含まれ、腸内環境を整えます
大豆と手羽先から良質のタンパク質を摂ることができます
煮物は、必要な油を摂り、必要以上の油を摂らないようにすることができます
豚肉とれんこんの味噌炒め

一口大に切った豚肉と、薄切りにしたれんこん、千切りしたパプリカをごま油、甜麺醤、紹興酒、しょうゆなどで炒めた、中国料理の炒め物です。

(栄養のポイント)
れんこんの食物繊維、発酵食品である味噌を食べて、腸内環境を整えましょう
根菜類を食べるときには、少量の油を一緒に摂ると便通が良くなります
予防医学としての食を学ぶ
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