文化講座
第17回 快眠生活で健康に!
前回は、自律神経には交感神経と副交感神経があり、バランスを保ちながら私たちの健康を維持していること、逆に自律神経バランスが乱れることによって体に不調をきたす可能性があることを解説しました(第16回「自律神経を整える」参照)。自律神経バランスを整えるためには、食事や運動、睡眠、休息のバランスが大切であること、ストレスをためない生活を送るための食事のヒントなどをご紹介しました。今回のテーマは「睡眠」。私たちが睡眠不足のときに能力や意欲が低下したり、不快な気分になったりすることを経験的に知っているように、 快適な睡眠を得ることは自律神経のバランスにも、ストレスの軽減にも大切です。私たちは人生の1/3を寝て過ごすのですから、できるだけ睡眠の質を高めて、質の良い生活を送りたいものです。
【日本人の睡眠時間】
睡眠が大切であることは言うまでもなく、睡眠に対する社会の関心は年々高くなっています。一方で、現代人の睡眠時間は年々短くなり続けており、厚生労働省の調査では2011年時点の日本人の平均睡眠時間が7時間39分、1976年からの35年間で26分短くなっているという結果が出ています。特に、日本人の平均睡眠時間は欧米諸国と比べると短く、女性ではその傾向がさらに顕著であるというデータがあります。また、日本人の5人に1人は不眠に悩んでいると推計されており、睡眠時間が短いだけでなく、睡眠の質が低下していることも大きな問題になってきています。
【睡眠障害とは】
睡眠に関して何かしらのトラブルを抱えている状態を睡眠障害といいます。不眠に悩む人が多いと述べましたが、不眠は睡眠障害のひとつで、睡眠障害の中で最も多い症状です。特に、「4週間異常の不眠が続いて、心身に苦痛があり、生活に支障をきたす症状」を不眠症といいます。不眠症には様々あり、①寝つきに30分から1時間要する入眠困難 ②途中で何度も目が覚めたり、その後眠れなかったりする中途覚醒 ③眠りが浅く、睡眠時間のわりに眠った満足感が得られない熟眠障害 ④希望するよりも前に起きてしまい、その後眠れない早朝覚醒の4つに分けられます。
睡眠障害には不眠以外の障害もあります。例えば、睡眠時無呼吸症候群のように睡眠中の呼吸が異常になる場合もあれば、夜十分に眠っているにもかかわらず日中に眠くなる過眠症もあります。また、寝言が多かったり、寝ているにもかかわらず歩き回ったりするような睡眠時随伴症や、睡眠中や入眠の際に足がムズムズしたりピクピクと動いたりして思うように眠ることができないこともあります。また、夜勤が多い人は経験があるかもしれませんが、昼夜逆転してしまうことによって体内の日内リズムが崩れてしまい、眠りのリズムが狂ってしまうこともあります。
【体内時計】
私たちの体内には、概日リズムという、24〜25時間周期で変動するリズムが備わっています。これは一般的に体内時計ともいいます。概日リズム(体内時計)は本来25時間周期であるため、 リズムは毎日1時間ずつずれていくはずですが、毎日一定の時間になると目が覚め、おなかが空き、一定の時間になると眠くなります。朝、太陽の光を浴びると、目を介して脳の視交叉上核という場所から全身に起きなさいという指令が伝わり、1日のリズムが開始されます。また、食事をとることによっても肝臓や筋肉、血管、心臓などの全身の末梢組織に存在する時計遺伝子を誘導してリズムがリセットされます(図1)。このようにして、私たちは24時間かけて一定のリズムを刻むことができるのです。
現代社会に生きる私たちは、いつでもすぐに情報を得ることができ、メールやテレビ電話、ウェブ会議などを通じて世界中の人たちといつでも情報交換ができます。それはとても便利なことである一方、昼夜構わず仕事ができる環境にあり、体内時計を乱したり、それによって睡眠障害を引き起こしたりする原因にもなっています。自分に合ったリズムの生活を送ることは、睡眠の質の維持や向上にもつながるだけでなく、健康維持にも大切です。
【睡眠を誘導するメラトニンとその材料】
さて、快適な睡眠を誘導するためには、メラトニンというホルモンが適切に分泌されることが必要です。夜になるとメラトニンの量が増えてきて眠りが誘導され、夜中にその量が最大になります。メラトニンが適切な時間に十分量作られることは、眠りの質を向上させるためにとても重要です。そのメラトニンは、食事中のトリプトファンというアミノ酸の一種から作られます(図2)。トリプトファンは食事から体内に取り込まれると、セロトニンを作ります。セロトニンは、脳内リラックスホルモンともいわれ、脳内に運ばれると感情や気分をコントロールして精神の安定に関わり、メラトニンの原料にもなります(図2)。すなわち、トリプトファンを十分に食事中から摂っておくことは、ストレスを軽減させ、質の高い睡眠をもたらすことにつながるのです。
ちなみに、年を重ねるごとに睡眠時間が短くなるのもメラトニンに依存しています。つまり、メラトニンの分泌量は10歳くらいで最大となり、その後加齢に伴って減少していきます。いつも眠い10代の頃と比べると、50代や60代になって睡眠時間が短くても良くなるのは納得ですね。
では、セロトニンやメラトニンを作る原料となるトリプトファンはどんな食品から摂れるのでしょう。トリプトファンは、肉類や魚介類、チーズ、卵、豆類、ナッツ類などのタンパク質を多く含む食品に豊富に含まれています。これらの食品にはトリプトファンが含まれていますが、効率良くセロトニンを脳内に運んでメラトニンを作るためには、炭水化物やビタミン類も欠かせません。
【快眠生活を送るために】
①朝食をしっかり食べて、夕食は就寝2~3時間前までに
トリプトファンを含む食品に加えて、炭水化物やビタミンを組み合わせたバランスの良い食事を心がけましょう(バランスの良い食事は、第16回「自律神経を整える」参照)。特に、朝食にトリプトファンをしっかり摂ると、日中にセロトニンが増えてストレス軽減につながりますし、夜にメラトニンが作られて質の良い睡眠を得ることができます。また、満腹状態は睡眠を妨げるので、夕食は就寝の2〜3時間前までに済ませるのが理想的です。寝る前にハーブティーやホットミルクを飲んでリラックスするのも良いでしょう。
②運動をしましょう
昼間に運動することで、血行が良くなりますし、夜に成長ホルモンが分泌されてしっかりと眠ることができるでしょう。目標は昼間に30分から1時間の運動。寝る少し前のストレッチもリラックス効果をもたらしてくれます。
③就寝1時間半前に入浴を
寝る直前にお風呂に入ると神経が興奮して寝つきにくくなります。就寝の1時間半前くらいには入浴して十分に体を温めましょう。入浴後は体が冷えないように温かくしてください。
④睡眠サイクルを活用する
睡眠は、眠りの深いノンレム睡眠と眠りの浅いレム睡眠を組み合わせて90分のサイクルを刻んでいます。特に入眠直後の2サイクル、すなわち3時間は睡眠の質を決定する重要な時間帯です。最初の3時間でしっかりと眠れるように、気候に合わせて室温や布団を調節しましょう。また、90分の睡眠サイクルを活用して、90分の倍数の時間、すなわち6時間、7時間半、9時間などで目覚ましをかけると良い目覚めが期待できます。
【快眠生活を送るための献立】
キャベツの明太パスタ
茹でキャベツと明太子、ツナを添えたスパゲティです。
- (栄養のポイント)
- キャベツにはリラックス効果をもたらすGABA(ギャバ)というホルモンが含まれます。
- ツナや明太子にはタンパク質が含まれ、炭水化物と野菜を一緒に食べることで、セロトニンやメラトニンを効率良く作用させることができます。
ギリシャ風サラダ
きゅうり、トマト、玉ねぎ、パプリカ、オリーブなどの野菜に焼いた鶏胸肉と、フェッタチーズあるいはカッテージチーズを混ぜ、レモン、オリーブオイル、塩で作ったドレッシングをかけたサラダです。
- (栄養のポイント)
- GABAを豊富に含むトマト、トリプトファンを含む鶏肉やチーズなどを取り入れたカラフルサラダです。彩りを良くすることで自然に栄養バランスが良くなります。
- 食物繊維もたっぷりです。
- トリプトファンとビタミン類を効率良く一緒に食べることができます。キャベツの明太パスタのように、炭水化物を一緒に食べると、より良いでしょう。
バナナとくるみのパウンドケーキ
輪切りにしたバナナとくるみを入れてカカオ味に仕上げたパウンドケーキです。パウンドケーキとは、グラニュー糖、バター、小麦粉が同量入るケーキ。混ぜて焼くだけなので、簡単に、健康に、おやつを作ることができます。
- (栄養のポイント)
- バナナやくるみにはトリプトファンが含まれ、食物繊維や体に良いオメガ9も豊富です。