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文化講座

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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第10回 老いるオイルと老いないオイル(2)

前回は、代表的な脂質であるコレステロールと中性脂肪について解説しました。コレステロールも中性脂肪も、摂り過ぎは病気のもとですが、わたしたちの体のエネルギー源であり、細胞膜を構成する成分やホルモンの原料として健康を維持するために必要なものなので、バランス良く、適度に摂取しなければなりません。特に最近は、脂肪酸のバランスが健康の鍵であると注目を集めていますので、今回は脂肪酸バランスについて解説することに致しましょう。

【脂肪酸の種類】

わたしたちが食べる油の多くは、中性脂肪(トリグリセリドまたはトリアシルグリセロール)からできています。中性脂肪は、ひとつのグリセリンに3つの脂肪酸が結合したものであり、どの脂肪酸を含むかが脂質の質を決定することを前回述べました(第9回「老いるオイルと老いないオイル」)。

脂肪酸は、その構造に二重結合が含まれないか含まれるかによって、大きく飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられます(図1)。飽和脂肪酸は、動物性の油に多く含まれ、常温で固体のものが多いのが特長です。例えば、牛肉や豚肉、鶏肉などの肉類に含まれる脂肪は、常温で白い固まりになっており、高温で加熱することによって溶けます。一方、不飽和脂肪酸はサラダ油やオリーブ油などの植物油に多く含まれ、常温で液体です。動物性であっても、魚に多く含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)は不飽和脂肪酸であり、常温で液体であるような例外もあります。

【飽和脂肪酸】

飽和脂肪酸の中には、脂肪酸の長さによって短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸の3種類に大きく分けることができます。短鎖脂肪酸は、酢やバターに含まれます。また、短鎖脂肪酸は、大腸内で腸内細菌によっても作られます。これらの短鎖脂肪酸は、腸内環境を整えることによって便秘の改善や、肥満の防止など、わたしたちの健康維持に貢献しています。

また、最近話題の中鎖脂肪酸(またはMCT: Medium Chain Triglyceride)は、ココナッツオイルや牛乳などに含まれます。脂肪分が多いので、太りやすいと考える人もいるかもしれませんが、中鎖脂肪酸はエネルギーとして燃焼しやすいため、脂肪がたまりにくい脂肪酸として注目を集めています。

一方、長鎖脂肪酸は、肉類やパーム油などに含まれます。体内で固まりやすい性質があるため、血液をドロドロにして血管を詰まりやすくしてしまいます。肉類はタンパク質源として重要ですが、悪玉コレステロールの増加や肥満の原因にもなりますので、食べ過ぎには気をつけましょう。

【不飽和脂肪酸】

不飽和脂肪酸は、一価不飽和脂肪酸であるオメガ9系脂肪酸と、多価不飽和脂肪酸であるオメガ6系、オメガ3系の大きく3つに分けることができます。オメガ9系はわたしたちの体の中でできるのに対し、多価不飽和脂肪酸(オメガ6系、オメガ3系)は自身では作ることができないため、食物として摂取する必要があります。

【オメガ9系脂肪酸】

代表的なオメガ9系脂肪酸はオレイン酸であり、オリーブ油に多く含まれます。通常、油は空気に触れたり加熱したりすると、酸化してしまい、味と風味を損ねます。一般的に不飽和脂肪酸は酸化しやすいと言われていますが、オメガ9系は酸化しにくいので、生でも加熱しても、美味しく食べることができます。

オメガ9系は悪玉LDLコレステロールを低下させる作用があります。地中海周辺ではオリーブオイルの摂取量が多く、動脈硬化症の発症が少ないことからも健康効果が期待できます。オリーブ油以外にも、くるみやアボカドに豊富に含まれます。ただし、油ですので食べ過ぎには注意が必要です。今食べている油をオリーブ油に置き換えて、1日大さじ1~2杯くらいにとどめておくのがいいでしょう。

【オメガ6系脂肪酸】

わたしたちの体の中では作られない脂肪酸なので、食事から摂取する必要があります。オメガ6系は、サラダ油、コーン油、大豆油、サフラワー油などに多く含まれます。

このような油は揚げ物や炒め物などに使われることが多いことから、現代人はオメガ6系脂肪酸を摂り過ぎているのが現状です。オメガ6系の食べ過ぎは、心筋梗塞やアレルギーの発症にも関わっていることがわかってきているので、揚げ物や炒め物の食べ過ぎには注意し、なるべく市販の油ものを食べないようにしたいものです。特に、酸化されやすい油なので、いつ調理されたかわからないような揚げ物などは控えましょう。

【オメガ3系脂肪酸】

植物由来の亜麻仁油やエゴマ油にはα-リノレン酸というオメガ3系脂肪酸が含まれます。また、魚の油であるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)もオメガ3系脂肪酸です。これらの油は、健康効果が高いとされており、特にEPAの血液サラサラ効果や中性脂肪を下げる効果は有名です。DHAは脳・神経の発達に重要であること、うつ病や認知症の予防効果などが報告されていることからも、積極的に食べたい油です。

最近では、亜麻仁油、エゴマ油、EPA・DHAを市場でよく見かけるようになりました。これらの油を積極的に取り入れることは良いことですが、オメガ3系はとても酸化しやすいので、加熱調理には不向きです。できあがった料理にかけて、風味を楽しみながら食べるといいでしょう。

近年、オメガ3系とオメガ6系の摂取比が重要であることがわかってきており、健康診断でも血液中のEPA(代表的なオメガ3):AA(アラキドン酸、代表的なオメガ6)の比を調べられるようになりました。EPA:AA比が1~2が理想的であると言われていますので、調べてみるのも良いでしょう。食べる量は、オメガ3:オメガ6比が1:4程度であるのが理想的であるとされています。しかしながら、現代人はオメガ3:オメガ6比が1:10~1:50にもなっていると言われています。オメガ6を食べ過ぎないように、積極的にオメガ3を食べるように心がけたいものです(図2)。

【トランス脂肪酸】

不飽和脂肪酸には、二重結合の周りの構造の違いによって、シス型とトランス型の2種類があります。天然に存在する不飽和脂肪酸のほとんどはシス型ですが、わずかに天然に含まれるトランス脂肪酸や、油脂の加工や精製の過程でできてくるトランス脂肪酸が存在します。

例えば、牛や羊などの動物の胃では、微生物の働きによってトランス脂肪酸が作られるため、牛肉や羊肉、牛乳やチーズなどの乳製品にはわずかにトランス脂肪酸が含まれています。一方、油を加工する過程で「水素添加」という方法が用いられると、人工的にトランス脂肪酸が作られる場合があります。例えば、マーガリンやショートニング、それらを原料に使ったパンやケーキなどにはトランス脂肪酸が含まれる場合があります。

トランス脂肪酸は、欧米人においては悪玉コレステロールであるLDLを高め、善玉コレステロールであるHDLを減らすことによって心臓病の発症リスクを高めるなど、健康への悪影響を示すことが報告されており、多く摂り過ぎないように基準が設けられています。日本ではそのような基準はありませんが、食事中の脂質摂取量が増えることによって、トランス脂肪酸の摂取量も多くなりますので、脂質全体を食べ過ぎないように気をつけましょう。また、マーガリンやショートニングなどを食べ過ぎないようにすると良いでしょう。

【オメガ9系脂肪酸を豊富に含む献立例】

ブロッコリーのパスタ

たっぷりのオリーブ油で、にんにく、赤唐辛子をじんわり炒め、茹でて刻んだブロッコリーとショートパスタ、刻んだアンチョビを混ぜた料理です。

(栄養のポイント)
オリーブ油は、オメガ9を含み、動脈硬化症の予防に役立つでしょう。加工過程が少ないエキストラバージンを使うようにしましょう。
ブロッコリーを加えることで、ビタミンCを併せて摂ることができます。
アンチョビは塩分が多いので、入れ過ぎには気をつけ、その他の塩分は足さなくても良いでしょう。
マグロとアボカドのタルタル

1cm角に切ったマグロとアボカド、みじん切りにした玉ねぎを、レモン、マスタード、オリーブオイル、塩で作ったドレッシングに合えた料理です。

(栄養のポイント)
マグロは刺身用を使い、オメガ3系脂肪酸を摂ることにより、中性脂肪やコレステロールを下げる効果が期待できます。
アボカドにはオメガ9系脂肪酸が豊富に含まれます。切った後、レモン汁を振りかけておくと酸化、変色を防ぐことができます。
くるみのキャラメリゼ

くるみを炒って飴かけにしたおやつです。

(栄養のポイント)
くるみにもオメガ9系脂肪酸、ビタミンEが豊富に含まれます。
食物繊維も含まれており、健康的なおやつです。
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