愛知県共済

インターネット公開文化講座

文化講座

インターネット公開文化講座

予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第6回 3色の脂肪

第5回では、余剰エネルギーとなった中性脂肪が体のどの部分に蓄積するかによって、皮下脂肪、内臓脂肪、異所性脂肪の3種類の脂肪があることを述べました(第5回「異常な脂肪蓄積は死亡への入り口」参照)。これらの脂肪組織はいずれも、基本的には「白色脂肪細胞」という細胞で構成されており、この細胞は脂肪を蓄えることを得意とする細胞。ところが、私たちの体の中には白色脂肪細胞だけでなく、褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞という脂肪細胞も存在しています。褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞は、脂肪を燃やすことを得意とし、体脂肪を分解して太りにくくする細胞なのです。そこで今回は、体に蓄積する3色の異なる脂肪について解説することにします。

【白色脂肪細胞とは】

私たちが日常的に「脂肪」という時、白色脂肪細胞のことを指します。 3つの異なる場所に蓄積される脂肪、すなわち皮下脂肪、内臓脂肪、異所性脂肪はいずれも、基本的に白色脂肪細胞で構成されています。白色脂肪の最も特徴的な機能は、余剰エネルギーを中性脂肪として蓄えることです(図1)。

蓄えられた脂肪は、飢餓状態に陥ってしまった場合にエネルギー源として使われます。山で遭難した人が数日間何も食べないで生きていられるのも、いざという時のために脂肪にエネルギーが蓄えられているからなのです。

また、白色脂肪は「アディポサイトカイン」と呼ばれる様々な物質を分泌しています。太っていない時の白色脂肪は、食欲を調節して食べ過ぎないようにしたり、生殖機能を正常に保ったり、心臓の働きを助けたりする善玉アディポサイトカインを作っています。ですので、適切な量の白色脂肪を持っていることは、健康維持に必要なのです。実際、白色脂肪がないと不妊になったり、糖尿病を発症したりすることがあります。

一方で、一定以上の脂肪が蓄積されると、肥満になってしまうので気をつけなければいけません。肥満になると、善玉のアディポサイトカインが少なくなり、悪玉のアディポサイトカインが多くなるため、メタボリックシンドロームや動脈硬化症を発症してしまいます(第4回「いまさら聞けないメタボリックシンドローム」参照)。

ちなみに、脂肪細胞の数は生まれた時、あるいは子供の時に決まっていて、大人になってからは増えないという説がありますが、最近の研究では、大人になってからも白色脂肪細胞の数は増えることがわかってきました。太り始めの頃は細胞のひとつひとつが脂肪を蓄えて大きくなってきます。さらに肥満が進行してくると、手持ちの脂肪細胞におさまりきらないので、脂肪細胞の中にある幹細胞(脂肪細胞の元になる細胞)から新たに脂肪細胞ができてきて、さらに太ってしまうというわけです。

【褐色脂肪細胞とは】

白色脂肪がエネルギーを蓄える細胞である一方、褐色脂肪はエネルギーを使う細胞です。細胞の中にはミトコンドリアという、エネルギーを使って熱を作り出す働きがある小器官がありますが、褐色脂肪細胞はミトコンドリアをたくさん有するために褐色を呈しています(図1)。

生まれたばかりの赤ちゃんは体温維持のために自ら熱を生み出す必要があるので、肩甲骨の間や腎臓の周りに褐色脂肪がたくさんあります。これまでは新生児にしか存在しないと考えられていた褐色脂肪ですが、最近の研究によって大人にも褐色脂肪が存在することがわかってきました。大人になると肩甲骨の間の褐色脂肪はなくなっていきますが、首から鎖骨、肩、脇の下や背骨のあたりに褐色脂肪があるようで、これは、脳に送り込まれる血液を温めることによって脳を守るためであるとも考えられています。

寒さの中で体温を保っていられるのは、褐色脂肪が熱を作り出しているからです。筋肉と同じような働きをしているわけです。褐色脂肪は夏よりも冬に多くなることも知られているので、寒い環境にいることによって褐色脂肪が増えると考えられますが、痩せるために寒い環境にいることが効果的であるかどうかは明らかにされていません。

褐色脂肪が余剰の脂肪を燃やすことができるということは、体脂肪を分解して太りにくくするということ。実際、褐色脂肪が多い人ほど寒さに強く、太りにくいことが報告されています。またその結果、糖尿病や高脂血症の発症を予防できる可能性があると考えられています。

【ベージュ脂肪細胞とは】

白色脂肪と褐色脂肪とは異なり、ごく最近見つかったのがベージュ脂肪細胞です。その名の通り、白色でもなく褐色でもない、ベージュ色の脂肪です(図1)。ベージュ脂肪は褐色脂肪と同様、熱を産生する能力がありますが、皮下脂肪の中に白色脂肪と一緒に存在しており、起源は白色脂肪と同じです。

複雑ですが、要するに、ベージュ脂肪は元々、白色脂肪でありながら、条件が整えば褐色脂肪に変化することができる、白色と褐色の中間体のようなものなのです。すなわち、白色脂肪をベージュ脂肪に変換することができれば、肥満やメタボリックシンドロームを予防することができると考えられるわけで、現在、どうすれば白色脂肪をベージュ脂肪に変換することができるのか、という研究が世界中で精力的に行われています。

【3色の脂肪のバランス】

これまでの内容から、白色脂肪を必要以上に増やさないことと、褐色脂肪やベージュ脂肪を増やすことができれば、太りにくい体質を作り、健康的に生きられると想像していただけるでしょう。では、具体的に何をすればいいのでしょう?

まず、白色脂肪を必要以上に増やさないようにするためには、食べ過ぎに注意して、適度に運動すること。詳しくは、第4回「いまさら聞けないメタボリックシンドローム」で、肥満やメタボリックシンドロームにならないための対策や食事例を紹介していますので、ご参照ください。

一方、褐色脂肪やベージュ脂肪は、寒さを感じること、あるいは運動することによって増えると考えられています。先ほども述べましたが、褐色脂肪は夏よりも冬に多くなることが知られていますし、実験的に低温に長い間さらされた場合に褐色脂肪やベージュ脂肪が増えることが報告されています。ただ、寒さを感じることと、「冷え」は異なるので、体を冷やさないように注意する必要があります。脳が寒さを感じるには19℃以下が適温とされていますが、19℃以下で何時間も過ごしたら体が冷えてしまいますので、太りにくい体質作りに「寒さを感じること」をどう取り入れるかは、今後の研究の成果に期待するとしましょう。

そのほか、運動することによっても褐色脂肪やベージュ脂肪は増えることがわかっていますので、運動は日々の生活に積極的に取り入れたいものです。交感神経を活性化させることが褐色脂肪やベージュ脂肪を増やすポイントですが、交感神経を活性化する食べ物として、唐辛子が挙げられます。唐辛子に含まれるカプサイシンは、辛味成分であり、新陳代謝を上げて太りにくい体質を作ることが知られています。しょうがや黒胡椒などの香辛料、レモンやグレープフルーツなどにも脂肪を燃やす効果があります 。

また、魚の油の主成分であるEPAやDHAを実験動物に食べさせると、褐色脂肪やベージュ脂肪が増えることが最近報告されました。世界中の疫学研究から、魚の油は肥満を抑制する効果があることは知られていますので、魚を食べることによって私たちの体内でも褐色脂肪やベージュ脂肪が増える可能性はあるでしょう。

【太りにくい体質を作るための献立例】

チゲ鍋

キャベツやきのこ類、ニラ、ネギなどのたっぷりの野菜と、豚肉、豆腐、アサリなどのタンパク質源、白菜キムチをたっぷり入れた鍋料理です。しょうがとにんにくのせん切りを隠し味に入れて、体が温まること間違いなし!お好みで唐辛子をかけても良いでしょう。

(栄養のポイント)
唐辛子にしょうが、にんにくと、脂肪を燃やす効果のある食材をまとめて食べることができます。鍋料理は、体を温めたい冬の寒い時期にピッタリです。
野菜もたっぷり食べられて、タンパク質も摂ることができるので、バランス良く栄養素を摂取することができます。
魚のユッケ風

刺身用の魚をごく薄く切り、せん切りにしたキュウリと白ネギをのせて、しょうゆ、コチュジャンとごま油をベースにしたドレッシングをかけた料理です。写真はかつおですが、まぐろやアジなど、旬の魚を使うと油がのって美味しいでしょう。

(栄養のポイント)
魚の油には、EPAやDHAが含まれます。褐色脂肪やベージュ脂肪を増やし、太りにくい体質を作る効果が期待できます。EPAには動脈硬化を予防する効果もあり、1日に1gのEPAを摂取することで健康維持ができるといわれています。
もち米麹と唐辛子を発酵させて作るコチュジャンは、脂肪を燃やすだけでなく、発酵食品としての整腸作用も期待できます。
五色きんぴら

ごぼう、こんにゃく、にんじん、絹さや、豚薄切り肉をせん切りにして炒め煮したきんぴらです。少し豚肉などのタンパク質を加えることによって旨味が増して、より美味しく食べられるでしょう。

(栄養のポイント)
根菜類は、食物繊維を豊富に含むので、腸の運動量を高めます。また、根菜類には冷え体質を改善する効果もあります。
にんじんに含まれるビタミンAは、油で炒めることによって体に吸収されやすくなるので、効率良く栄養素を摂取することができるでしょう。
予防医学としての食を学ぶ
このページの一番上へ