愛知県共済

インターネット公開文化講座

文化講座

インターネット公開文化講座

予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第55回 老いるオイルと老いないオイル(6)多価不飽和脂肪酸①

第50回から始まった新しいシリーズ「老いるオイルと老いないオイル」では、脂質について基礎から詳細に知り、ご自身の食生活にどう活かせるか、考えていきます。

シリーズ6回目は、不飽和脂肪酸の中でも二重結合を複数有する、多価不飽和脂肪酸について、詳細に解説します。

【多価不飽和脂肪酸:オメガ6系脂肪酸とオメガ3系脂肪酸】

これまでに、不飽和脂肪酸は、二重結合の数や位置によって分類され、二重結合を複数有する脂肪酸は多価不飽和脂肪酸と呼ぶということを述べました(第53回「老いるオイルと老いないオイル(4)不飽和脂肪酸」参照)。多価不飽和脂肪酸には、二重結合が入る場所によって、オメガ6やオメガ3に区別することができます。メチル基(CH3)側から数えて6個目の炭素(C,オメガ6位)に二重結合が入っていればオメガ6系脂肪酸に分類されますし、メチル基側から数えて3個目の炭素(オメガ3位)に二重結合が入っていればオメガ3系脂肪酸に分類されます(図1)。

例えば、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)は、いずれも単素数が20個の脂肪酸ですが、最初の二重結合の位置の違いによって、前者はオメガ6系、後者はオメガ3系に分類されます。ちなみに、アラキドン酸には4個、EPAには5個、ドコサヘキサエン酸(DHA)には6個の二重結合が入っています。

図1.多価不飽和脂肪酸の構造
脂肪酸は炭素(C)が連なった形状をしており、メチル基(CH3)側から数えて何個目の炭素に二重結合が入っているかによって、オメガ6、オメガ3脂肪酸に分類できる。
図中のオメガ6脂肪酸は、例としてアラキドン酸、オメガ3脂肪酸は、例としてエイコサペンタエン酸(EPA)の構造を示した。

多価不飽和脂肪酸はいずれも、私たちの体内で作ることができないため、「必須脂肪酸」と呼ばれ、食品などから摂取する必要があります。オメガ6系には、リノール酸、γ-リノレン酸、アラキドン酸などが、オメガ3系には、α-リノレン酸、EPA、DHAなどがあります(第53回「老いるオイルと老いないオイル(4)不飽和脂肪酸」図1参照)。

【多価不飽和脂肪酸が含まれる食品と使い方】

多価不飽和脂肪酸の特徴として、二重結合がたくさん含まれるため、酸化されやすいという性質があります。このような性質から、多価不飽和脂肪酸を含む油は長期保存に向かず、調理の際にも揚げ物や炒め物ではなく、加熱しないドレッシングなどに使うのが良いとされます。

(オメガ6系脂肪酸)
オメガ6系脂肪酸が含まれる食品には、代表的なものとして、大豆油やコーン油、綿実油、グレープシードオイルなどがあります。日本農林規格(JAS)によると、2018年現在、油菜、綿実、大豆、ごま、紅花(サフラワー)、ひまわり、とうもろこし、米、ぶどうを原材料とする油、もしくはこれらの油が2種類以上混合された調合油をサラダ油と言います。また、精製油よりも精製度の高いものをサラダ油と言います。

オメガ6系脂肪酸を含む油は一般的に安価で、調理油として、炒め物や揚げ物に使うことが多いです。しかし、酸化されやすいという性質から、揚げ油を何度も使い回すことや、開封後長期にわたって保存するのは好ましくありません。未開封の状態であれば、賞味期限が1~2年程となっていますが、開封後はなるべく1~2ヶ月で使い切るようにしましょう。安いからといって大きな油のボトルを買ってしまうと、開封してからの時間が長くなってしまい、酸化した油を食べることになるので、体に良いとは言えません。もちろん、2ヶ月を過ぎて急激に酸化が進むわけではありませんから、2ヶ月を過ぎても使うことはできますが、なるべく良い状態の油を消費するために、小さいボトルをこまめに使うのが良いでしょう。

油は冷暗所に保存するのが良いことから、「油を冷蔵庫に保存してはどうか?」と考える人もいることと思います。冷蔵庫に保存するのは酸化防止の観点からはそれほど効果的であるとは言えないようです。香りがついたオリーブオイルなどであれば、香りを損ねないように冷蔵庫に保存しておくのは良いかもしれません。

(オメガ3系脂肪酸)
オメガ3系脂肪酸が含まれる食品には、代表的なものとして魚介類や、アマニ油、エゴマ油のような植物油が挙げられます。最近では、魚介類から抽出した油が商品化されており、魚介類を食べなくても食品にかけて健康的なオメガ3系脂肪酸を摂取することができると注目を集めています。

オメガ3系脂肪酸は、オメガ6系脂肪酸よりもさらに二重結合の数が多いため、より酸化しやすいです。そのため、魚介類由来オイル、アマニ油、エゴマ油のいずれも、加熱調理をしないように商品に記載してあります。加熱してみると、生臭い匂いがしてきますが、これは油が酸化しているからであり、劣化した油を摂取することになってしまうので、味覚的にも健康的にもお勧めできません。これらの油は、そのまま食べることを目的として作られているので、生で食べられるもの、あるいは調理した料理にかけて食べましょう。ドレッシングとしてサラダにかける、あるいは、味噌汁や納豆に混ぜて食べるという人が多いですが、このほかにも、ヨーグルトやアイスクリームにかけたり、ポテトサラダを作るときにマヨネーズを少なくしてオイルを足したりするのもお勧めです。温かい料理にかけるのは問題ないので、スパゲッティの仕上げに混ぜるなどしても良いでしょう。

もちろん、魚介類そのものは生で食べても、加熱調理しても風味が損なわれることはありませんし、健康面での損失もないので、食べ方を気にする必要はありません。調理方法は気にしすぎず、積極的に魚介類を食べましょう。

【多価不飽和脂肪酸と健康】

(オメガ6系脂肪酸)
オメガ6系脂肪酸は必須脂肪酸であり、完全に欠乏してしまうと皮膚炎や生殖機能異常が起こると示唆されています。しかしながら、日本人における必要摂取量を設定できるような十分な科学的根拠はないため、最低摂取量としての目標値は設定されていません。むしろ前述のように、現代人は植物性調理油からたくさんオメガ6系脂肪酸を摂取していること、オメガ6系脂肪酸は体内で炎症を引き起こす物質を作り出すことから、食べ過ぎに気をつけることの方が重要でしょう。

(オメガ3系脂肪酸)
オメガ3系脂肪酸が私たちの健康維持にとって大事であることは、これまでにも何度も触れてきましたし、テレビや新聞などでも健康オイルとして取り上げられているので、意識してたくさん食べようという方は多いことと思います。

魚の油が注目されるようになったきっかけは、30年以上も前に遡ります。デンマークに住む白人と、イヌイット(カナダ北部の遊牧民)についての研究で、両者は同じ程度の脂質を摂取しているにもかかわらず、イヌイットの方が心筋梗塞で亡くなる人が少ないという結果が得られたのです。イヌイットは寒い地域に住んでいるため、野菜をほとんど食べず、主食はアザラシの肉と言います。アザラシは何を食べて生きているのでしょう?答えは魚です。一方、デンマークの白人は脂質源が牛肉や豚肉などの飽和脂肪酸を含む食品。そこで、両者の血液を調べてみると、イヌイットの血液中には白人と比べて、より多くのEPAが含まれていることが明らかになりました。

日本でも、福岡県久山町において1961年から疫学調査「久山町研究」が続いており、その中で、オメガ3系脂肪酸であるEPAの摂取量と、オメガ6系脂肪酸であるアラキドン酸(AA)の摂取量の比率(EPA/AA比)が高ければ高いほど、心筋梗塞などの心血管系疾患による死亡率が低いことが報告されています。すなわち、EPAをたくさん摂取した方が心血管疾患による死亡を回避できるということです。

日本人では一日あたり0.9g(900mg)のEPAおよびDHAを摂取している人で心筋梗塞罹患の減少が認められることから、18歳以上では一日1g(1,000mg)以上のEPAおよびDHAの摂取が推奨されています。では、一日に何をどれだけ食べれば良いのでしょう。図2のグラフに、可食部100gに含まれるEPA、DHAの量をまとめました。例えば、一番上のサバ(開き干し)であれば、100g食べると2,200mgのEPAと3,100mgのDHAを摂取でき、一日の推奨量を十分に摂取できます。一方、EPA、DHAは牛肉、豚肉、鶏肉にはほとんど含まれません。これは、魚介類が餌として食べるプランクトンにオメガ3がたくさん含まれるためであり、食物連鎖で魚(あるいはイヌイットが主食にするアザラシ)に蓄積するからです。このグラフを参考に、日々の食事の中で上手にEPAとDHAを摂取しましょう(図2)。

資料:文部科学省「日本食品標準成分表 2015年版(七訂)脂肪酸分析表編」
水産庁 https://www.jfa.maff.go.jp/j/kikaku/wpaper/h29_h/trend/1/sankou_6_2.html

図2.食品可食部100gに含まれるEPA,DHAの量
EPA、DHAは魚介類に多く含まれ、日本人における一日の推奨摂取量は1g(1,000mg)とされている。一方、豚肉、鶏肉、牛肉にはEPA、DHAはほとんど含まれない。

【オメガ3脂肪酸を積極的に摂る 参考レシピ・ブリの柚庵焼き】

正月料理として欠かせないブリの柚庵焼きですが、ブリにはEPA、DHAが豊富に含まれること、特に今が旬のブリは、脂が乗っておいしい、すなわちEPA、DHAの量も多いので、是非、日常の食生活にも取り入れてみて下さい。

(材料:4人分)

  • ブリ(1切れ100g程度)  4切れ
  • みりん          大さじ5
  • 酒            大さじ5
  • しょうゆ         大さじ5
  • 柚子(輪切り)      1個分

(作り方)

  1. 1)ブリは柚子を入れた調味料に一晩から2日程度漬けておきます。
  2. 2)1)の汁気をペーパータオルなどで取り除きます。
  3. 3)オーブン皿にオーブンペーパーを敷き、2)をのせて190℃で10~12分間焼きます。
    (フライパンで焼いても良いです)

※写真のブリは1切れ50g程度のサイズです。
※写真には、伊達巻と南天が添えてあります。

【まとめ】

今回は、不飽和脂肪酸の中でも多価不飽和脂肪酸について解説しました。意識しなくても十分に摂れるオメガ6系脂肪酸の量を減らして、意識しないとなかなか摂取できないオメガ3系脂肪酸の量を増やすように心がけましょう。次回はオメガ3系脂肪酸について、最新の知見を踏まえながら、学術的な解説をします。

予防医学としての食を学ぶ
このページの一番上へ