文化講座
私たちの身体と栄養(5)皮膚
2024年9月からは「私たちの身体と栄養」というテーマを取り上げています。私たちの身体には、心臓や肝臓、筋肉などのさまざまな臓器があり、臓器を作るための細胞が存在します。臓器や細胞は、協調してはたらき、私たちの生命や健康を維持するために機能しています。また、私たちが食べたものは、消化吸収された後、全身に運ばれて細胞や臓器がはたらくためのエネルギーとなります。本シリーズでは、身体の仕組みと栄養との関連について、解説していきます。今月は、皮膚を取り上げます。
【皮膚について】
人体で最大の臓器である皮膚は、日本人の成人の平均で約1.6m²の面積(およそ畳1枚分)もあり、体重の2割弱もの重量があります。皮膚は、表皮、真皮、皮下組織の3層から成り立ちます(図1)。表皮の中でも、最も深く、かつ真皮の近くに存在する基底層という部分で角化細胞が作られ、徐々に表面に移動します。一番外側にある角質層(または角層)まで到達すると、ケラチンというタンパク質を豊富に含む平らな角質細胞に分化して、最終的には剥離し、垢となって脱落します。この一連の流れを皮膚のターンオーバーと呼びます。ターンオーバーは個人差があり、年齢や部位によっても異なるものの、約40~50日周期で繰り返します。爪も皮膚の一部です。爪はケラチンを豊富に含み、皮膚の角質が変化して固くなったものです。
図1. 皮膚の構造
皮膚は外側から順に、表皮、真皮、皮下組織の3層からできている。表皮の中でも最も深く、真皮の近くに存在する基底層で新しい角化細胞が作られ、徐々に表面に移動する。一番外側にある角質層(角層)に移動した後、最終的には垢となって脱落する。皮膚には、汗腺や皮脂腺、毛包、毛も存在する。
(表皮)
表皮は、角質層を含む4層(表面から、角質層、顆粒層、有棘層(ゆうきょくそう)、基底層)で構成されています。表皮には、神経や血管は通っていませんが、自然免疫に関わるランゲルハンス細胞という免疫細胞の一種や、メラノサイトという色素細胞が存在しています。この色素細胞は、紫外線を浴びることでメラニンという黒い色素を作り出し、日焼けによる肌の色の変化をもたらしています。
(真皮)
表皮よりも厚い層で、血管、リンパ管、神経が存在します。また、汗を出すための汗腺や、皮脂を分泌する皮脂腺もあります。真皮は、コラーゲン線維と、それらを結びつけるエラスチンによって支えられています。これにより、皮膚の弾力が保たれています。一方、紫外線や加齢によりコラーゲンやエラスチンが減少すると、皮膚が弾力を失い、シワの原因となります。
(皮下組織)
皮下組織は、真皮の下に存在する組織で、主に脂肪細胞を含み、皮下脂肪組織とも呼ばれます。脂肪細胞にはエネルギーを貯蔵する役割があり、外からの刺激や衝撃を緩和するような役割があります(第89回「私たちの身体と栄養(4)脂肪組織」参照)。
【皮膚の役割】
皮膚は、人体の最も外側にある臓器として、さまざまな役割を果たしています。
① 外的な刺激からの保護
皮膚の中でも最も外側にある角質層は、バリア機能を有する重要な場所です。バリア機能によって、物理的な刺激、あるいは化学物質や細菌、紫外線など、さまざまな外的刺激から体を保護しています。また、体内からの水分喪失を防いで角質層内の水分量を一定に保つ役割も果たしています。
皮膚には、表皮にランゲルハンス細胞、真皮には真皮樹状細胞という免疫細胞が存在します。いずれも異物を捕捉して、近くのリンパ節に移行し、捉えた異物の情報をT細胞という別の免疫細胞に提示するような役割を果たします。外来異物を速やかに認識し、免疫を活性化させることにより、私たちの体を外来異物から守ってくれています。
このようなバリア機能が破綻すると、アトピー性皮膚炎のような皮膚の病気だけでなく、気管支喘息などのアレルギー疾患の発症にもつながることが最近の研究から明らかにされています。
② 汗や皮脂の分泌
皮膚には汗腺や皮脂腺が存在し、汗や皮膚を分泌します。汗を分泌することにより、水分や体温を調節しています。また、皮脂腺から分泌される弱酸性の脂(皮脂)は、皮膚の乾燥を防ぐ効果や、細菌の繁殖を防ぐ効果があります。
③ 体温調節
暑い時には汗が出ますが、皮膚の表面に出てきた汗が蒸発する時には、熱が奪われるために体温が下がります。また、皮膚の血管を拡張することによって、高温になった血液の流れをよくして熱を逃すことも行っており、結果として体温上昇が防がれます。一方、寒い時には立毛筋という皮膚に存在する筋肉を収縮させることにより、熱を産生し、体温が奪われないように調節しています。
④ 知覚作用
皮膚は感覚器官でもあり、外部からの物理的な刺激(触感)や、温かい感覚(温感)、冷たい感覚(冷感)などの情報を察知するセンサーとして働いています。
【健康な皮膚を支える栄養素】
皮膚を構成するコラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸は全てタンパク質です。これらのタンパク質は分子のサイズが大きいため、体の外から表皮を通過して真皮に浸透することは難しいと考えられます。食べ物から摂取したタンパク質が消化されて小さい分子のアミノ酸になると、体内に吸収されます。これらを原料として、真皮に存在する線維芽細胞はコラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸などを作り出します。つまり、20種類あるアミノ酸をバランス良く摂取することが皮膚を構成し、弾力を保つためのタンパク質の維持に重要であると言えます(第88回「私たちの身体と栄養(3)筋肉」参照)。
また、ビタミンAの不足により、皮膚の乾燥・肥厚・角質化や免疫能の低下、粘膜上皮の乾燥などを招き、感染症にかかりやすくなるため、ビタミンAが不足しないように摂取しましょう。ビタミンAを含む主な動物性食品は、鶏レバー、うなぎ、鶏卵、主な植物性食品は、にんじんやカボチャなどの色の濃い野菜です。
ビタミンCは、コラーゲン線維の構築に欠かせません。柑橘類、いちご、キウイなどの果実類、パプリカ、ゴーヤ、キャベツなどの野菜類、じゃがいも、さつまいもなどの芋類を食べましょう。野菜ジュースに含まれるビタミンCは、通常の食品から摂取する場合よりも排泄までの時間が短いとされています。その他、ビタミン B1、B2、B6は皮膚や粘膜の健康維持を助ける栄養素です。