文化講座
栄養と代謝 (1) 栄養と代謝の概論
今回から始まったシリーズ「栄養と代謝」では、私たちの健康に必要な栄養素とその代謝について基礎から学び、ご自身の食生活をより豊かにできるよう、情報をお伝えしていきたいと思います。
シリーズ1 回目は、栄養、エネルギーと代謝について概説します。
【私たちの体に必要な栄養素】
私たちの体に必要な栄養素は、大きく5つあります。糖質(炭水化物)、タンパク質、脂質(脂肪)、ビタミン、ミネラルです。
このうち、糖質、タンパク質、脂質は私たちが体を動かすためのエネルギー源であり、体を構成する成分として「三大栄養素」と呼ばれます。食品表示を見ると、1食あたり何kcal、とエネルギー量が表示されていることがありますが、このエネルギー量は食品中に含まれる糖質、タンパク質、脂質の量に応じて計算されます。
上述の三大栄養素が効率良く体の中で使われるためには、ビタミン、ミネラルの存在が欠かせません。これらは代謝の補助をする役割を担っています。また、ミネラルはカルシウムに代表されるように、骨などの体の構成成分でもあります。三大栄養素にビタミン、ミネラルを加えて「五大栄養素」と言います(図1)。
また最近では、食物繊維を含めて六大栄養素と呼ぶという考え方もあります。食物繊維は私たちの体に直接良い効果をもたらすわけではありませんが、私たちの腸に共生している腸内細菌の餌となり、腸内細菌が食物繊維を分解することによって、間接的に私たちの体にとって良い効果をもたらす物質を作り出してくれていることが明らかになってきました(図1)。
【エネルギーとは】
エネルギーは、私たちの生命活動や運動などに必要不可欠なものです。体温を一定に保ち、心臓や腎臓などの臓器の活動、神経の伝達を正常に行うために利用されます。その多くは、最終的に熱として体から放出されています。
私たちは、食事中から炭水化物、タンパク質、脂質をエネルギーとして摂取しており、これを「摂取エネルギー」、その量を「エネルギー摂取量」と言います。一方、生命活動や運動などによって使われるエネルギーを「消費エネルギー」、その量を「エネルギー消費量」と言います。
エネルギー摂取量がエネルギー消費量を上回るような状態が長く続くと、体脂肪として体内に蓄積され、結果的に体重が増加します。逆に、エネルギー摂取量がエネルギー消費量を下回るような状態が続くと、体を構成しているタンパク質や脂肪を燃やしてエネルギーとして使用し、体重が減少することがあります(図2)。
図2.摂取エネルギーと消費エネルギー
エネルギーの摂取量が消費量を上回る状態が長期間続くと体脂肪として体内に蓄積されるため、体重が増加する。一方、エネルギーの摂取量が消費量を下回る状態が続くと、体を構成するタンパク質や脂肪が燃焼され、体重が減少する。
エネルギー摂取量は、炭水化物、タンパク質、脂質について、エネルギー換算係数を用いて算出したものの合計で示されます。すなわち、炭水化物とタンパク質であれば、1g あたりのエネルギー量が4kcal(キロカロリー)、脂質であれば、1g あたりのエネルギー量が9kcal であるため、それぞれの栄養素をどれだけ食品中から摂取したかによって、総エネルギー摂取量が算出できるわけです。
炭水化物、タンパク質、脂質を摂取する際の理想的なバランスは、全体のエネルギー摂取量に対して、炭水化物が50~60%、タンパク質が13~20%、脂質が20~30%とされています(図3)。例えば、20~60 代で中程度に体を動かす女性の場合、1 日あたり1,950kcal 程度のエネルギーを消費するとされますので、炭水化物を300g 食べて、300g × 4kcal = 1,200kcal(全体の約61%)、タンパク質を75g 食べて、75g × 4kcal = 300kcal(全体の約15%)、脂肪を50g 食べて、50g × 4kcal = 450kcal(全体の約23%)となります(図3)。
図3.三大栄養素の摂取バランス
エネルギー摂取量全体に占める三大栄養素の理想的な摂取バランスは、炭水化物50~60%、タンパク質13~20%、脂質20~30%
一方、消費エネルギーは、身体活動、食事後の熱産生、基礎代謝に分類されます。身体活動は、体を動かすことによって消費されるエネルギーのことです。また食事後の熱産生は、食事の後、栄養素を分解(消化・吸収)する過程で使われるエネルギーのことで、食事をすると体がポカポカと温かくなるのを感じる人もいるでしょう。基礎代謝は、生命活動の維持に必要不可欠なエネルギーのことで、寝ていても無意識のうちに心臓が1 日約10 万回拍動したり、腎臓は1 日150 リットルもの血液を濾過したりしています。基礎代謝に使われる消費エネルギーは最も多く、全体の60%をも占めています(図4)。
図4.消費エネルギーとその内訳
消費エネルギーは身体活動、食事後の熱産生(食事誘発性熱産生)、基礎代謝に分けられ、基礎代謝に使われるエネルギーが全体の60%と、最も多い。
【代謝とは】
代謝とは、私たちが生きていくために体内で起こる化学反応全般のこと。私たちの体は、酸素や栄養素を得て、消化吸収を行い、生きていくために必要な物質やエネルギーを確保しています。一方、不要になったものは老廃物として体外へ排出されます。この一連の流れが「代謝」であり、私たちの体を構成し、体を動かすために必要なエネルギーを得るために欠かせない仕組みです。私たちが食事中から摂取する栄養素をエネルギー、あるいは体の維持に必要なものに変換する反応のことを指します。植物が、太陽光、水、二酸化炭素を利用して、糖質と酸素を作り出すのも代謝です。
代謝には、大きく分けて、「異化」と「同化」があります。食事中から摂取するエネルギー源である、炭水化物、タンパク質、脂質は高分子(分子量の大きく、複雑な分子)であるため、消化によって分解して低分子(分子量の小さく、単純な分子)に変換する必要があります。高分子から低分子に変換する過程を「異化」と言い、異化の過程では、炭水化物はグルコースに、タンパク質はアミノ酸に、脂質は脂肪酸などの低分子に分解されます。
一方、分解され低分子になった栄養素は、「同化」により高分子を合成します。例えば、アミノ酸からタンパク質を作るのは「同化」であり、作られたタンパク質が、筋肉や骨などの私たちの体を構成しています(図5)。
異化と同化を繰り返し、代謝することによって、私たちは必要なエネルギーを獲得し、生命活動を維持しているのです。
【まとめ】
今回から始まった「栄養と代謝」シリーズ。今回は、栄養、エネルギー、代謝について、次回以降に必要な基礎知識を概説しました。次回からは、各栄養素について、その意義と代謝の詳しい解説をしていきます。