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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第51回 老いるオイルと老いないオイル(2)脂質の質を決めるもの~積極的に摂りたいオイルと控えたいオイル~

第50回から始まった新しいシリーズ「老いるオイルと老いないオイル」では、脂質について基礎から詳細に知り、ご自身の食生活にどう活かせるか、考えていきます。

シリーズ2回目は、脂質の質が何によって決まるのかについて解説します。

【脂質の質を決める脂肪酸】

脂質の質は何によって決まるのでしょうか。食事から摂取する主な脂質=トリアシルグリセロールは、1つのグリセロールと3つの脂肪酸が結合したものです。この3つの脂肪酸が、どのような性質のものであるかによって、脂質の質が決まります。すなわち、脂質の質は、脂肪酸の違いによって決まるというわけです。

前回、私たちが食事から摂取する脂質は、常温で固体の「脂」と、常温で液体の「油」の大きく2つに分けられることをお伝えしました(第50回「老いるオイルと老いないオイル(1)私たちの健康に不可欠な脂質」参照)。この形状の違いも脂質の質の違いによってもたらされます。「脂」と「油」の違いを決めるのは、脂肪酸に二重結合が入っているか入っていないか。前者の「脂」には、飽和脂肪酸という、二重結合を持たない脂肪酸が含まれるため、常温で固体の形状をとります。一方、「油」には、不飽和脂肪酸という、二重結合を持つ脂肪酸が含まれるため、常温で液体になるのです(図1)。

食事から摂取したトリアシルグリセロールは、体の中で分解されてエネルギーとして利用された後、余剰は再びトリアシルグリセロールとして体に貯蓄されるため、食べた脂質の質と、体の中の脂質の質はよく似たものになるということになります。すなわち、質の良い脂質を摂ることが健康維持につながると言えます。

図1.脂質の質を決める脂肪酸
私たちが食事から摂取する脂質は、常温で固体の「脂」と、常温で液体の「油」が存在します。
いずれの脂質もトリアシルグリセロールという、グリセロールに3つの脂肪酸が結合した形をしています。トリアシルグリセロールに飽和脂肪酸が含まれていれば「脂」に、不飽和脂肪酸が含まれていれば「油」になります。

【脂肪酸の種類】

ここで、脂肪酸の種類について説明しておきます(図2参照)。前述のように、脂肪酸は二重結合の有無によって飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の2種類に分類されます。飽和脂肪酸は常温で固形のもの、すなわち、肉の脂身やバター、ココナッツオイル、バターなどに多く含まれます。飽和脂肪酸は、脂肪酸の長さによって、短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸があります。詳細は次回以降解説します。

不飽和脂肪酸はさらに、二重結合を1つ含む一価不飽和脂肪酸と、複数の二重結合を含む多価不飽和脂肪酸、トランス型の二重結合を含むトランス脂肪酸に分かれます。さらに二重結合の位置により、オメガ3系脂肪酸、オメガ6系脂肪酸に分かれます。一価不飽和脂肪酸は、別名オメガ9系脂肪酸とも呼ばれ、オリーブ油やキャノーラ油などに含まれます。オメガ3系脂肪酸は、良質の脂肪酸として注目されているもので、魚介類、特に青魚に多く含まれるほか、亜麻仁油やエゴマ油にも含まれます。オメガ6系脂肪酸は、コーン油や大豆油、サフラワー油など、いわゆるサラダ油に多く含まれます。トランス脂肪酸は油脂を精製・加工する際にできるもので、マーガリンやショートニングなどに含まれることがあります。

図2に示す脂質は赤字、青字、緑字で色分けしました。赤字は、私たちが普段の生活で十分量、あるいは過剰量摂取しているので、なるべく控えたい脂質です。一方、青字の魚油は摂取量が不足しているので積極的に摂取したい脂質。緑字は健康にとって良い効果が報告されているものの、摂り過ぎるとエネルギー過多(カロリー摂取過多)になってしまうので、摂り過ぎには注意が必要な脂質です。

脂質は体の健康維持にとって必要なものなので、標準的に食べている人であれば脂質の摂取量を極端に減らす必要はありません。むしろ、脂質の量を変えるのではなく、肉類を食べる代わりに魚介類を食べる、洋食の調理にはサラダ油ではなくオリーブオイルやキャノーラ油を使うなど、脂質を置き換えることで、より健康的に食べることができます。日頃の脂質の質を今一度見直してみましょう。

図2.脂肪酸の種類の違いによる脂質の質の違い
脂肪酸は二重結合の有無により、大きく飽和脂肪酸(二重結合なし)と不飽和脂肪酸(二重結合あり)に分かれます。不飽和脂肪酸はさらに、二重結合を1つ含む一価不飽和脂肪酸と、複数の二重結合を含む多価不飽和脂肪酸、トランス型の二重結合を含むトランス脂肪酸に分かれます。さらに二重結合の位置により、オメガ3系脂肪酸、オメガ6系脂肪酸に分かれます。トランス脂肪酸は油脂を精製・加工する際にできるものです(図中の赤字は控えたい脂質、青字は積極的に摂りたい脂質、緑字は、健康に良いとされているが摂り過ぎには注意が必要な脂質)。

【脂質の使い方・調理方法】

質の良い脂質を摂取するために、もう一点気をつけるべきことがあります。脂質の使い方、調理方法です。一般的に、購入したオイルは開封後1~2ヶ月のうちに使い切るのが良いとされます。脂質は酸化されやすいからです。開封後長期間放置したオイルは、新鮮なものと比べて臭いが変わっていることにお気付きでしょうか? 臭いの変化は、脂質が酸化された指標です。開封後はなるべく早く使い切るようにしましょう。

脂質が酸化されやすいか酸化されにくいかは、脂肪酸によって異なります。この性質を考慮して調理法を変えると、より健康的に食べることができます(図3参照)。

飽和脂肪酸全般とオメガ9系脂肪酸は酸化されにくいため、加熱調理しても、性質は大きく変わりません。例えば、オリーブ油はドレッシングにして加熱しないで食べることもあれば、グリルや炒めものをするときにも使います。いずれの方法でも酸化されにくいため、健康的に食べることができます。

一方、多価不飽和脂肪酸は酸化されやすいため、できれば加熱調理しない方が良いと言えます。
しかし、お刺身を毎日食べるわけにもいかないですし、加熱調理にサラダ油を使わないわけにもいきません。では、どうしたら良いの? 揚げものをするときには比較的安価なサラダ油を使うことが多いと思いますが、一度揚げものに使った油は使いまわさないようにするなど、工夫ができます。最近では、サラダ油にも酸化されにくいオメガ9系が高配合された油が市販されているので、そういった油を使うのも良いでしょう。魚は焼いたり揚げたりしても良いので、積極的に食べましょう。

注意が必要なのは、亜麻仁油、エゴマ油と、魚油として売られている油です。これらはとても酸化されやすいので、加熱調理には使えません。ドレッシングとして使う、納豆やヨーグルトに混ぜて食べるなど、加熱せずに食べるようにしましょう。

図3.脂肪酸の種類と特徴
飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸(オメガ9系脂肪酸)は酸化されにくいため、加熱調理してもしなくても、大きく性質が変わらない状態で食べることができます。一方、多価不飽和脂肪酸は酸化されやすいため、調理方法や食べ方を工夫する必要があります。

【まとめ】

今回は、脂質の質を決める脂肪酸について詳細に解説しました。脂肪酸の種類と特徴を知ることによって、少しの工夫でより健康的に食べることができます。今の食生活で、揚げものや炒めものを食べることが多い人、惣菜売り場で惣菜を買うことが多い人は、そういった食事を控えるようにし、魚やオリーブ油などに置き換えてみましょう。脂質の摂取量を極端に減らす必要はなく、使用する脂質を置き換えることによって、おいしく、楽しく、健康的に脂質を摂りましょう。

次回以降は、それぞれの脂質について、私たちの健康に対する効果と実際の調理例などを挙げつつ、詳細に解説していきたいと思います。

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