文化講座
第54回 老いるオイルと老いないオイル(5)一価不飽和脂肪酸
第50回から始まった新しいシリーズ「老いるオイルと老いないオイル」では、脂質について基礎から詳細に知り、ご自身の食生活にどう活かせるか、考えていきます。
シリーズ5回目は、不飽和脂肪酸の中でも二重結合を1つだけ有する、一価不飽和脂肪酸について、詳細に解説します。
【一価不飽和脂肪酸:オメガ9系脂肪酸とオメガ7系脂肪酸】
前回、不飽和脂肪酸は、二重結合の数や位置によって分類され、二重結合を1つだけ有する脂肪酸は一価不飽和脂肪酸と呼ぶということを述べました(第53回「老いるオイルと老いないオイル(4)不飽和脂肪酸」参照)。一価不飽和脂肪酸には、二重結合が入る場所によって、オメガ7やオメガ9に区別することができます。前回までにオメガ9、オメガ3、オメガ6などが登場しましたが、オメガの番号は、二重結合が入っている位置を示してあります。メチル基(CH3)側から数えて9個目の炭素(C,オメガ9位)に二重結合が入っていればオメガ9系脂肪酸に分類されますし、メチル基側から数えて7個目の炭素(オメガ7位)に二重結合が入っていればオメガ7系脂肪酸に分類されます(図1)。
図1 一価不飽和脂肪酸の構造
脂肪酸は炭素(C)が連なった形状をしており、メチル基(CH3)側から数えて何個目の炭素に二重結合が入っているかによって、オメガ9、オメガ7脂肪酸と分類することができる。図中のオメガ9脂肪酸は、例としてオレイン酸、オメガ7脂肪酸は、例としてパルミトオレイン酸の構造を示した。
【一価不飽和脂肪酸が含まれる食品と使い方】
一価不飽和脂肪酸の特徴として、酸化されにくいという性質があります。酸化されにくい性質ゆえ、一価不飽和脂肪酸を多く含む食品は、比較的長い期間の保存が可能であり、加熱調理しても品質が変わりにくいと言えます。
(オメガ9系脂肪酸)
オメガ9系脂肪酸が含まれる食品には、代表的なものとして、オリーブオイルやべに花油、キャノーラ油、米油などがあります。また、アボカドやアーモンド、それらの食材から抽出されたアボカドオイルやアーモンドオイルなどにも含まれます。いずれもスーパーやデパート、輸入食材を扱う店などで購入することができます。特に、一部のオリーブオイル、べに花油、キャノーラ油、米油はいずれも比較的安価に購入できます。
(オリーブオイルの分類)
オリーブオイルは、その作り方によって複数の種類に分けられます。スーパーなどで比較的安価で買えるオリーブオイルは、ピュアオリーブオイルと呼ばれ、精製、すなわち原油に含まれる不純物や臭いを物理的、化学的に脱色や脱臭したものです。一方、オリーブの実を絞ってジュースにした状態のものは、バージンオリーブオイルと呼ばれます。バージンオリーブオイルの中でも、香りや成分の基準を満たした最高品質のものをエクストラバージンオリーブオイルと言います。バージンあるいはエクストラバージンのオリーブオイルは、いわゆる一番搾りのオイルであり、香りや味を併せ持っているため、高価である場合が多いです。
オリーブオイルは、産地や品種によって味や香りが異なります。オリーブオイルは地中海に面するヨーロッパや北アフリカの国々で生産されます。スペイン、イタリア、ギリシャなどで作られたオリーブオイルは日本で見かけることも多いでしょう。この他、フランスやクロアチア、ポルトガル、トルコなどのヨーロッパ諸国や、モロッコ、チュニジアなどの北アフリカでも作られています。日本でも小豆島でオリーブオイルが作られていますし、チリで作られるオリーブオイルもあります。
最近、日本でもオリーブオイルの専門店ができてきており、大抵の店では試飲してみることができます。いろいろと飲み比べてみると、とてもマイルドなものから、喉が焼けるような刺激の強いものまでさまざまあります。味のマイルドなものは、バターの代わりとしてパンにつけて食べるのが一般的。マイルドながら、少し香りのあるものはサラダに、もう少し香りが強く草のように香るものは魚介類の料理に、刺激の強いものは肉料理に、と使い分けます。専門店に訪れたら、どういう料理に使いたいか、どういうタイプのオリーブオイルが好みかなどを伝えて、試飲させてもらいましょう。安価ではないので、よく選んでから買いたいものです。
また、純粋なオリーブオイルだけでなく、レモンやトリュフの香りをうつしてあるものや、スモークされたものなども売られています。ご自身で香りをつけても良いでしょう。例えば、オリーブオイルにローズマリーやセージ、オレガノ、バジルのような好みのハーブ類とニンニク、唐辛子を数日間、漬け込んでおくとオイルにハーブやニンニク、唐辛子の香りや味をうつすことができます。ピザにかけたり、魚料理にかけたりすると味の変化を楽しめて良いでしょう。
(オメガ7系脂肪酸)
オメガ7系脂肪酸が含まれる代表的な食品は、マカダミアナッツ、マカダミアナッツオイルです。マカダミアナッツにはオメガ9系脂肪酸も多く含まれますが、脂肪酸の2割程度をオメガ7系脂肪酸であるパルミトオレイン酸が占めており、その他の食品と比べてその含有量が多いことが知られています(参考:J Func Food 62: 103520, 2019)。
マカダミアナッツオイルは、食用としてはあまり一般的ではありませんが、日本でも購入することができます。ハワイやオーストラリアではマカダミアナッツが収穫されるので、オイルとしても売られているものと思われます。ちなみに筆者はハワイ・マウイ島にてマカダミアナッツを購入したことがありますが、マカダミアナッツがよく香るオイルでした。パンケーキなどのおやつやサラダに合わせるとおいしく食べられるでしょう。
【一価不飽和脂肪酸と健康】
一価不飽和脂肪酸は、食品として食べることにより体内に供給しています。一価不飽和脂肪酸は体の中でも作ることができるため、必須脂肪酸ではなく、目標摂取量は設定されていません。ちなみに、日本人が摂取する一価不飽和脂肪酸のうち、9割近くはオメガ9系脂肪酸の一種であるオレイン酸であると報告されています(参考:平成17年及び18年国民健康・栄養調査)。
一価不飽和脂肪酸は、健康効果が高い脂質として一般的に認識されており、オレイン酸がLDL(悪玉)コレステロールを低下させる作用があることや、オメガ7系脂肪酸の一種であるパルミトオレイン酸がインスリン感受性を高め、糖尿病の予防や改善につながる可能性があることなどが報告されています。しかし、必ずしも健康効果が高いというわけではなく、食べ過ぎによって心血管疾患の発症を増加させたり、肥満の増加につながったりすることも報告されています(詳細は、第53回「老いるオイルと老いないオイル(4)不飽和脂肪酸」参照)。
私たちの普段の生活では、サラダ油の代わりに一価不飽和脂肪酸を含むオリーブオイルやキャノーラ油を使う、おやつを食べるならチョコレートやケーキではなく、アーモンドやマカダミアナッツを食べるなど、摂取する脂質を置き換えるのが良いと考えられます。脂質の摂取量は変えずに、質を変えるということがポイントです。健康に良いからといって、今まで通りの食事に上乗せして一価不飽和脂肪酸を摂取しようとすると、エネルギー過多で肥満や、それに伴うメタボリックシンドロームの発症を増加させてしまうので、注意する必要があります。
【オリーブオイルの食べ方 参考レシピ・ブルスケッタ】
(材料:4人分)
- 赤ミニトマト 8コ
- 黄ミニトマト 8コ
- バジル 2~3枚
- オリーブオイル 大さじ2
- 塩 小さじ1/2
- こしょう 少々(A)
- にんにく(みじん切り)1かけ
- バルサミコ酢 小さじ1/2
- バゲット 8スライス
- クリームチーズ 40g
- 松の実 10g
(作り方)
- 1)ミニトマトはヘタを取って洗い、4等分に切ります。
- 2)バジルは千切りにします。
- 3)ボウルに1)と2)、(A)を入れて味をなじませます。
- 4)バゲットは、オーブントースターなどで焼き目が付くまでしっかりと焼くとおいしいです。
- 5)4)にクリームチーズを塗り、3)をのせます。
- 6)5)の上に、炒った松の実を散らして仕上げます。
パン、トマト、クリームチーズなど、いずれもマイルドな味の食材を使っているため、オリーブオイルは、あまり刺激の強くないものを使うと良いでしょう。
【まとめ】
今回は、不飽和脂肪酸の中でも一価不飽和脂肪酸について解説しました。健康増進効果のあるオイルとして定着しつつある一価不飽和脂肪酸ですが、健康に対する効果は人種や性別、年齢によってさまざまであり、一定の見解が得られていないのが現状です。過剰摂取によって健康を害することもあるので、エネルギー過多にならないよう、今食べている脂質と置き換えるように心がけましょう。