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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

栄養と代謝(4)脂質と代謝

第62回から始まったシリーズ「栄養と代謝」では、私たちの健康に必要な栄養素とその代謝について基礎から学び、ご自身の食生活をより豊かにできるよう、情報をお伝えしていきます。

シリーズ4回目は、脂質と代謝について解説します。

【脂質とは】

脂質とは、水に溶けない生体成分の総称であり、栄養学的には、脂肪酸、中性脂肪、糖脂質、リン脂質、ステロールがあります。脂肪酸には大きく二重結合を持たない飽和脂肪酸と、二重結合を有する不飽和脂肪酸があり、二重結合が1つあるものは一価不飽和脂肪酸、複数個あるものは多価不飽和脂肪酸と分類されます(第50~62回「老いるオイルと老いないオイル」参照)。

食事から摂取する脂質の9割以上が中性脂肪(トリアシルグリセロール)です。トリアシルグリセロールは、1つのグリセロールに3つの脂肪酸が結合したものです。このため、トリアシルグリセロールの性質は、結合している脂肪酸の性質によって大きく変化すると言えます。例えば、畜肉に含まれる脂質は主に飽和脂肪酸が多く、オリーブオイルには一価不飽和脂肪酸が多く含まれるというように、食品によってトリアシルグリセロールに含まれる脂肪酸が異なっているのです(図⒈, 第51回「老いるオイルと老いないオイル(2)」参照)。

図⒈ 脂肪酸の種類の違いによる食用油の質の違い
脂肪酸は二重結合の有無により、大きく飽和脂肪酸(二重結合なし)と不飽和脂肪酸(二重結合あり)に分かれる。不飽和脂肪酸はさらに、二重結合を1つ含む一価不飽和脂肪酸と、複数の二重結合を含む多価不飽和脂肪酸、トランス型の二重結合を含むトランス脂肪酸に分かれ、さらに二重結合の位置により、オメガ3系脂肪酸、オメガ6系脂肪酸に分類される。

糖脂質は、糖と脂質が結合したもので、細胞膜の構成成分として自然界に普遍的に存在します。リン脂質も同様に、細胞膜の構成成分であり、1つのグリセロールに2つの脂肪酸と1つのリン酸基が結合しています。糖脂質はリン脂質と結合した状態で存在しています。ステロールも糖脂質やリン脂質とともに、細胞を構成する成分であり、ステロイドホルモンや胆汁酸、ビタミンDの前駆体として利用されます。リン脂質に含まれる脂肪酸の性質や、コレステロールの量によって、細胞膜の流動性や柔軟性が影響を受けています。

【脂質の摂取量】

脂質摂取量の目安は、総摂取カロリー量の約2~3割(図2,第62回「栄養と代謝(1)栄養と代謝の概論」参照)。脂質は炭水化物やタンパク質と異なり、1gあたりのカロリーが9kcalと、エネルギー産生効率が良い栄養素です。例えば、1日あたり1,950 kcal程度を必要する人の場合、脂質として50g程度摂取すると総摂取カロリーの2割程度になります。

脂質を含む食品は、畜肉(牛肉、豚肉、鶏肉など)、魚類(青魚、ブリ、マグロなど、油ののっている魚)のほか、乳製品(牛乳、バター、チーズ、生クリームなど)、食用油(オリーブ油、キャノーラ油、ラード、マーガリンなど)、菓子類(ポテトチップス、チョコレートなど)が挙げられます。

図⒉ 三大栄養素の摂取バランス
エネルギー摂取量全体に占める三大栄養素の理想的な摂取バランスは、炭水化物50~60%、タンパク質13~20%、脂質20~30%

脂質は1gあたりのカロリーが高いことから、脂質の摂取を避ける人も多いことと思いますが、食事中の脂質は口当たりを良くし、濃厚感を増すことから、嗜好性を高めて摂取量が増加する傾向にあります。脂質の過剰摂取は肥満や高脂血症などを誘発するため、過剰摂取しないよう注意する必要がありますが、後述するように、脂質は私たちの健康維持に欠かせないものでもあります。また最近では、脂質の摂取量でなく、質が健康維持に重要であることが明らかになりつつあります(第51回「老いるオイルと老いないオイル(2)」参照)。

【脂質の役割】

①エネルギー源
私たちは、活動するために、あるいは生命を維持するためにエネルギーが必要であり、活動量に応じて、成人男性では1日あたり2300~3000kcal、成人女性では1日あたり1700~2200kcalのエネルギーを必要とします。脂質は、炭水化物やタンパク質と同様に、私たちの体にとって必要なエネルギーを産生するための重要な栄養素のひとつですが、前述のように、炭水化物やタンパク質は1gあたり4kcal(キロカロリー)のエネルギーを作り出すのに対し、脂質はその2倍、すなわち、1gあたり9kcalものエネルギーを作り出すことができます。それだけ、脂質は効率の良いエネルギー源であると言えます。

②体温の維持
食事によって摂取した脂肪は、消化吸収され、必要に応じてエネルギー(熱)の産生や貯蔵に利用されます。熱の産生は、脂肪酸を分解することによって効率良く行われます。特に、空腹時にはインスリン分泌が低下することによって、脂肪組織に貯蔵されている中性脂肪が分解されますし、交感神経が活性化するような状況(ストレスを感じている時、日中など)でも同様に中性脂肪が分解されやすいため、遊離型の脂肪酸が多く作り出されます。遊離脂肪酸は、アルブミンと結合して筋肉や肝臓、褐色脂肪組織と呼ばれる脂肪組織の一種に運ばれ、そこでエネルギー産生のために利用されます。

③栄養素の吸収を助ける
栄養素の中には、水に溶けやすい性質(水溶性)のものと、水には溶けにくいけれど脂質に溶けやすい(脂溶性)性質のものがあります。例えば、ビタミンの中でも、ビタミンBやビタミンCは水溶性であり、ビタミンA、D、E、Kは脂溶性です。脂溶性のビタミンは、脂質を共に摂取することで吸収率を高めるため、脂質の摂取量が不足すると、ビタミン欠乏になるリスクもあります。

また食事を摂取すると、体内では胆汁酸が作られ、脂肪の消化吸収を補助します。この胆汁酸の原料になっているのは、コレステロールであり、コレステロールの存在によって栄養素を効率良く消化吸収しています。

④細胞を構成
私たちの細胞は脂質の膜に覆われており、細胞の内外は水で満たされています。細胞膜を構成する脂質二重膜の外側は親水性であるため、細胞内外の環境になじむことができ、内側は疎水性なので、細胞の内外を遮断することができるような構造をしています。

脂質二重膜の主成分であるリン脂質は、水になじみやすい親水性部分に、水になじみにくい2つの脂肪酸が結合しています。どんな脂肪酸がどれだけ含まれるかによって細胞膜の硬さが変わります。この細胞膜の硬さは体温調節や、個々の細胞の機能調節においても重要な役割を果たすことが報告されており、脂肪酸の組成やコレステロールの量が変化することによって膜の硬さが変化すると、細胞機能が変化することから、細胞における脂質の量や質が重要であることが明らかになってきています。

⑤ホルモンの原料
脂質の中でもコレステロールは、私たちの体の維持に必要なステロイドホルモンを呼ばれる一群のホルモンの原料となります。ステロイドホルモンには、副腎皮質から産生される副腎皮質ホルモン(グルココルチコイドとミネラルコルチコイド)と、性線から産生される性ホルモン(アンドロゲン、エストロゲン、プロゲステロン)があります。

グルココルチコイドは、ストレスを感じると作られ、ストレス応答を和らげるような作用を有します。ミネラルコルチコイドは体内の塩分と水分のバランスを調節、性ホルモンは生殖器の発育や発達、性周期を調節するホルモンです。このため、コレステロールが不足しすぎると、ストレスによる体調不良や体液バランスの乱れ、性周期の乱れがもたらされる可能性があります。

【脂質の代謝】

食事から摂取した脂質は、胃腸で消化され、小腸から吸収されると、肝臓に運ばれたり、前述のような各組織の需要に応じて、血液によって全身の細胞へ運ばれたりします(図3)。脂質は水に溶けにくい性質であるため、リポタンパク質という水と親和性を持つ形態で輸送されます。これによって、トリアシルグリセロールやコレステロールの運搬が可能となっています。

トリアシルグリセロールは、結合している脂肪酸を遊離し、分解することによってエネルギーを獲得します。前述のように、交感神経が活性化されるような状況(日中やストレスを感じている時、空腹時など)では脂肪が分解され、遊離した脂肪酸はアルブミンと結合して肝臓や筋肉に運ばれてエネルギー生成のために利用されます。

一方、食事から過剰に脂肪を摂取した場合には、トリアシルグリセロールとして貯蔵されます。 食後にインスリンが分泌されるような状況、あるいは夜間、交感神経活動が抑制されている状況では脂肪が合成され、貯蔵するように働きます。

コレステロールは、主に肝臓と小腸で合成されます。7~8割をこの合成によってまかない、残りの2~3割を食事からの摂取によってまかないます。合成されたコレステロールは、LDLというリポタンパク質(いわゆる悪玉コレステロール)によって全身の臓器や細胞に運ばれ、各細胞の生体膜を構成します。一方、細胞内に過剰にコレステロールが存在する場合、肝臓以外の組織や細胞においては分解するシステムを持たないため、HDLというリポタンパク質(いわゆる善玉コレステロール)によって肝臓に運ばれ、肝臓において分解された後、体外へと排出されます(図3)。

図⒊脂質の代謝
食事から摂取した脂質は、胃腸で消化され、小腸から吸収された後、肝臓に運ばれる。その後、必要に応じて血液によって全身の臓器へ運ばれる(左)。コレステロールの場合、肝臓から全身へはLDLを介して運ばれ、全身の臓器や細胞で過剰になったコレステロールはHDLを介して肝臓に戻され、体外へ排出される。

【まとめ】

今回は、脂質の役割と代謝について解説しました。脂質は、私たちの体を構成する重要な栄養素であるため、必要以上に摂取を控えることは好ましくありません。一方、近年の研究によって、脂質の量ではなく、脂質の質が健康維持において重要であることが明らかになってきました。次回は、脂質の量と質に着目しながら、脂質の代謝異常によって引き起こされる病気について解説します。

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