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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

栄養と代謝(10)ミネラルの役割

第62回から始まったシリーズ「栄養と代謝」では、私たちの健康に必要な栄養素とその代謝について基礎から学び、ご自身の食生活をより豊かにできるよう、情報をお伝えしています。

シリーズ10回目は、ミネラル、特に1日の摂取目安量が多い「多量ミネラル」について取り上げます。

【ミネラルとは】

ミネラルは、五大栄養素のひとつ。私たちの体を作る構成要素であり、体の機能維持にも欠かせません。厚生労働省はミネラルには、1日の摂取目安量が多い「多量ミネラル」と、摂取目安量が少ない「微量ミネラル」が存在しており、厚生労働省は以下の13種類のミネラルが必要だと定めています(図1)。

図⒈ 多量ミネラルと微量ミネラル
ミネラルには、1日の摂取目安量が多い「多量ミネラル」と、摂取目安量が少ない「微量ミネラル」が存在する。

【ミネラルの役割】

① 体液の構成成分
私たちの体に存在する体液には、細胞の中に存在する「細胞内液」と、細胞の外に存在する「細胞外液」があり、ミネラルがたくさん含まれています。特に、細胞内液にはカリウムやマグネシウムが多く、細胞外液にはナトリウムやカルシウムが多く存在しています。このようにナトリウムとカリウムの濃度が細胞内外で異なることが、神経活動や筋肉の収縮、物質輸送などの重要な基盤となっています。

② タンパク質の構成成分
体内に存在する酵素はタンパク質です。前回、ビタミンB 群は酵素の働きを補助する補酵素であることを述べましたが(栄養と代謝(9)「水溶性ビタミンの役割」参照)、ミネラルの中でも鉄や亜鉛、銅などの金属イオンは、酵素タンパク質に結合して、酵素活性や安定化に重要な役割を果たします。体内に存在する酵素全てのうち、約1/3はその活性に金属イオンを必要とするとされています。

【ナトリウム(Na)】

前述のように、ナトリウムは細胞外液の主要な陽イオンであり、浸透圧の維持に重要な役割を果たしています。ナトリウムの摂取量は、食塩の摂取量に依存します。腎臓の機能が正常であれば、腎臓においてナトリウムが再吸収されることもあり、通常の食事において、ナトリウムが不足することはありません。しかし、高温の環境で運動や肉体労働をして汗をかくと、ナトリウムが不足することがあります。このため、たくさん汗をかくときの水分補給には、食塩を摂取することが推奨されます。特にこれからの時期は、熱中症対策としても適量の食塩摂取が必要と考えられます。

一方、副腎から分泌されるアルドステロンというホルモンは、腎臓でのナトリウムの再吸収を高め、拮抗作用のあるカリウムの排泄が促されます。このため、ナトリウムを多量に摂取すると浮腫(むくみ)が生じ、血圧を上昇させることになります。必要以上にナトリウムを摂取すると、高血圧や、それに伴う慢性腎臓病などの生活習慣病の発症をもたらすことが指摘されています。また、食塩摂取量が多いほど胃がんの発症リスクが高まるという報告もあります。

(ナトリウムの摂取目安)
ナトリウムの摂取目安は、食塩相当量として、成人1日あたり、男性は7.5g未満、女性は6.8g未満とされていますが、高血圧および慢性腎臓病の重症化予防のため、男女とも6g未満にすることが推奨されています。高齢者では味覚が衰え、塩分を感じにくくなることもあり、それが原因で食欲低下を招くこともあります。そのような状況では、減塩により他の栄養素の摂取低下を招いてフレイルにつながることも考えられるため、柔軟に対応することが大切です。

【カリウム(K)】

カリウムは、細胞内液の主要な陽イオンです。カリウムの摂取が増加すると、ナトリウムの尿中への排泄が促されます。このため、カリウムの摂取が血圧低下につながると考えられています。一方、アルドステロンというホルモンによりナトリウムの再吸収とカリウムの排泄が促されるため、過剰なアルドステロンによってカリウム欠乏を引き起こすことがありますし、腎機能が低下している人ではカリウムが上昇し過ぎることがあります。

カリウムもナトリウムと同様に、通常の食生活で不足になることはありません。カリウムはたくさんの食品に含まれますが、腎機能が正常であり、カリウムのサプリメントを使用しない限りは過剰摂取になる可能性は低いと考えられています。

ナトリウムとカリウムは、単独ではなく、ナトリウム/カリウムの摂取比を考慮することが大切です。日本人はナトリウム摂取量が多いことから、一般的にはカリウムが豊富な食事が望ましいとされますが、腎機能が低下している場合、あるいは糖尿病に伴う高カリウム血症がある場合には注意が必要です。

【カルシウム(Ca)】

カルシウムは、骨や歯の材料であり、体内の99%は、主にハイドロキシアパタイトの形で骨や歯に存在しています。成長期を過ぎると骨の形態は大きく変化しませんが、骨を壊す骨吸収と、骨を作る骨形成を絶えず繰り返しながら、骨量を維持しています。また、骨や歯以外にもカルシウムは、血液や筋肉、神経などの組織に存在しています。特に細胞内の情報伝達物質として、筋肉の収縮や神経の伝達、細胞からの物質の分泌などにおいて重要な役割を果たしています。

(骨量の維持)
血液中のカルシウムが減少すると、破骨細胞という細胞が、骨を壊して血液中のカルシウムを補います。一方、血中にカルシウムが十分存在するとき、あるいは骨に圧力が加わった状態では、骨芽細胞という細胞が活発になり、骨を作ります(図2)。

骨の健康を保つためには、カルシウムはもちろんですが、カルシウムの吸収を高めるビタミンD、および、吸収されたカルシウムの骨への沈着を高めるビタミンK2の摂取も重要です(栄養と代謝(8)「脂溶性ビタミンの役割」参照)。

図⒉ 骨吸収・骨形成とカルシウムを多く含む食品
骨量は、骨吸収と骨形成のバランスによって決まります。カルシウム不足で骨吸収が促進されると、骨量が減少します。カルシウムを多く含む食品のほか、カルシウムの吸収を高めるビタミンD、および、吸収されたカルシウムの骨への沈着を高めるビタミンK2も併せて摂取し、健康な骨を維持しましょう。

(カルシウムの過剰症)
カルシウムを過剰摂取すると、高カルシウム血症や高カルシウム尿症、軟組織の石灰化、結石、前立腺がん、鉄や亜鉛の吸収障害、便秘などの障害を生じることがあります。通常の食事から過剰症になる可能性は低いですが、1日あたりの摂取量が2,500mgを超えないように気をつける必要があります。特にサプリメントやカルシウム剤の形で摂取する場合には注意が必要です。また、ビタミンD との併用によっては、より少ない摂取量でもカルシウム量が増加しやすいことが考えられます。

【マグネシウム(Mg)】

生体内のマグネシウムは、その50~60%が骨や歯に存在し、骨や歯を形成しています。マグネシウムの不足により、吐き気や眠気、脱力感、筋肉のけいれん、食欲不振になることがあります。また、長期によるマグネシウムの不足によって心血管疾患や糖尿病、骨粗鬆症などの生活習慣病のリスクを高めることが指摘されているが、さらなる科学的根拠が必要と考えられています。一方、マグネシウムの過剰摂取によって下痢が起こることがあるため、サプリメントからの過剰摂取には注意する必要があります。

【リン(P)】

リンは、カルシウムとともにハイドロキシアパタイトとして骨や歯を形成しています。また、マグネシウムの塩としても骨や歯に存在しています。その他、エネルギー源であるATP(アデノシン3リン酸)や核酸、細胞膜を構成するリン脂質などを構成する重要な成分です。

リンは多くの食品に含まれており、通常の食事では不足や欠乏を心配する必要はありません。一方で、食品添加物にはリンが用いられているため、過剰摂取している可能性もあります。特に慢性腎臓病では、リンを体外へ排泄する能力が低下し、その結果として血中のカルシウム濃度が減少してしまうことも知られています。加工食品には食品添加物としてリンの使用量が多いため、加工食品を食べすぎないようにしましょう。

【まとめ】

今回は、1日の摂取目安量が多い多量ミネラルについて解説しました。カルシウムは積極的に食べるようにし、それ以外は不足することを心配するよりも、サプリメントや加工食品の摂取による過剰摂取を避けるように気をつける必要があります。次回は微量ミネラルについて解説します。

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