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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第30回 貧血と鉄分不足

五大栄養素のひとつであるミネラルは、三大栄養素(糖質、脂質、タンパク質)を体の中で効率良く使うために必要であり、私たちの体を構成する大切な成分です。特に体の中に存在する鉄分は多くが血液の構成成分ですが、一方で不足しやすい栄養素のひとつでもあります。鉄分不足による一番の弊害は、鉄欠乏性貧血です。今回は、貧血と鉄分不足について解説します。

【貧血とは】

貧血とは、血液の細胞のひとつである赤血球やヘモグロビンが低下する状態の総称です。貧血では、全身に酸素を十分に運ぶことができないため、体にさまざまな不具合をきたします。鉄は赤血球を構成する重要な成分のひとつであり、貧血の原因の大半が鉄不足によって引き起こされる「鉄欠乏性貧血」です。

【赤血球ができるまで】

赤血球は、私たちの体を流れる血液の赤色のもとになっている成分で、骨髄中に存在している造血幹細胞から作られます。肝臓には、貯蔵鉄という形で鉄分が存在しており、トランスフェリンというタンパク質に結合した状態で血液中を移動します。造血幹細胞から赤芽球という赤血球のもとになる細胞が作られると、血液中の鉄を取り込んで赤血球が完成します(図1)。

【赤血球・ヘモグロビンの役割】

完成した赤血球は直径7~8μm(7~8mm の 1/1000)、厚さ2μm(2mm の 1/1000)であり、約120 日で生まれ変わります。赤血球に取り込まれた鉄は、赤血球の中でヘモグロビンとなり、酸素を結合させて、全身へ酸素を運搬する役目を果たします。すなわち鉄が不足すると、全身へ運び込む酸素の量が少なくなるので、疲れやすくなったり、息切れをしたりと、体に不調をもたらすこととなります。

健康診断で赤血球、ヘモグロビンの値を見てみましょう。赤血球の基準値は男性で約400~540万/μl、女性で約360~490万/μl です。また、酸素と結合して全身に酸素を運搬するためのヘモグロビンの基準値は、男性が13~16g/dl、女性が12~14.5g/dl です。これらの値が小さいと貧血である可能性があります(図2)。

【貧血の症状】

貧血の場合、以下のような症状があらわれます。

<貧血の症状>

  • 疲れやすい
  • 眠れない
  • 階段で息が切れる
  • めまいをよく起こす
  • 爪が弱くなる
  • 顔色が悪くなる
  • 氷を大量に食べてしまう

(疲れやすい)
貧血で体が酸素不足になると、代謝が悪くなり疲れやだるさ、肩こりなどの症状が出ます。

(眠れない)
不眠というわけではないものの、熟睡感が得られないことがあります。鉄欠乏性貧血の場合、むずむず脚症候群という、寝ているときや動いていないに足に「むずむず」と不快な感覚を感じる症状が出る場合もあります。

(階段で息が切れる)
貧血の場合、酸素運搬力が低下しているため、少しの運動で息が切れ、動悸を感じることがあります。

(めまいをよく起こす)
貧血で脳が酸素不足になり、めまいを起こすことがあります。立ちくらみは、座っている状態から急に立ち上がったりすることで、急な血圧の低下が起こることによるもので、貧血とは異なります。

(爪が弱くなる)
爪の中央部分がへこんで先が反り返る「スプーンネイル」は貧血の代表的な症状です。爪の症状だけでなく、脱毛や皮膚の乾燥が見られることもあります。

(顔色が悪くなる)
頬の赤みは赤血球に含まれるヘモグロビンの色。貧血になると青白い顔色になります。

(氷を大量に食べてしまう)
原因不明ですが、氷をガリガリと食べるのは鉄不足の人に見られる症状です。生米を食べることもあります。この症状があったら早めに医師に相談しましょう。鉄分不足が解消されると症状が治ることが大半だと知られています。

【鉄不足の原因】

鉄が不足する原因は、大きく分けて鉄の摂取不足、必要量の増加、出血によるものの3つです。

(鉄の摂取不足)
偏食や不規則な食事、外食が多い場合、無理な減量などによって鉄分が不足することがあります。赤血球やヘモグロビンを作るためには、鉄やビタミンB12、葉酸などの栄養素が欠かせません。鉄分自体の摂取量が少なくなるだけでなく、鉄の吸収が悪くなることも貧血の原因となります。例えば、胃を切除した経験のある方は、鉄をはじめとする栄養素の消化吸収力が低下しているため、貧血の危険因子となります。

(必要量の増加)
妊娠中や授乳期には鉄分の必要量が増えるため、それに見合う量の摂取が必要となります。十分に鉄分を摂取できていないと鉄欠乏性貧血になることがあります。

(出血によるもの)
女性の場合、月経中の出血量が多いことによって貧血になることが多くあります。また、ストレスから潰瘍ができている人は少なくありませんが、この場合、消化管(食道、胃、十二指腸、大腸など)からの出血は少量であると気づきにくく、何度も繰り返すうちに慢性的な貧血になることもあります。

(その他、病気によるもの)
自己免疫疾患(免疫系が自分の体を攻撃することによって起こる病気)やアレルギー、肝硬変、感染、がんなどを患うことによって、正常な赤血球を作ることができなくなってしまうことや、正常な赤血球やヘモグロビンが破壊されてしまうことがあり、これによって貧血になる場合があります。

【貧血予防のための食事ポイント】

貧血予防のためには、鉄分自体をしっかりとることと、鉄分の吸収を良くする食品を一緒に食べることです。

鉄分を多く含む食品には、カツオやマグロなどの赤身魚、レバー、牛肉、貝類、青菜、豆類、海藻類があります。魚や肉などの動物性食品に含まれる鉄は「ヘム鉄」と呼ばれ、植物性食品に含まれる鉄「非ヘム鉄」と比べて体内への吸収率が高いです。非ヘム鉄は吸収率が低いですが、良質なタンパク質やビタミンCを多く含む食品を一緒に食べることで、鉄の吸収を高めることができます。

一方、食物繊維のとり過ぎや、緑茶に含まれるタンニン、コーヒーに含まれるカフェインには鉄吸収を抑制する作用があります。食事の時には緑茶やコーヒーを控えるようにしましょう。

また、ビタミンB6、B12、葉酸などには健康的な血液を作る作用があります。ビタミンB6が多い食品には、魚介類、鶏ささみ、レバー、豆類、バナナ、サツマイモなど、ビタミンB12が多い食品には、貝類やチーズ、葉酸が多い食品には、野菜類、豆類などがあります。

【貧血予防のための献立例】

貧血、鉄分不足に効果的な食品といえば、レバー。味噌を使って味付けすれば、レバー嫌いの人も気になりません。レバーと合わせて、ビタミンCをたっぷりとることにより鉄吸収も良くなります。

レバニラ味噌炒め

鶏レバーは脂身と血をしっかりと取り除くことが臭みを除く最大のポイントです。ひと口大に切ったら塩こしょう、すりおろしたしょうがを加えて揉み込み、フライパンで焼き付けます。にんにく、もやしや千切りしたパプリカ、ニラとともに炒めます。甜麺醤(なければ味噌)、紹興酒、しょうゆなどで味付けして仕上げます。

(栄養のポイント)
レバーは最も鉄含量の多い食品のひとつです。臭みが気にならないように上手に調理して、食生活に取り入れたいものです。
ニラやパプリカにはビタミンCが含まれます。鉄分と一緒に食べると吸収率が高まります。
レバーにはビタミンAも含まれます。目などの粘膜の保護や風邪予防にも効果的でしょう。
青菜の炒めもの

ほうれん草や小松菜、チンゲン菜などの青菜をにんにく、赤唐辛子、塩こしょうで炒めます。あればナンプラー(魚醤)を加えると旨味が足されて、よりおいしくなります。
※写真はチンゲン菜で作りました。

(栄養のポイント)
青菜にはビタミンB、ビタミンCが豊富に含まれます。ビタミンBは赤血球を作るために必要なもの、ビタミンCは鉄分とともに食べることで鉄の吸収を高めます。
かに玉

茹でたけのこ、ネギとかにの身を卵に混ぜ入れてごま油でかに玉を作ります。あんかけをかけると、冷めにくく、おいしく食べられます。

(栄養のポイント)
卵は良質のタンパク質を含み、健康な肌や髪の毛の維持には欠かせません。また、卵には鉄も含まれます。
たけのこ(時期でなければ水煮で良い)やネギ、グリーンピース、しいたけなどの野菜類を加え、野菜不足にならないように気をつけましょう。
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