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文化講座

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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第22回 骨の健康と骨粗鬆症

前回は健康な歯を保つことが若々しさを保つ秘訣であることや、80歳で20本の歯を保とうという「8020運動」について紹介しました(第21回「歯の健康から始めるエイジングケア」参照)。歯の健康と同じくらい大切なのが、骨の健康です。骨は私たちの体を支える大切な組織であるだけでなく、歯と同様、骨も全身の健康状態に影響することがわかってきました。また、寝たきりの多くが関節疾患や骨折など、骨の健康に関する問題であることからも、骨は丈夫に保ちたいものです(第2回「ロコモティブシンドローム」参照)。今回は、骨の健康について解説します。

【骨の役割】

私たちの体は200以上の骨によって支えられています。骨は体を支えることのほかに、臓器を守り、運動の補助をしてくれます。加齢に伴って背骨が骨折を起こし、猫背になってしまうと、腰痛になりますが、そのほかにも猫背は肺機能の低下や胃の圧迫、下半身のしびれや麻痺など、全身への悪影響が出ることがあります。

また骨は、カルシウムやリンを貯蔵する場所でもあります。骨の中に含まれるカルシウムなどのミネラルの量を骨量と言います。骨量は成長とともに増えて、20~40代にかけて最大になりますが、それ以上には増えず、加齢に伴って減少していき、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)を引き起こします。

さらに骨は血液を作ったり、「オステオカルシン」というホルモンを作ったります。オステオカルシンというホルモンには、血糖値を下げたり、脳を活性化したり、動脈硬化症を予防したりする効果があり、健康な骨を作ることが全身の病気の予防につながることが明らかにされています。

【骨粗鬆症とは】

骨粗鬆症は、骨量の減少によって骨の質が悪くなり、骨がスカスカの状態になってしまうことによって骨折しやすくなる病気です。日本には1,000万人以上の患者がいるといわれています。特に太ももの付け根の骨、背骨、手首の骨などに骨折が起こりやすいです。骨粗鬆症は圧倒的に女性、特に閉経後に急激に増加することから、女性ホルモンの減少や老化が関与していると考えられています。また、高齢者で股関節の骨折を起こすと、3割ほどの人が寝たきりになると言われますし、骨粗鬆症で一度骨折を起こすと、ほかの部分でも骨折を繰り返すリスクが高まることもわかっています。

【骨量はどうやって決まるの?】

骨はカルシウムを貯蔵しておく場所であると述べました。体内のカルシウムは99%が骨と歯に含まれ、残りの1%が血液や筋肉などに含まれます。カルシウムは骨や歯を作るために必要なだけでなく、筋肉や神経の働きを正常に保ち、ホルモンの分泌や出血を止めるのにも役立っています。

骨の強さである骨量は、骨形成(こつけいせい)と骨吸収(こつきゅうしゅう)のバランスによって決まります。血液中に十分量のカルシウムが保たれているとき、カルシウムは骨に貯蔵され、骨を作るための骨芽細胞(こつがさいぼう)という細胞が活発に骨を作ります。この過程を骨形成と言います。一方、血液中のカルシウムが少ないときには、破骨細胞(はこつさいぼう)という細胞が骨を壊しつつ、骨から血液へとカルシウムを供給します。この過程を骨吸収と言います。

カルシウムは体の中では作られないので、食事から摂取するしか体内のカルシウム量を増やす方法はありません。カルシウムを食事から十分量食べているときには、骨形成が優位になり骨が丈夫に保たれますが、カルシウムが不足してしまうと骨吸収が優位になり骨がスカスカになって、骨粗鬆症になってしまいます。

【骨粗鬆症の原因】

前述のように、女性ホルモンには骨を丈夫に保つ効果があること、骨粗鬆症が閉経後の女性に圧倒的に多くなることから女性ホルモンの減少は骨粗鬆症の原因だと考えられています。また、加齢や遺伝的な要素、体型も影響します。太り過ぎもよくありませんが、痩せ過ぎもいけません。また、喫煙や過度な飲酒、運動不足などの良くない生活習慣も骨粗鬆症の引き金となります。

骨にもしなやかさが必要であり、コラーゲンは骨のしなやかさや骨のスムーズな動きを助ける作用があります。糖尿病の患者さんでは、骨形成の低下に加えてコラーゲンの質が低下することから、骨のしなやかさが失われ、骨粗鬆症になりやすいこともわかってきました(図1)。

【骨の健康を保つための栄養素】

骨の健康を保つためには、骨の材料になるカルシウムだけでなく、カルシウムの吸収を高めるためのビタミンDやカルシウムの骨への沈着を高めるビタミンKを組み合わせることが大切です(図2)。また、骨や軟骨の形成にはタンパク質が欠かせません。これらの栄養素が含まれるように、バランスの良い食事をしましょう。

(カルシウム)
カルシウムは、骨の材料であり、細胞を正常に働かせたり、神経伝達するために重要な栄養素です。前述のように、不足すると骨を分解してカルシウムが使われますので、骨が弱ってしまいます。骨粗鬆症を予防するには、1日700~800mgのカルシウムの摂取が推奨されています。ちなみに牛乳1本200mlに含まれるカルシウムの量は220mgですので、1日牛乳1本は欠かせないということになります。ほかにカルシウムを含む食品と組み合わせて、1日700~800mgを目標にしましょう。

◆カルシウムを多く含む食品
乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズなど)
海藻(ひじきなど)
小魚(ししゃも、しらす、煮干し、桜エビなど)
緑黄色野菜(小松菜、水菜など)

(ビタミンD)
ビタミンDは、腸からカルシウムとリンの吸収を助けます。食品から摂るほかに、日光を浴びることによって体内で作ることができます。日焼けをするからと日光を浴びない生活をしているとビタミンD不足になって骨が弱ってしまいますので、適度に屋外で過ごしましょう。油に溶けやすい脂溶性ビタミンなので、油を使って調理すると効率良く吸収することができます。

◆ビタミンDを多く含む食品
干ししいたけ
鮭、いくら
イワシの丸干し
きくらげ

(ビタミンK)
ビタミンKは、カルシウムが骨に沈着するために必要な脂溶性ビタミンです。骨粗鬆症の治療薬としても使われており、骨の強化に欠かせません。一方で止血作用もあります。

◆ビタミンK2を多く含む食品
緑黄色野菜(モロヘイヤ、ツルムラサキ、春菊、ほうれん草、小松菜など)
発酵食品(納豆、チーズなど)

(タンパク質)
骨や軟骨を作り、骨をしなやかに保つためにはタンパク質が重要です。タンパク質は、肉類(牛肉、豚肉、鶏肉など)や魚類、卵、大豆などの豆類に豊富に含まれます。1種類の食品に限らず、バランス良くタンパク質を摂取しましょう。

◆タンパク質を多く含む食品
肉類(牛肉、豚肉、鶏肉など)
魚類
大豆などの豆類

【骨を健康に保つための献立例】

鶏肉とマッシュルームのクリーム煮

鶏もも肉をフライパンで焼いて、マッシュルームなどのきのこを加えて牛乳と生クリームで煮た料理です。写真にはゆでたアスパラガスを添えました。

(栄養のポイント)
牛乳を使ってカルシウムをたっぷり食べることができます。
鶏肉に含まれるタンパク質は骨と筋肉の強化につながります。
きのこ類にはカルシウムの吸収を促進するビタミンDが豊富に含まれます。
卵のサンドイッチ

ゆで卵に塩こしょう、マヨネーズで味付けをした卵サラダのサンドイッチです。写真は黒糖食パンを使いました。

(栄養のポイント)
いろんな種類のタンパク質を食べることが大切です。
卵にはビタミンDが含まれるので、カルシウムと合わせて食べると良いでしょう。
菜の花とエビのミモザサラダ

ゆでた菜の花とエビに粒マスタードとマヨネーズのドレッシングをかけたサラダです。ゆで卵を茶こしなどで裏ごししてトッピングにすると、まるでミモザの花のように仕上がります。

(栄養のポイント)
菜の花には骨を強くするためのビタミンKが含まれるほか、ビタミンBやビタミンCも含まれます。
エビや卵を食べることによってタンパク質を補えます。
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