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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第24回 認知症予防のための食事と生活

加齢に伴って心配になるのが、認知症です。寝たきりや要介護の原因として3番目に多いのが認知症であります(第1回「食は生きる基本」参照)。これまで、寝たきり・要介護の原因として最も多い骨や筋肉の衰弱(第2回「ロコモティブシンドローム」第22回「骨の健康と骨粗鬆症」第23回「サルコペニアって何?」参照)、あるいは動脈硬化症(第3回「あなたの血管は欠陥だらけ!?」参照)について解説してきましたが、今回は認知症について。治療法がないだけに、しっかりと予防したいものです。では、認知症とはどんな症状なのでしょうか?そしてどのように予防すれば良いのでしょうか?

【認知症とは】

認知症とは、脳の働きの低下が原因となって引き起こされる様々な症状のことです。2012年時点では、65歳以上の高齢者のうち7人に1人が認知症だと診断されていますが、2025年には5人に1人が認知症になると推定されています。認知症の症状には、主に脳の働きの低下によって現れる「中核症状」と、環境や体験によって現れる「周辺症状」がありますが、認知症であると診断されても、現段階では根本的に治療して元の正常な状態に戻すことは困難です。だからこそ、認知症は予防することが重要なのです。

【認知症にみられる症状】

認知症になってからみられる症状には、すべての認知症患者に認められる「中核症状」と、患者によって認められる症状が異なる「周辺症状」が存在します。

(中核症状)

①記憶障害
物事を覚えられなくなったり、思い出せなくなったりします。また、言葉の理解の低下や、言葉が思うように出てこない失語のような症状があります。

②理解・判断力の低下
考えるスピードが遅くなります。例えば、家電製品やATMなどを使うことを躊躇するようになることもありますし、新しいルールを理解することが難しくなったりします。

③実行機能障害
計画や段取りを立てて行動できなくなってくるため、旅行や料理をするのが苦手になります。
また、慣れているはずのことでも段取りよくできなくなります。

④見当識障害
時間や場所、人との関係性がわからなくなってしまいます。

(周辺症状)

すべての人に共通するわけではないものの、人によっては以下の症状が認められます。
徘徊:外に出かけて行き、戻ってこられなくなることがあります。
妄想:物を盗まれたなど事実でないことを思い込むことがあります。
幻覚:見えないものが見えたり、聞こえないものが聞こえたりします。
せん妄:落ち着きなく家の中をウロウロしたり、独り言をつぶやいたりすることがあります。
抑うつ:気分が落ち込み、無気力になることがあります。
人格変化:穏やかだった人が短気になるなどの性格変化がみられることもあります。
不潔行為:風呂に入らない、おもらしをする、排泄物を手に取るなどもみられます。
暴力行為:気持ちをうまく伝えられない、感情をコントロールできないために暴力をふるうことがあります。

【認知症の原因となる脳の病気】

認知症の原因となる脳の病気には様々あります。最も多い原因がアルツハイマー病で、認知症の原因の7割を占めます(図1)。

(アルツハイマー病)

認知症の原因として最も患者数の多い病気です。アルツハイマー病は、「アミロイドβ(ベータ)」という異常タンパク質が蓄積して脳が萎縮する病気であり、昔のことはよく覚えていますが、最近のことは忘れやすくなります。軽度の物忘れから徐々に進行して、時間や場所の感覚がなくなっていきます。初期には体は動きますが、いずれ大脳の機能が弱くなって寝たきりになることがあります。

(レビー小体型認知症)

脳の神経細胞の中に「レビー小体」という異常なタンパク質が蓄積することによって起こります。幻覚や眠っている間に怒鳴ったり、奇声をあげたりするなどの異常行動が目立ちます。手の震えや小刻み歩行、手足や表情のこわばりを伴うこともあります。

(血管性認知症)

脳梗塞や脳出血が原因で、脳の血液循環が悪くなり、脳の一部が壊死してしまうことによって起こります。物忘れなどの症状のほか、手足の震えや麻痺などの運動障害が特徴です。

【認知症の早期発見の手がかりとなる症状】

国立循環器病研究センターによると、認知症の早期発見の手がかりとなる症状には、以下のようなものが挙げられています。
同じことを何度も尋ねる
物をしまい忘れる
以前あった興味や関心が低下
物をなくす
話題が乏しく限られている
今までできた作業にミスや能率低下が目立つ
日常の料理や味つけができなくなる
だらしなくなる
新聞、雑誌、テレビなどを見なくなる
外出しなくなる

【認知症予防のための食事】

認知症は、根本的に治療して元の正常な状態に戻すことが困難です。それゆえに、予防をしっかりしたいもの。食事で認知症を予防するためには、バランスの良い食事を心がけることと塩分を控えることが大切です。バランスの良い食事の中でも、魚を食べること、野菜を食べることが大切です。また、香辛料を使って塩分を控えると良いでしょう。

(魚)
魚、特に青魚や油がのった魚には、質の良いオメガ3脂肪酸という脂質が含まれます。オメガ3脂肪酸にはエイコサペンタエン酸(EPA)とドコサヘキサエン酸(DHA)があります。EPAはコレステロールの抑制や動脈硬化症の予防など、主に血管に対して良い効果を、DHAは神経の発達や、うつ病、認知症の予防など、主に脳に対して良い効果を発揮します。

DHAは脳や網膜にたくさん存在する脂肪酸のひとつで、神経細胞の膜を構成する重要な成分です。正常な脳の発達に重要ですし、うつ病や認知症の予防に効果があるとされています。実際、血中のDHA量が多いほど認知症の発症リスクが低くなることが報告されています(図2)。

日本人の健康維持が期待できるEPA・DHA量は900mgと言われており、サンマやサバ、イワシなどを1日あたり100g程度食べれば、十分量摂れます。ただし、加齢に伴って、EPA・DHAの摂取量を増やすことが推奨されているので、なるべくたくさん魚を食べるよう、心がけましょう。

(野菜)
野菜や果物には、ビタミンやミネラル、食物繊維など、わたしたちの体の健康を保つための成分がたくさん含まれています。特に、抗酸化作用のあるビタミンCやビタミンEをたくさん食べている人は、アルツハイマー病の発症を低いことが報告されています。

野菜の1日あたりの目標摂取量は350gです。どの世代でも野菜の摂取量が足りていないことが厚生労働省より報告されています。特に外食が多い人は野菜摂取量が不足しがちです。意識して野菜を食べるよう、心がけましょう。特に、ビタミンCやビタミンEなど、抗酸化作用のあるビタミンを摂取するようにしましょう。

・ビタミンCを多く含む食材
キャベツ、ブロッコリー、かぼちゃ、ピーマン、パプリカ、キウイ、オレンジ、イチゴ、じゃがいもなど

・ビタミンEを多く含む食材
アボカド、モロヘイヤ、アーモンドなどのナッツ類、緑茶など

(香辛料)
コショウやターメリック、ウコン、唐辛子、生姜などの香辛料には、アルツハイマー病の原因と考えられているアミロイドβの蓄積を抑制する成分があり、動物実験レベルではアミロイドβの蓄積が抑制されるという報告があります。香辛料には、血流を良くすることによって代謝を高める効果があります。さらに香辛料を使うことによって、塩分の使用量を抑えることもできます。

【認知症を予防するための献立例】

アジのたたき磯部巻き

小骨を除いてたたいたアジに、小口切りにしたねぎ、千切りにしたみょうが、青じそ、きゅうりを入れて混ぜ合わせ、海苔で巻きます。巻き止めに水をつけるとくずれにくいでしょう。ぽん酢しょうゆで食べます。

(栄養のポイント)
アジにはEPA、DHAが含まれます。
ねぎ、みょうが、青じそなどの香草が入ることによって、香りを楽しむことができ、塩分を控えられます。
切干し大根の卵焼き

切り干し大根は、水で戻して粗みじん切りにします。フライパンでにんにく、しょうが、ひき肉、切り干し大根を炒め、XO醤としょうゆ、紹興酒で味つけをし、溶いた卵を流し入れて焼き固めます。

(栄養のポイント)
切り干し大根には食物繊維が豊富に含まれます。
XO醤には干しエビや干し貝柱、金華ハムなどの旨み成分と、唐辛子が入っており、旨みと香辛料で塩分摂取を控えることができます。
イカと野菜の豆鼓(トウチ)炒め

そぎ切りにしたイカ、アスパラガス、きくらげ、赤パプリカをにんにく、しょうが、唐辛子とともに炒め、豆鼓、豆板醤、紹興酒、しょうゆ、少量の砂糖で味つけします。

(栄養のポイント)
野菜をたっぷり食べることができます。
アスパラガスや赤パプリカには、抗酸化作用を有するビタミンCが豊富に含まれます。
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