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インターネット公開文化講座

文化講座

インターネット公開文化講座

予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第36回 夏バテ・熱中症対策をしましょう

コロナ禍での自粛生活から日常生活がゆっくりと戻ってきました。夏のように暑い日が徐々に増えてきたり、梅雨で湿度が高くなってきたりと、夏に近づいてきたことを実感する日々ですが、体はまだ高温多湿の気候には慣れていない状態。そんな時期だからこそ、夏バテや熱中症に気をつける必要があります。特に、暑い日にマスクをしながらの生活の中では、夏バテや熱中症の危険性が高まるので、しっかり対策をしましょう。

【夏バテと熱中症】

この時期、なんとなく体がだるくて疲労感がある、食欲があまりない、などの症状がある場合、夏バテになっている可能性があります。夏バテは、暑気中り(しょきあたり)、暑さ負け、夏負けとも言われ、高温多湿の影響を受けて自律神経のバランスが崩れることによって、体に不調がきたされる状態です。

夏バテがひどくなると熱中症を引き起こします。体温調節ができなくなって体温が高くなったり、汗をかいて体内の水分と塩分のバランスが崩れたりすることで起こる、めまいや頭痛、けいれん、意識障害などの症状をまとめて熱中症と言います。

【夏バテ・熱中症が起こりやすい環境とは?】

熱中症は、炎天下に長時間いることや、暑い中水分補給せずに運動をすることによって起こる、と考えるかもしれません。しかし、実際にはこのようなケースだけではなく、梅雨の合間に突然気温が上がった時など、体が暑さに慣れていない時期にも起こる症状なのです。

私たちの体は、自律神経の働きによって、暑さを感じると汗をかいて熱を発散し、体を冷やす、という体温の調節を行っています。しかし、暑い日にも冷房の効いた室内で生活を続けていると、体温調節機能がうまく働かなくなってしまいます。特に今年は、COVID-19感染防止のためにマスクをしていることもあり、ついつい水分を摂ることを忘れてしまいがち。気づかないうちに体が脱水症状になっていると、さらに自律神経のバランスを崩しやすく、その結果夏バテや熱中症になってしまうのです。

【自律神経の乱れによる夏バテ・熱中症】

外で長時間運動しているわけでもないのに、何が原因で夏バテや熱中症になるのでしょう?

大きな原因のひとつは冷房や冷たい食べ物、飲み物による体の冷えです。体が冷えた状態が続いていると、自律神経をうまく働かせることができなくなってしまいます。自律神経は、体温の調節だけでなく、血圧や心拍、内臓の動きなどを調節しているため、自律神経が乱れると、疲れやだるさを感じやすくなったり、精神が不安定になりイライラしたり、鬱になったりすることもあります。その他、不眠や免疫力の低下、便秘、消化吸収不良などの体の不調をきたします(第16回「自律神経を整える」参照)。

暑い日にはシャワーだけで済ませてしまうという人も少なくないでしょうが、暑い夏だからこそ湯船につかって、体を温めることは大切なことです。湯船につかって体温を上げ、血行を良くすることによって汗をかくことは、自律神経を整えるためにも有効です。

【栄養バランスの乱れによる夏バテ・熱中症】

栄養バランスの乱れによっても夏バテや熱中症になりやすくなります。特に暑い時期には、ビタミンやタンパク質、ミネラルが不足しがち。暑いからそうめんだけにしておこう、サラダだけでいいか、と簡単な食事で済ませてしまうと、炭水化物だけ、ビタミンだけとなり、カロリー不足になるだけでなく、栄養バランスも悪い、というような食事になってしまいます。夏は特に意識して、タンパク質、ビタミン、ミネラルが不足しないように食べましょう(図1)。

(タンパク質)

夏は基礎代謝が高まり、タンパク質を消費しやすいです。すなわち筋肉を分解しやすい状態になります。タンパク質は体力、持久力を維持するためにも、疲労回復のためにも必要ですので、しっかり摂りましょう。タンパク質を多く含む食品には、肉類、魚介類、卵、乳製品、大豆製品など様々ありますが、ひとつの食材に偏ることなく、複数種類の食品からタンパク質を摂ることを心がけると、よりバランス良くタンパク質を摂ることができます。

(ビタミンB群)

ビタミンには、ビタミンA、B、C、D、E、Kがありますが、夏バテや熱中症の対策として特に重要なのがビタミンB群です。ビタミンBには、ビタミンB1、B2、B6、B12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチンの8種類があります。私たちの体は食べたものをエネルギーに変えて生命活動を維持していますが、ビタミンB群がエネルギー変換に重要な役割を果たしているため、ビタミンBが不足すると、乳酸などの疲労物質が体に蓄積して、疲れやだるさを感じる原因となります。また、タンパク質や脂質、炭水化物を食べても、体の中でうまくエネルギーとして利用できないため、体重増加の原因にもなります。

ビタミンBを含む食品には、豚肉、うなぎ、カツオ、マグロ、ほうれん草、枝豆、大豆、アサリなどの貝類があります。多くはタンパク質源でもあります。最近なかなか疲れが取れない、ニキビや口内炎がよくできる、などの症状がある場合には、ビタミンB不足になっている可能性があるので、意識してこれらの食品を食べましょう。

暑い夏を乗り切るためにうなぎを食べる習慣は、万葉集にも詠まれており、1700年代には土用の丑の日にうなぎを食べることが習慣となったようです。地質学者、医学者、俳人、発明家として知られる平賀源内は、丑の日に「う」のつく食品、うなぎ、瓜、梅干し、うどん、牛などを食べることを推奨したと言われますが、これは理にかなっています。うなぎに含まれるビタミンB群やタンパク質、良質の脂質。瓜にはカリウムが含まれ、水分補給につながります。梅干しのクエン酸は疲労回復があり、うどんで炭水化物を、牛肉でタンパク質を補給できるというわけです。

(ミネラル)

普段、ミネラルを意識して食べる人は少ないかもしれません。ミネラルは私たちの体の中で作り出すことができないため、食品から摂取する必要があります。体の構成成分としてのみならず、ビタミンB同様、代謝を高める効果もあるため、イライラ防止や脂肪燃焼などの効果もあります。

特にカルシウム、鉄、亜鉛は不足しがちです。カルシウムは歯や骨の形成に欠かせないだけでなく、不足するとイライラしたり、神経障害が起こったりすることもあります。小魚や海藻類、牛乳、ヨーグルトなどを食べましょう。亜鉛もまた、味覚や骨の成長、免疫応答に重要な成分です。貝類や海藻類に多く含まれます。

そして、夏バテ・熱中症の時期に特に気をつけたいのが、鉄分です。鉄は血液の成分であるため、十分に摂取することで貧血の予防になるだけでなく、疲れにくい体を作ります。魚介類(特に赤身や血合い部分)、肉類(特にレバー)、海藻類、卵、枝豆、味噌などに多く含まれます。調理する際に鉄鍋や鉄瓶を使うことで、わずかですが日常的に鉄分補給をすることができます。

【その他食事のポイント】

夏は汗をかくことによって塩分が失われやすいため、いつもより多少味付けが濃くても良いでしょう。これは、食品の保存性を高めて食中毒を防止するためにも有効です。また、しそ、ねぎ、みょうが、わさび、しょうが、ハーブ類などの香味野菜や香辛料(スパイス)には胃液の分泌を促進して食欲を増進させる効果があります。食欲が減退しないようにうまく活用しましょう。葉物の香味野菜は少しの水と共に冷蔵庫に入れておくと、乾燥を防ぎながら保存することができます。

いつの時期にも旬の野菜を食べることは有効です。夏の野菜と言えば、キュウリやスイカ、冬瓜、トマト、レタス、ナスなど。これらの野菜には体液バランスを整えて脱水状態にならないようにする効果があり、体の余分な熱を下げる効果もあります。旬の野菜は、旬でない時と比べると栄養価が高くなるので、積極的に旬の野菜を食事に取り入れましょう。

ただ、暑い時期には体を冷やすことが大切ですが、だからと言って冷たいものばかり食べていると、胃腸の働きを低下させてしまうので、注意が必要です。食事全体としては温かいものを、食材として旬の食材を取り入れるようにすると良いでしょう。

【こまめに水分補給をしましょう】

私たちの体は、60%程度が水分でできていますが、加齢とともにこの水分量が少なくなっていきます。熱中症による死亡は70歳以上の高齢者に最も多いことが報告されており、脱水症状を起こしやすい高齢者は特に注意が必要です。1日約2.5リットルの水を必要し、その半分程度を飲み水として補給する必要があります。

喉が渇いたと感じた時には、すでに水分が不足した状態になっているので、意識してこまめに水分を補給しましょう。目安は30分に1回、コップ1杯(200ml程度)です。アルコールやカフェイン飲料(コーヒー、紅茶、緑茶)は利尿作用があるため、水分補給には不向きです。カフェインやタンニンが少ないほうじ茶や麦茶などのお茶が良いでしょう。

また、糖分が多い飲み物は、糖質の分解に多量のビタミンBを必要とするため、ビタミンB不足になっていると、さらに疲労感を感じやすくなってしまいます。スポーツ飲料を摂取する際には水で薄めて飲むなど、工夫が必要です。


水にハーブや柑橘類、ベリーなどの果物を入れて飲むのもお勧めです(写真右)。キュウリとレモンの組み合わせもあっさりとして良いでしょう。ハーブはミントやローズマリー、レモングラスを入れると爽やかになります。香りを楽しみ、気分を落ち着けることができるでしょう。

水にハーブや柑橘類、果物を入れると飲みやすく、リラックス効果も。

【保存食で疲れ知らずの体を作りましょう】

5月から7月にかけて梅やらっきょう、新しょうがが出回り、保存食作りの忙しい時期です。梅干しやらっきょうの酢漬け、新しょうがの酢漬けには疲労回復効果があります。胃腸の調子を整え、食欲増進にも役立ってくれるでしょう(写真下)。

写真:保存食の例。左から梅干しを漬ける準備、梅の味噌漬け、梅ジュース、らっきょうの酢漬け、新しょうがの酢漬け

【夏バテ・熱中症対策のまとめポイント】

夏バテや熱中症を防止するためには、体を冷やしすぎないように気をつけ、しっかり食べること、水分補給をすることが大切です。これに加え、十分な睡眠と適度な運動をすることを心がけ、暑い夏を安全に乗り切りましょう!

(夏バテ・熱中症対策のポイント)

  • 体を冷やさないようにする
  • バランスの良い食事
  • こまめな水分補給
  • 十分な睡眠
  • 適度な運動

【夏バテ・熱中症対策のための献立】

疲労をためないように、タンパク質とビタミンB、鉄分を意識して摂りましょう。

今回ご紹介するのは、とんてき。三重県四日市市の名物としても知られます(参照:http://tonteki.com/index.html)。少し濃い目の味付けに、ニンニクをたっぷり効かせたとんてきは食欲を増進させてくれます。たっぷりの千切りキャベツと一緒に食べて、消化吸収を助けましょう。

この時期、モロヘイヤやツルムラサキなどの葉物野菜が旬を迎えます。茹でて一品追加すると、ビタミンB、ビタミンCなどを補給できて良いでしょう。

とんてき

一人あたり、豚肩ロース肉200gくらいのものを選びましょう。ラードでにんにくをじんわりと柔らかく焼いたら一旦取り出し、塩こしょう、小麦粉をまぶした豚肉を完全に焼きます。にんにくを戻し入れ、ウスターソース、みりん、しょうゆ、砂糖で味付けし、たっぷりのキャベツとトマトを添えます。

(栄養のポイント)
豚肉には、タンパク質、ビタミンB、鉄分が含まれ、疲労回復に役立ちます。
たっぷりのキャベツを添えて、消化吸収を助けましょう。
腎機能が落ちている人はキャベツをよく水にさらしてから食べると良いでしょう。
ごぼうとにんじんのサラダ

千切りにしたごぼうとにんじんを茹で、ツナ缶、マヨネーズ、すりごま、酢で和えます。しょうゆと塩を少し加えて味を整えます。

(栄養のポイント)
食物繊維の多い食品は少しの油と一緒に食べると便通を良くし、栄養素の吸収率が上がります。
(ここではマヨネーズに油が含まれます)
マヨネーズに含まれる酢に加えて、少し酢(純米酢など)を加えることによって酸による疲労回復効果が期待できます。
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