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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第37回 食中毒予防のためにできること

気温も湿度も高くなり、食品の劣化や食中毒が気になる季節です。食中毒というと、外食のイメージが強いかもしれませんが、家庭でも食中毒を引き起こすことはあります。今回は、家庭での食事において食中毒を起こさないように気をつけるべきポイントを確認していきましょう。

【食中毒とは】

食中毒とは、食品に起因する胃腸炎・神経障害などの中毒症の総称のことです。多くは、急性の胃腸障害(嘔吐、腹痛、下痢など)の症状を起こします。細菌、ウイルス、自然毒、化学物質、寄生虫など、体にとって有害な微生物や化学物質を含む食べ物や飲み物を摂取した結果生じるものであり、食べてから症状が出るまでの期間や症状は異なります。食べ過ぎや飲み過ぎでお腹が痛くなるものは食中毒とは異なります。

食中毒は夏に発生が多いイメージがあるように、夏にはサルモネラやカンピロバクター、黄色ブドウ球菌、O157などの細菌による食中毒が多く発生します。一方、冬には食中毒がないわけではなく、実は冬の食中毒の発生率も夏と同じくらい高いのです。冬にはノロウイルスなどのウイルスによる食中毒の発生率が多いことが報告されています。

【食中毒を引き起こす細菌】

食中毒の原因となる代表的な細菌には、以下のようなものがあります。

(サルモネラ菌)
肉、鶏卵などに付着していることが多い菌です。少ない菌数で発症し、比較的高い熱が出ます。鶏卵を割る時には、卵と卵をぶつけて割ると、必ずどちらか一方しか割れず、調理場や調理器具を汚すことがありません。

(カンピロバクター)
肉類全般、特に鶏肉やレバーなどに多いです。ほとんどの動物の腸管に生息しています。

(黄色ブドウ球菌)
人の手や動物に生息しているため、調理する人はきれいに手を洗う必要があります。大量に増えないと発症はしない一方、どこにでもいる菌なので、注意が必要です。

(セレウス菌・ウェルシュ菌)
土壌や水中に生息しているため、土の付いた野菜の取り扱いに注意が必要です。例えば、ごぼうや蓮根などを調理する際にはたわしを使って土を取り除くことがポイントです。また、ほうれん草の茎の部分にもたくさん土が付いているので、十字に切り込みを入れて、たっぷりと水を張ったボウルの中でバシャバシャと洗いましょう。

【食中毒を予防するためには】

食中毒を予防するためには、①菌を食品に付けない ②食品に付いた菌を増やさない ③食中毒の原因となる菌をやっつけることが大切です。

①菌を食品に付けない
人の手にはたくさんの菌が生息しています。食材を扱う前には必ず手指をしっかりと洗いましょう。
水で洗っただけでもある程度の菌を除くことはできますが、石鹸で手のひら、甲、指の間、手首、爪の間などを洗うことによってほとんどの菌を除去できます。

食品にも菌が付いています。生肉は汁が垂れて生で食べる食品に付かないように気をつけましょう。また、生肉を切った後のまな板と包丁はきれいに洗って熱湯消毒するようにすると良いでしょう。

(熱湯消毒の仕方)
・洗剤を付けたスポンジでまな板と包丁をきれいに洗います。水で流したあと、シンクにまな板、包丁、スポンジを置き、熱湯をかけます(写真右)。

・キッチンで使う布巾も、手入れが悪いと恰好の菌の繁殖場所になってしまいます。使い終わったら沸騰した湯の中で2~3分消毒しましょう(写真左)。


布巾の熱湯消毒


まな板の熱湯消毒

②食品に付いた菌を増やさない
細菌は、栄養、水分、温度の3つの条件が揃った時に増殖しやすくなります。食材はなるべく早く使い切り、冷蔵庫で食材を保存する場合には、夏場はいつもよりも温度を低く保ちましょう。冷蔵庫に食材が増えすぎると庫内の温度が上がってしまうので、冷蔵庫内は7割くらいを目安に、入れすぎないように気をつけましょう。

すぐに使わない食材は冷凍庫に保存するのも良いでしょう。冷凍する場合、なるべく解凍と冷凍を繰り返さないように、使い切る量に小分けして保存すると良いでしょう。


菌が増える3つの条件

③食中毒の原因となる菌をやっつける
食品は75℃で1分以上加熱調理することによって菌を死滅させることができるため、十分に加熱することで食中毒を予防することができます。この時のポイントは、食材の中心部までしっかりと火を通すこと。混ぜながら、しっかりと加熱しましょう。特に、保存しておいた食品を再加熱するために電子レンジを使う場合は、加熱に偏りがないように、途中で取り出して混ぜると良いでしょう。

【家庭でできる食中毒予防の6つのポイント】

厚生労働省は、家庭で取り組める食中毒予防のポイントとして、食品を購入する時、食品を保存する時、下準備をする時、調理の時、食事の時、残った食品を扱う時の6つのシーンで気をつけるべきことを挙げています(図)。

【夏の弁当の注意点】

弁当を持っていく際には、以下のことに気をつけましょう。

・弁当箱を清潔に保つ
 パッキン部分は、特に洗いが不十分になりがちです。全て外して、時々熱湯や漂白剤などで消毒をしましょう。漂白剤を用いる時は1/10に薄めたもので10分間漬けた後、漂白剤が残らないようにきれいに洗い流します。

・水分をなるべく除く
 水分があると菌が繁殖しやすいです。なるべく水分が出ないように、水気を除いてから入れるようにしましょう。

・食材は冷めてから詰める
 できあがったものが温かい状態で弁当箱に詰めると、菌が繁殖しやすいため、詰める前に完全に冷やします。なるべく短時間で冷やした方が良いので、鍋やフライパンごと氷水に漬けるのも良いでしょう。また、中心部分まで冷えるように、混ぜながら冷やしましょう。

・冷凍品はそのまま詰めない
 冷凍食品を使う場合、冷凍したまま詰めれば保冷材代わりになると思うかもしれませんが、注意が必要です。自然解凍の際に、水分が出たり、解凍ムラができたりする可能性が高いからです。冷凍品を使う時も、一旦食べられる状態に加熱したものを冷やして弁当箱に詰めるようにしましょう。

・味付けは少し濃いめに
 塩分や酸味は保存効果を高めます。特に夏場の弁当は少し味付けを濃くしても良いでしょう。また、梅干しやわさび、酢やレモン、しょうがなどの殺菌効果のある調味料を使って、食品の腐敗を防ぎましょう。

・保冷材や保冷バッグで温度管理を
 弁当は保冷バッグに入れる、保冷材を添えるなど、温度が高くならないように気をつけましょう。学校までの通学時間、職場までの通勤時間は短時間であったとしても温度が高くなると菌は繁殖します。

【夏の食事・食中毒予防の観点から気をつけること】

最後に、食中毒を起こす菌を付けない、増やさない、やっつけるために、実際の食事を例に挙げてどうすれば良いか、ポイントをお伝えします。


ほうれん草とチキンのカレー


セビーチェ

ほうれん草とチキンのカレー

食欲がなくなりやすい夏には、カレーを食べる家庭が多いことと思います。例えば、ほうれん草とチキンのカレー。茹でたほうれん草と塩水をフードプロセッサーにかけてほうれん草ジュースにします。一口大に切った鶏もも肉を唐辛子、クミンシード、ターメリック、チリパウダー、コリアンダーパウダー、クミンパウダー、塩こしょうで炒め焼きし、トマトとほうれん草ジュースを加えて煮込みます。

カレーといえば、味付けもしっかりしており、たくさんの香辛料が入るので、菌は増えにくいはず。ですが、大量に煮込むカレーやシチューなどは食べきれず保存することもあり、保存の際にはしっかりと中心まで冷やす必要があります。また、加熱する際には、中心まで熱が伝わらないことがあるので、混ぜながら、中心を含む全体を均一に加熱するように心がけましょう。

セビーチェ

お刺身はそのまま食べるよりも、わさびやネギ、しょうがなどの薬味などを加えて味付けするとより安心して食べられるでしょう。セビーチェはペルーで食べられる生の魚のマリネ。現地は鯛やヒラメなどの白身魚で作りますが、マグロやタコなどを使っても良いでしょう。薄切りにした玉ねぎ、すりおろしにしたしょうがとにんにく、塩、オリーブオイル、ライム、パクチー、チリパウダーで和えます。

ライムやレモンのような酸味は食中毒を予防するのに有効です。にんにく、しょうがなどの薬味も良いでしょう。一方、ネギは薬味として使われますが、腐りやすい食品でもあります。夏に生でネギを食べる時には、鮮度が良いものを早めに食べるか、火を通してから食べることをお勧めします。

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