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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

私たちの身体と栄養(1)概論

今回からは「私たちの身体と栄養」というテーマで新しいシリーズを始めます。私たちの身体には、心臓や肝臓、筋肉などのさまざまな臓器があり、臓器を作るための細胞が存在します。臓器や細胞は、協調してはたらき、私たちの生命や健康を維持するために機能しています。また、私たちが食べたものは、消化吸収された後、全身に運ばれて細胞や臓器がはたらくためのエネルギーとなります。本シリーズでは、身体の仕組みと栄養との関連について学びましょう。

【私たちの身体を構成する4つの組織】

私たちの身体は、上皮組織、支持組織、筋組織、神経組織、という4種類の基本組織から成り立っています。「上皮組織」は、体を覆う皮膚や、消化管の内側を覆う粘膜などのことで、それを構成する細胞は上皮細胞と呼ばれます。「支持組織」は、体を支える組織のことで、骨や軟骨、細胞や組織を結合するための結合組織があり、体がしなやかに動くために重要な役割を果たしています。また「筋組織」は、筋細胞で構成されている組織で、太ももやふくらはぎの筋肉(骨格筋)のほか、心臓の壁を構成する心筋や、血管、消化管の壁も筋肉の細胞でできています。「神経組織」は、生体内外の環境の変化を情報伝達するための組織です。

【私たちの身体を構成する細胞】

私たちの身体は約37兆個もの細胞から構成されています(Ann of Human Biol, 40: 463-471, 2013)。細胞の種類は200種類以上ありますが、元をたどるとたった一つの受精卵にたどり着きます。受精卵は細胞分裂を繰り返し、数を増やしていきます。また、その過程でさまざまな機能を持つ細胞に特殊化していくことを分化といいます。それ以上に分化しない状態の細胞は、終末分化細胞といい、血液の細胞や神経細胞、肝臓の細胞など、200種類以上が存在します(図1)。

図1. 細胞の分裂・分化
受精卵から分裂と分化の過程を経て、私たちの身体を構成する200種類以上、約37兆個の細胞が作られる。

細胞は、私たちの身体を構成する最小単位だと考えられますが、その細胞の内部は複雑です。異なる終末分化細胞であったとしても、すなわち、異なる機能や形をしている細胞であっても、細胞内の基本的な構造や機能は同じです。遺伝情報が納められている核とそのまわりを満たす細胞質、そして全体を覆う細胞膜で構成されており、細胞質には細胞内小器官と呼ばれるさまざまな機能を持った器官が存在します(図2)。以下は、代表的な細胞内小器官とその機能です。

(核)
生物の設計図ともいえる遺伝情報を有しています。アデニン、チミン、グアニン、シトシンという4種類の塩基を持つデオキシリボ核酸(DNA)は、ヒストンというタンパク質に巻きついてヌクレオソームという構造を作り、このヌクレオソームが折り畳まれて染色体を作っています。正常な細胞の核には、23対、合計46本の染色体が格納されており、通常、それぞれの対を構成する染色体は、片方を母から、もう片方を父から受け継ぎます。23対のうち22対が常染色体、1対が性染色体です。性染色体は、胎児が男性になるか、女性になるかを決定します。男性はX染色体とY染色体を1本ずつ持っていますが、女性はX染色体を2本持っています。

図2. 細胞の構造
細胞は、遺伝情報が格納されている核と、ミトコンドリアや小胞体、リソソームなどの細胞小器官を含む細胞質、その全体を覆う細胞膜から構成される。

(小胞体とリボソーム)
小胞体は、核の周囲に認められる網目状の構造物で、その表面には、リボソームと呼ばれる、小さな顆粒状の器官がたくさん結合しています。小胞体には、リボソームが結合している粗面小胞体と、リボソームを結合していない滑面小胞体が存在し、前者はタンパク質合成に、後者は脂質代謝に重要な役割を果たします。リボソームはタンパク質合成を行う装置であり、核のDNA配列を基にRNAに転写されると、リボソームが結合し、その塩基配列からアミノ酸を決定し、付加することによってタンパク質を合成します(図3)。

図3. 細胞内小器官の役割
核に納められたDNAを基に小胞体・リボソームでタンパク質が合成され、ゴルジ体に輸送されると、糖鎖付加や切断などの修飾を受けて適切な場所へと輸送される。

(ゴルジ体)
小胞体で作られたタンパク質は、ゴルジ体に運ばれると、糖鎖付加や切断などの修飾を受けて、細胞内外のはたらくべき場所に輸送する役割を果たしています(図3)。

(リソソーム)
小胞体やリボソームでタンパク質が合成され、ゴルジ体を介してさまざまな場所にタンパク質が輸送される一方、不要になったタンパク質は、リソソーム内で消化分解を受けます。リソソーム内部には、多種の消化酵素が存在し、酸性環境になっており、タンパク質だけでなく、細胞内で不要になったものや、細胞に取り込まれた異物なども消化分解されます。

細胞は、異常なタンパク質の蓄積防止や、栄養飢餓時のタンパク質のリサイクルのための反応として、自らを食べる「オートファジー」という仕組みを持っています。この反応では、細胞内で分解の標的となる物質がオートファゴソームという膜に取り囲まれると、リソソームと融合して、分解されるという過程をたどります。

(ミトコンドリア)
ミトコンドリアは、エネルギー産生の場です。糖質や脂質、タンパク質を燃焼してエネルギー(ATP)を産生するために重要な器官であり、たくさんのエネルギーを必要とする筋肉の細胞は、たくさんのミトコンドリアを有しています。

【私たちの身体を構成する器官】

私たちの健康を維持するためには、さまざまな細胞や臓器が協調してはたらいており、一定の機能を果たすためにまとまった部分を器官と言います。器官系には、骨格系、筋肉系、循環器系、呼吸器系、消化器系、泌尿器系、内分泌系、神経系などが存在します。例えば消化器系は、私たちが食事から摂取する栄養素の消化・吸収に重要です。吸収されて体内に入ってきた栄養素は、骨格や筋肉を形成し、内分泌系や神経系などをはたらかせるための材料となります。

来月以降、それぞれの器官や臓器を取り上げて解説するとともに、栄養との関連についても説明していきたいと思います。

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