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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所助教・中日文化センター講師
医学博士・食医学者 伊藤 パディジャ 綾香

第52回 老いるオイルと老いないオイル(3)飽和脂肪酸

第50回から始まった新しいシリーズ「老いるオイルと老いないオイル」では、脂質について基礎から詳細に知り、ご自身の食生活にどう活かせるか、考えていきます。

シリーズ3回目は、「油脂」のうち「脂」である飽和脂肪酸について、詳細に解説します。

【飽和脂肪酸】

飽和脂肪酸は、炭素の間に二重結合を持たない脂肪酸で、常温で固形の形状をとるものが多いと前回までに述べました(第51回「老いるオイルと老いないオイル(2)脂質の質を決めるもの~積極的に取りたいオイルと控えたいオイル~」参照)。肉類の脂身やバターなどの動物性脂質がその代表的なものです。また近年、何かと話題になっているココナッツ油や、我が国で使用量が増えているパーム油などの植物性脂質にも飽和脂肪酸は多く含まれています。

脂肪酸はいずれも、炭素、水素、酸素から構成され、炭素が鎖のように連なった形をしています(図1)。また脂肪酸は、その長さ(炭素の数)によって、短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸に分けられます。炭素の数が6個未満のものは短鎖脂肪酸、6個から12個のものは中鎖脂肪酸、14個以上のものを長鎖脂肪酸と分類されます。

図1.脂肪酸の構造
脂肪酸は、炭素、水素、酸素から構成される。
炭素の数によって短鎖脂肪酸(炭素数6個未満)、中鎖脂肪酸(炭素数8個から12個)、長鎖脂肪酸(炭素数14個以上)に分類される。

飽和脂肪酸は、脂肪酸に二重結合が入っていないものであり、短鎖脂肪酸と中鎖脂肪酸、そして長鎖脂肪酸の中でも炭素数が18個までの脂肪酸があり、炭素数18以上の長鎖脂肪酸の中には、二重結合を持つ不飽和脂肪酸が存在します(表1参照)。最も短い飽和脂肪酸は炭素が2個で酢に含まれる酢酸、次に小さいのが炭素数4個の酪酸で、バターに含まれます。中鎖脂肪酸は、乳製品やココナッツオイル、パーム油に含まれます。また長鎖脂肪酸は、豚肉や牛肉などの肉類、あるいはそれらからできるラードや牛脂に含まれます。

表1.脂肪酸の分類と食品の例

脂肪酸の種類 炭素の数 二重結合の数 脂肪酸の名称 主に含まれる食品
飽和脂肪酸 短鎖 2 0 酢酸
4 0 酪酸 バター
中鎖 6 0 カプロン酸 牛乳、乳製品、
ココナッツオイル、パーム油など
8 0 カプリル酸
10 0 カプリン酸
12 0 ラウリン酸
長鎖 14 0 ミリスチン酸 ココナッツオイル、パーム油など
16 0 パルミチン酸 パーム油、ラード、牛脂など
18 0 ステアリン酸 豚肉、牛肉、ラード、牛脂など
不飽和脂肪酸 18 1 オレイン酸 オリーブオイル、キャノーラ油など
18 2 リノール酸 コーン油、大豆油など
18 3 α-リノレン酸 亜麻仁油、エゴマ油など
20 4 アラキドン酸 豚肉、牛肉、ラード、牛脂など
20 5 EPA 魚介類
22 6 DHA 魚介類

【飽和脂肪酸と健康】

飽和脂肪酸の摂り過ぎは、血中のLDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪を増やし、結果として心筋梗塞などの心血管疾患の発症リスクを高めることが報告されています。また飽和脂肪酸は、インスリン抵抗性(血糖値を下げるためのホルモン・インスリンが効きにくくなること)を引き起こし、糖尿病や肥満を悪化させること、脂肪肝を悪化させることなどが報告されています。

特に、パルミチン酸のような長鎖脂肪酸は、炎症を惹起することが明らかにされています。近年、様々な病気の原因として注目されている「慢性炎症」は、痛みや発熱を伴わないものの、全身のどこかで知らないうちに、慢性的に炎症が進行しているという状態であり、肥満や糖尿病、脂肪肝、動脈硬化症などのメタボリックシンドロームの他に、アルツハイマー病などの神経疾患、がんにも慢性炎症が関わっていることが明らかになってきています。長鎖飽和脂肪酸の過剰な摂取は、慢性炎症の進行を促進していると考えられていることからも、摂り過ぎに気をつける必要があります。

飽和脂肪酸が含まれる食品として、豚肉や牛肉などの動物性食品があることから想像できるように、一般的に飽和脂肪酸は過剰摂取になりやすいと言えます。思い当たる人は、肉類の摂取を控えるように心がけましょう。肉類は、脂質源であるだけでなく、重要なタンパク質源でもあります。全く食べなくするわけではなく、脂の少ない肉にしたり、食べる量を控えめしたりすると良いでしょう。一般的には、片手の手のひらに乗るくらい、すなわち60g程度の肉を食べましょうと言われますので、目安にしてみて下さい。

【短鎖・中鎖脂肪酸と健康】

飽和脂肪酸の過剰摂取が健康に良くないとされる一方、同じ飽和脂肪酸でも短鎖脂肪酸や中鎖脂肪酸は炭素の数が少なくエネルギーとして消費されやすい、すなわち脂肪として体にたまりにくいのが特徴です。

近年、短鎖脂肪酸が腸内環境を整えて健康維持に欠かせないことが明らかになりつつありますが、ここでいう短鎖脂肪酸は腸内細菌が作り出す酢酸や酪酸、プロピオン酸のことであり、酢やバターを食べれば腸内環境が整うかというとそうではないので、混同しないように注意が必要です。腸内細菌は食物繊維を餌にして腸の中で発酵し、短鎖脂肪酸を作り出します。すなわち、体内の短鎖脂肪酸を増やすためには、食物繊維を食べて、腸内細菌に作り出してもらうのが良いと考えられます。このようにして作られる短鎖脂肪酸は、脂肪の燃焼を促進することによって体温を上昇させ肥満を防止、すい臓からのインスリン分泌を促進して糖尿病を改善、腸管免疫を高めることなどの効果が報告されています。

中鎖脂肪酸は近年、MCTオイルとしても注目を集めている脂質です。MCT=Medium Chain Triglycerideのことで、中鎖脂肪酸を意味します。長鎖脂肪酸は、体の中に取り込まれて腸から吸収されると、リンパ管や血液を介して全身に運ばれる一方、中鎖脂肪酸は腸から吸収された後、門脈を介してすぐに肝臓に運ばれるため、代謝速度が速く、エネルギーとして使われやすい、すなわち、体に脂肪としてたまりにくいという特徴があります。ただし、たまりにくいとは言え、脂質であることには変わりないので、食べ過ぎには注意が必要です。ラードを使う代わりに、MCTオイルを使うなどの置き換えをすると良いでしょう。

パーム油は、中鎖脂肪酸も含みますが、長鎖脂肪酸であるパルミチン酸も多く含むため、必ずしも健康に良いとは言えません。安価であるため、近年日本でもその使用が増えていますが、パーム油の生産増加は、熱帯雨林の減少とも関係していると言われています。今ある資源を大切に、環境問題も考慮して食を選ぶのは、消費者として大切なことでしょう。

【飽和脂肪酸を摂り過ぎないための参考レシピ・豆腐ハンバーグ】

(材料:4人分)

  • 木綿豆腐    1丁(450g)
  • 玉ねぎ     120g
  • サラダ油    大さじ1
  • 鶏ひき肉    250g
  • ドライパン粉  大さじ3
  • 塩       小さじ1/2~1/3
  • 大根(おろし) 400g
  • 細ねぎ     適量
  • ポン酢しょうゆ 大さじ4

(作り方)

  1. 1)豆腐は水にしっかりさらした後、ペーパータオルに包んで軽く重石をし、10分ほど水を切ります。
  2. 2)玉ねぎはみじん切りにして油で炒めて冷まします。
  3. 3)ボウルに1)と2)、鶏ひき肉、ドライパン粉、塩を混ぜ合わせ、8等分に丸めます。
  4. 4)フライパンに油を敷き、3)を中火で色良く焼きます。
  5. 5)器に4)を盛り、おろし大根と細ねぎをのせ、ポン酢しょうゆをかけて出来上がり。

【まとめ】

今回は、飽和脂肪酸について解説しました。飽和脂肪酸の中でも、その長さによって性質が異なること、健康に対する影響などを理解頂けたことと思います。タンパク質源であり、脂質源である肉類は、手軽に食べられることから、主菜に取り入れたり、副菜の一部に取り入れたりすることが多いと思いますが、目安は1日60g程度。食べ過ぎていると感じたら、タンパク質源を牛乳や豆腐、卵、魚介類など、他の食材に置き換えましょう。

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