文化講座
第47回 世界の長寿食(10)ベトナム
世界の食に学ぶ健康長寿の秘訣、10回目はベトナムを取り上げます。WHO(世界保健機関)が2020年に報告した統計では、ベトナムの平均寿命は76.3歳であり、世界55位。日本の平均寿命84.2歳と比べると長くはありませんが、ベトナムの食生活から、健康寿命を延ばすヒントがあるか、考えてみましょう。
【ベトナムの基本知識】
ベトナム社会主義共和国(通称ベトナム)は、東南アジアのインドシナ半島東部に存在する社会主義共和国で、南北に長いのが特徴のひとつです。国全体の7割程が山岳地帯で、豊かな自然に囲まれています。そのためか、人口の多くが首都のハノイと観光地としてもよく知られる商業都市・ホーチミンに集中しています。
ハノイがある北部は中国やラオスとの国境に面し、ホーチミンがある南部はカンボジアとの国境に面しています。ハノイやホーチミンを訪れると、ヨーロッパのような建物を多く見かけ、他の東南アジアの都市とは街の雰囲気が異なります。これは、フランスによって植民地支配されていたためで、特にホーチミンは、「東洋のパリ」とも呼ばれるほどです。
【ベトナムの食の特徴】
ベトナムは、古くから中国文化の影響を受けてきたため、ベトナム料理にも中国料理の調味料や調理技法が取り入れられています。また、フランス統治時代の影響を受けて、コーヒーを飲んだり、フランスパンを用いた「バインミー」というサンドイッチ(写真)やプリンを食べたりする文化もあります。米食が中心で、野菜をたくさん食べます。特に、ハーブ類の消費が多いのが特徴です。
ベトナム料理はベトナム近くのタイやシンガポールと異なり、辛いものはあまり食しません。ヌクマムという発酵された魚の醤(魚醤)を使うことや米、野菜が多いので、日本食に近いと感じることもあるでしょう。
写真:ベトナムサンドイッチ「バインミー」フランスパンにたっぷりの野菜と肉をはさんで食べます。
①コーヒー
ベトナムでは、深煎りのコーヒーにたっぷりの練乳を入れて飲む習慣がありますが、これもフランス統治時代に確立されたものです。暑いベトナムでは、牛乳が腐りやすいので、常温でも保存できる練乳を代わりに用いたのが始まりだそうです。1860年代、フランスによる統治時代にアフリカからコーヒーが持ち込まれて以来、ベトナムでの生産が始まり、2018年にはブラジルに次ぐ、世界第2位の生産国になりました。
妊娠中の人、あるいは子どもはカフェインを含むコーヒーを飲まない方が良いと言われますが、実は有用な効果もあります。眠い時にコーヒーを飲んで目が覚めるという経験がある人が多いように、コーヒーに含まれるカフェインには覚醒効果があります。また、利尿効果があるため、余分な水分を体外へ排出するという効果もあります。このため、暑い時にアイスコーヒーを飲むのは、水分補給をしているようで、利尿作用によって水分不足になることもあるので、注意が必要です。
コーヒーに含まれるカフェインは摂取30分後で血中濃度がピークに達し、5時間ほどで消失すると言われています。眠い時には、コーヒーを飲んでから20~30分くらい仮眠をとると、すっきりと目が覚めますし、就寝5時間前くらいまでにコーヒーを飲み終えると眠りを妨げずにコーヒーを楽しむことができます。コーヒーカフェインの特性を知って、上手に取り入れたいものです。
またコーヒーには、ポリフェノールが含まれることも知られており、抗酸化作用により動脈硬化や心筋梗塞などの生活習慣病の予防に効果があるという報告や、紫外線による肌ダメージを防ぐ効果があるという報告もあります。
一方で、ベトナムコーヒーのようにたっぷりの練乳を入れて飲むのは、要注意。日本で市販されている練乳は加糖練乳であり、100gの練乳に56gの糖質が含まれているので、たくさん練乳を入れると糖質の摂り過ぎになって、太る原因になります。血糖値が高い人にはもってのほか。
コーヒーは飲み過ぎることなく、生活に楽しみが出る程度に適度に取り入れましょう。
②米食
ベトナムは米食が中心で、米飯だけでなく、米粉を使って春巻きに使われるライスペーパーを作ったり、麺を作ったりします(写真)。米=糖質=太りやすい、と考える人が多くいらっしゃいますが、米に含まれるのは糖質だけでなく、タンパク質やビタミン(ビタミンB、ビタミンE)、ミネラル(亜鉛、鉄、マグネシウム)も含まれます。ビタミンBには疲労回復効果や代謝の改善効果が、ビタミンEには抗酸化作用があります。これらの栄養成分は、白米よりも玄米や発芽玄米により多く含まれており、食物繊維も多いため、玄米や発芽玄米の方がより健康効果が高く、血糖値が上がりにくいという特徴があります。ただし、胃腸の調子が悪い時には消化の良い白米を食べるのが良いでしょう。また、玄米や発芽玄米を食べ慣れていない人は、白米に少量混ぜて食べるのが良いでしょう。
最近、パンや麺、菓子類など、通常であれば小麦粉を使って作られる食材や菓子にも米粉が使われることがあります。これは、近年グルテンフリー食品が注目されているためです。ちなみにグルテンとは、ムギ(小麦、大麦、ライ麦など)に含まれるタンパク質が水と混ざって練られることによってできるもの。もともと遺伝的にその素因を持っている患者がグルテンによって自己免疫疾患が引き起こされる場合があり、この病を患っている人はグルテンを含む食事を避けるようにされています。ただし、日本ではセリアック病患者の頻度は明らかではありません。グルテンやムギ製品は、少なくとも万人が避けないといけない食品ではありません。
もう一点、米が注目されている理由として、小麦の残留農薬です。日本の小麦自給率は10%程度しかなく、ほとんどを輸入製品に頼っています。気になるのが農薬。この問題を解消するためにも米粉が注目されています。米は自給率100%、国産のものを安心して食べられます。食材がどうやって作られているのか、どのように私たちの手元に届くのかを知ることも、私たちが健康に生きるために必要なことなのです。
写真:左から、ベトナムの炊き込みご飯(蓮の実が入っている)、ライスヌードルを使ったベトナムうどん「フォー」、ライスペーパーを使った揚げ春巻き、ライスペーパーを使った生春巻き
③野菜とハーブ
ベトナムの料理で注目すべきは、ハーブ類をたくさん食べること。市場には驚くほどたくさんの種類の葉物野菜が売られています。ベトナムでは、料理を頼むと別皿にたっぷり盛られたハーブ類とライムが提供され、これらをお好みでトッピングして食べます。
例えば、フォーを食べると、別皿にはコリアンダー(パクチーともいう)、ノコギリコリアンダー、オリエンタルバジル、ワケギ、ミント、ドクダミ、レモングラスなど、たくさんの種類のハーブ類が提供されます。これらのハーブには、殺菌作用や口臭、体臭予防、解毒作用(デトックス)、ストレス解消などの効果があるとされています。
写真:左から、ホーチミンベンタイン市場内の野菜売り場、果物売り場に立つ筆者、フォーとハーブ、別のレストランでのフォーとハーブ
【まとめ・ベトナムの食に学ぶ長寿の秘訣】
ベトナムの食に秘められた健康長寿の要素、私たちの日々の生活に取り入れられるものは見つけられたでしょうか。
- 適度なコーヒー
適切な時間に適量のコーヒーを飲むことは健康効果につながります。コーヒーを飲む時には、合わせてコップ1杯の水を飲むことで脱水状態にならないように気をつけましょう。また、就寝前5時間以内には飲まないようにしましょう。妊娠中の人、子どもはコーヒーの摂取を控えます。また、コーヒーを飲む時には砂糖を入れ過ぎないように気をつけましょう。 - 米を食べる
私たちが1日に必要とするエネルギーの5~6割は炭水化物から摂取します。炭水化物源として、食物繊維、ビタミン、ミネラルを含む米を食べましょう。玄米や発芽玄米を取り入れられるようであれば、なお健康効果が高いでしょう。玄米を食べる時には柔らかく炊くことがポイントです。食べ過ぎに注意し、ご飯を食べるのは食事の最後の方にすると、血糖値が上がりにくく、腹持ち良く過ごせます。 - ハーブでデトックス
ハーブには様々な健康効果があるだけでなく、香りを楽しみつつ、塩分を控えることもできます。スーパーなどで買おうと思うと高くてビックリすることもありますが、買って、水を張った瓶などに入れておけば、長持ちします。ガーデニングで植えるのも良いですね。サラダに混ぜたり、炒め物の仕上げにトッピングしたり、お好みで食事に取り入れてみましょう。
【ベトナム料理レシピ】
エビと野菜の生春巻き
生春巻きといえば、ライスペーパーに包んであるものが一般的ですが、写真のように、サンチュ(あるいはリーフレタス)に巻いて作る方法もあります。ライスペーパーがない時にも作ることができるので、おすすめです。
豚肩ロース肉はしゃぶしゃぶ用の薄切り肉を使って、熱湯で茹で、冷水にとって冷ましておきます。エビは背ワタを抜いて、熱湯で茹で、殻をむいて足のついた部分が平らになるように切っておきます。
もやしと細ねぎも茹でて冷ましておきます。にんじんと大根は千切りにして塩もみし、水で洗い流します。きゅうりを短冊切りにしておきます。別に錦糸卵を作っておきます。
サンチュの色鮮やかな方を下にしておき、豚肉、にんじん、大根、きゅうり、もやし、錦糸卵、青じそ、パクチー、オリエンタルバジルなど(あれば)をのせて 巻きます。巻き止まりを下にして、エビをのせ、茹でた細ねぎで縛って仕上げます。
写真中央のタレ(ヌクチャム)は、ヌクマム、ライムのしぼり汁、砂糖少々、ニンニク、赤唐辛子のみじん切りを混ぜて作ります。