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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第25回 気になる尿酸値

今回は、多くの男性にとって気になる話題、尿酸値と痛風について。痛風は尿酸が体の中にたまり、結晶になって激しい関節炎を伴う病気ですが、尿酸がたまると痛風以外にも悪影響があります。そもそも尿酸とは何なのか?尿酸値が高くなってしまう理由や、尿酸値を下げるための食事や生活について解説します。

【尿酸とは】

尿酸は、プリン体が分解されることにより作られます。プリン体は、遺伝子を構成している核酸の成分で、細胞が新陳代謝を繰り返したりすると、プリン体は細胞から放出されます。放出されたプリン体、あるいは食事から摂ったプリン体は、主に肝臓でキサンチンオキシダーゼという酵素によって尿酸に変換されます(図1)。食事中のプリン体摂取が多いと、尿酸値が高くなり、痛風の原因になると思いがちですが、実は、食事由来のプリン体は2~3割であり、血液中のプリン体の7~8割は体内で作られています。

【日本人の尿酸値の基準】

日本人は、血液中の尿酸値が7.0mg/dLを超えると、高尿酸血症と診断されます。7.0~8.0mg/dLであれば食生活や運動習慣の改善が勧められ、8.0mg/dL以上であれば、状況に応じて薬による治療があります。
血清尿酸値の平均値は男性で3.5~7.0mg/dL、女性で2.4~5.8mg/dLであり、女性の方が総じて尿酸値が低いです。これは、女性ホルモンに尿酸を体外へ排泄する作用があるためであり、閉経後の女性は閉経前と比べると尿酸値が高くなることが知られています。

【尿酸値が高くなる理由】

尿酸値はどうして高くなるのでしょうか?人の体内では通常1日0.6gの尿酸が作られますが、尿酸値は、尿酸がどれだけ作られるかと、どれだけ体外へ排泄されるかによって決まり、大きく3つのパターンに分けられます。

①産生過剰型
尿酸がたくさん作られるタイプ。体外への排泄量は正常です。日本人の高尿酸血症患者の20%くらいがこのタイプに当てはまります。

②混合型
尿酸がたくさん作られる上に、体外への排泄量も低下しているタイプ。日本人の高尿酸血症患者の20%くらいがこのタイプだといわれます。

③排泄低下型
尿酸が作られる量は正常であるにもかかわらず、体外への排泄量が低いタイプ。日本人の高尿酸血症患者の60%くらいがこのタイプであり、最も多い原因となっています。

尿酸値が高くなる要因としては、家族性のものと生活習慣などの環境によるものがあります。家族性の要因としては、尿酸を排泄するための輸送体(トランスポーター)に変異がある場合に、うまく尿酸を排泄することができずに高尿酸血症になる場合があります。
また環境要因としては、バターや肉の摂取が多い人、飲酒量が多い人、また、砂糖入り飲料や果糖の摂取が多い食生活を送っていたり、食べ過ぎたり、ストレスがたまっていたりすると尿酸値が高くなる傾向があります。

【尿酸値が高いとどうなる?】

尿酸値が高くなり、高尿酸血症になると、通風のほか、腎臓の機能低下や尿路結石、メタボリックシンドロームや動脈硬化などの合併症を引き起こす可能性があります(図2)。

また、高尿酸血症が長期化すると、尿酸が結晶化し、全身に悪影響が出てきます。例えば、結晶化した尿酸は、関節や耳、ひじ、手の甲に沈着することがあり、腫れや激痛を伴う場合があります。さらに、尿管や尿道、膀胱に結石ができることもあり、尿路結石といわれます。また、尿酸結晶が腎臓に沈着して、腎機能の低下をもたらす場合がありますが、悪化して腎不全になると透析が必要になることもあります。

(痛風)

尿酸値が高いと多くの人は痛風を心配されるのではないでしょうか。尿酸が結晶化したものが関節や腎臓に沈着し、炎症を起こして激痛が起きます。足の親指の付け根に起こることが多いですが、その他膝や足の甲、手関節にも起こることがありますし、慢性的に起こると関節や骨が変形してしまいます。

通風は「風が吹くだけでも激痛が走る」という症状に由来します。アレキサンダー大王、ルイ14世なども苦しんだといわれるように、古くから存在していた病気ですが、日本では明治時代に入るまで痛風は存在せず、戦後(特に1960年代以降に)現れ始めたといわれています。

現在、日本の痛風患者数は、50~60万人で、予備軍である高尿酸血症(7.0mg/dL以上)は300~500万人いるとも推測されますが、その理由の多くは、食事や生活習慣の変化だと考えられています。

では、尿酸値が高めな方は何に気をつけて生活すればよいのでしょうか。

【尿酸値を下げるために】

①食べ過ぎを防ぎましょう
プリン体を多く含む食品を摂りすぎないように気をつけましょう(図3)。また、食べる量を全体的に少なくすれば、プリン体の摂取量も少なくなります。

②お酒は適量に
ビール以外はプリン体含量が少ないですが、アルコールは全般的に尿酸値を上げる効果がありますので、飲み過ぎには注意が必要です。特にビールの飲み過ぎには気をつけましょう!

③甘い物を控えましょう
お菓子やジュースなどの甘い食べ物や飲み物の摂り過ぎに気をつけましょう。果物に多く含まれる果糖にも注意が必要です。

④尿をアルカリ化する食品を食べましょう
尿をアルカリ性に近づけるような食品を食べることは、尿路結石の予防に有効であるとされています。海藻類やきのこ類、野菜、豆類などを積極的に食べましょう。

⑤水分をたくさん摂りましょう
水分をたくさん摂って血液中の尿酸を薄めること、尿量を多くして、できてしまった尿酸を排泄することが大切です。水、ほうじ茶・麦茶などのお茶、瓜などを積極的に摂りましょう。1日2リットル以上の水分の摂取が推奨されています(食品から摂る水分量を除いて、1.2リットルの水分)。

⑥有酸素運動をしましょう
運動をするなら、激しい筋トレなどの無酸素運動ではなく、ジョギングやヨガなどの有酸素運動をすると効果的だと考えらえています。

⑦肥満の人は減量しましょう
肥満の人は尿酸を作りやすく、排泄しにくい状態になります。適正な体重を保つことを心がけましょう。

⑧ストレスをためない生活を
ある程度のストレスは肥満防止などの効果がありますが、過剰なストレスは病気につながります。趣味に時間を費やす・散歩や旅に出かける・プライベートな時間を大切にするなど、ストレス解消法を見つけましょう。ストレス解消のためにやけ食い・やけ酒をしないこと!

⑨乳製品をとりましょう
乳製品を多く摂取する人は、あまり乳製品を摂取しない人と比べて痛風の発症リスクが低いことも報告されています。乳製品は骨粗鬆症の予防にもなるので、毎日少しずつ食事中に取り入れるといいでしょう。

【尿酸値を考慮した献立例】

ミートソーススパゲティ

フライパンでみじん切りにしたにんにく、玉ねぎ、にんじん、セロリをじんわりと炒め、ひき肉を加えます。赤ワイン、トマトソース、ウスターソースなどで味付けをし、茹でたパスタにからめます。

(栄養のポイント)
牛ミンチだけでなく、野菜をたっぷり加えることで尿酸値を上げにくくすることができます。
野菜と豚肉の梅おろしサラダ

なす、アスパラ、トマト、みょうがなどの夏野菜を使ったサラダです。なすは皮をむいて電子レンジで加熱、アスパラは茹でます。小角切りにしたトマトと千切りにしたみょうが、サッと茹でた豚肉にたたいた梅と大根おろし、酢、醤油を混ぜたドレッシングをかけます。

(栄養のポイント)
夏野菜は水分をたくさん含むので、尿酸値の排泄を助けます。
梅に含まれる酸は、疲れをとる効果があるので、夏バテ対策にも効果的です。
大和芋の青じそ焼き

大和芋をすりおろし、塩を加えて練ったものを青じそではさんでフライパンで焼きます。仕上げにバターとしょうゆを少量加えて仕上げます。

(栄養のポイント)
大和芋には尿をアルカリ化する作用があります。
食物繊維も豊富で整腸作用があります。
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