文化講座
第35回 ステイホームで見直す食生活
COVID-19の感染拡大を防ぐため、ステイホーム(自宅待機)や自粛生活が続いています。5月14日に政府が緊急事態宣言を解除しましたが、第2波、第3波が訪れる可能性もあり、一定の自粛生活がしばらくは続くことでしょう。そんな中、食生活が大きく変化したという方も多いのではないでしょうか。外食が多かった人は家で料理する機会が増えたでしょうし、在宅勤務で毎食料理を作らないといけないという人も増えています。外で運動する機会が減って、ストレスになったり、体重が増えたりと、悩みを抱える人も少なくないことと思います。
今回は、より快適に過ごすための自宅で取り組める食生活について、生活リズムの維持とタンパク質、野菜、発酵食品の摂取の4つのポイントに絞って解説します。
【生活リズムを崩さないで食べる】
家にいて陥りやすいのは、生活リズムが崩れてしまうこと。朝遅く起きる、夜更かしをする、など生活リズムの乱れは、交感神経と副交感神経のバランスを崩して、ストレスの元になったり、太りやすい体を作ったり、病気を招いたりと、体の不調をもたらします(第16回「自律神経を整える」参照)。
私たちの体内には、概日リズム(体内時計)という、24~25時間周期で変動するリズムが備わっています。朝、太陽の光を浴びると、目を介して脳の視交叉上核という場所から全身に起きなさいという指令が伝わり、1日のリズムが開始されます。また、食事をとることによって、肝臓や筋肉、血管、心臓などの全身の組織に存在する時計遺伝子を介して生活リズムがリセットされます。すなわち、朝日を浴びることに加えて、朝食をとることが、目覚めを良くし、代謝を活性化することの手助けになっているのです。
さらに、目覚めを良くするために必要なのが、質の高い睡眠です。満腹状態であると睡眠が妨げられるので、就寝2~3時間前には食べるのをやめましょう。特に、夜9時以降は代謝が悪くなるため、夜遅くに食べると体重増加につながります。夕食後に緑茶やコーヒーなど、カフェインを含むものを飲むと興奮して寝付けないということになりかねません。また、眠れないからといってお酒を飲むと、利尿作用のせいでお手洗いに起きる頻度が多くなり、かえって睡眠の質を悪くします。
逆に寝付きを良くする効果が期待できる食品として、温かいミルクやハーブティー、チーズなどがあります。また、眠りにつくときには体が熱を放出して体温を低くすることが知られており、体温を下げることで睡眠を誘導しているのではないかと考えられています。体が冷えていると体温を下げることができず、睡眠誘導しにくくなる可能性があるため、寝る前には血行を良くして体を温めることが大切です。
【タンパク質不足にならないように】
外出する機会が減ると、運動不足になりやすく、筋肉が衰えて体重が増えてしまうことも。タンパク質が不足してしまうと筋肉が作られないので、運動不足にならないように留意することに加えて、タンパク質不足にならないように食生活を見直しましょう。
タンパク質を含む食品には、肉類(牛肉、豚肉、鶏肉など)や卵、魚介類などの動物性食品と、豆類・豆製品や穀物(米、パン、麺類)などの植物性食品があります。タンパク質は20種類のアミノ酸から構成されますが、動物性食品と植物性食品では、含まれるアミノ酸の組成が異なるので、動物性と植物性を組み合わせ、様々な種類の食品を食べてバランスを取ることを意識してください。
豆類・豆製品の中にも、大豆、そら豆、枝豆、えんどう豆、豆腐、納豆、豆乳、油揚げなど様々な食品があります。大豆は「畑の肉」と言われるだけあって、タンパク質の多さは肉類に引けを取りません。しかも食物繊維を含んでいること、脂肪分は多くないことから、肉類とは違った良さがあるので、動物性食品に偏らないように、豆類・豆製品も取り入れたいものです。
タンパク質は、成人女性で50g、成人男性で60gの摂取が推奨されています。下の表を参考に、どのくらいの食品を食べたら良いのか、考えてみましょう。
【野菜をたっぷり食べましょう】
外食に比べると、自宅で料理することによって野菜を食べる機会が増えるでしょう。しかし、それでも野菜不足になっている可能性が高いです。1日350gの野菜を食べることが推奨されていますが、2017年の国民健康・栄養調査における野菜類平均摂取量を見てみると、20歳以上の男性で1日295g程度、女性で1日280g程度と、いずれも目標の350gを大きく下回っています。年齢別で見ると、特に20~30歳代は、男性で260g、女性で225g程度と、目標値を100g近く、総平均と比べても大きく下回っているのが現状です。
和食の基本である1汁3菜、主食であるご飯に汁物と3種類のおかずを組み合わせた献立を食べると、汁物にもおかずにも野菜を取り入れることができて、野菜をたくさん食べることができます。しかし、毎日毎食のこと、品数を1~2品で済ませることもあるでしょう。そんな時には、できるだけ1品に入れる野菜の種類や量を増やしましょう。
例えば、カレーやシチュー、ミネストローネなどの煮込み料理は、野菜をたくさん食べられます。特に根菜類を多く食べられるので、食物繊維不足の解消にも良いでしょう。また、野菜と前述のタンパク質を含む食品は相性が良く、よりおいしく食べられるという利点があります。トンカツを作る場合、いつもよりも少し薄めの肉を使って、にんじんやいんげん豆、アスパラガスなどの野菜を巻くことで豚肉だけでなく、野菜を一緒に食べられます。牛肉にキノコを巻いて甘辛く仕上げるのも良いでしょう。
日々の食事にどうやって野菜を取り入れられるか、と意識しながら、野菜不足にならないように気をつけましょう。どうしても野菜が足りない時には、葉物野菜をサッと茹でて醤油やポン酢をかけて食べるのも簡単ですし、トマトをデザート代わりに食べる、加糖していない野菜ジュースを飲む、など、必要に応じて簡単に野菜を食べられる方法を取り入れましょう。
【発酵食品を食べましょう】
野菜に含まれる食物繊維とともに、発酵食品は腸内環境を整えるために大切な食品です。腸内には、3万種類以上、1,000兆個以上の腸内細菌が生息しており、善玉菌:悪玉菌:日和見菌が3:1:6の割合で存在することが、わたしたちの体の健康維持のために理想的であると言われています。漬物やヨーグルト、納豆などに含まれる、乳酸菌やビフィズス菌は、腸内細菌のバランスを整え、整腸作用をもたらしてくれます。ストレスがたまることによって便秘になる、逆にストレスによって下痢になるような場合には、特に発酵食品を意識的に食べると良いでしょう。
腸は人体最大の免疫組織であると言われるほど、たくさんの免疫細胞が存在し、私たちの体を外敵から守ってくれています。の腸内環境を整えることによって菌叢(きんそう)をバランス良く保つことは、免疫機能を正しく維持して感染症を予防することにつながるでしょう。
【ステイホーム食生活で気をつけることのまとめ】
今回は自宅での食生活について以下の4つのポイントに分けて解説しました。
1)生活リズムを崩さないで食べましょう
2)筋力が衰えないように、タンパク質を十分にとり、自宅でできる運動を取り入れましょう
3)野菜は1日350gを食べられるようにしましょう
4)発酵食品を取り入れましょう
毎日3食の食生活をきっちり食べようと思うとストレスになってしまうので、1日でどうだったか、1週間でどうだったか、と大まかに考えてバランスが取れるように心がけると良いでしょう。
【野菜をたくさん食べられる献立】
パプリカの肉詰め
パプリカのヘタの部分をフタにするように切り、種を取り除いたものに塩、こしょうをします。牛肉と豚肉の合挽肉と卵、みじん切りにして炒めた玉ねぎ、ズッキーニを混ぜて塩、こしょう、パプリカパウダーで味付けしたものをパプリカに詰め、180℃のオーブンで20~30分焼きます。写真に添えたものはマッシュポテトです。
- (栄養のポイント)
- パプリカを丸ごと1つ(約130g)食べられ、玉ねぎやズッキーニも入るので、野菜をたっぷり食べられます。
- 野菜だけでなく、タンパク質源である肉類、卵も一緒に食べられます。
チャルキーカン
南米で食べられる野菜の煮込み料理。かぼちゃ、じゃがいも、にんじん、コーン、グリーンピース、玉ねぎなどの野菜と牛肉を細かく切ってオリーブオイルで炒めた後、水を加えて煮込みます。塩、こしょう、オレガノ、クミンで味付けし、最後に目玉焼きをのせて食べるのが現地流です。
- (栄養のポイント)
- 煮込み料理は野菜をたくさん食べられる良い方法です。
- トマトのサラダやフルーツなどと組み合わせて食べると良いでしょう。