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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第31回 亜鉛の健康効果

五大栄養素のひとつであるミネラルは、三大栄養素(糖質、脂質、タンパク質)を体の中で効率良く使うために必要であり、私たちの体を構成する大切な成分です。前回は、血液の成分である鉄分を取り上げ、貧血や鉄分不足の原因、貧血予防のための食事ポイントなどをお伝えしました(第30回「貧血と鉄分不足」参照)。
今回取り上げるのは、亜鉛。味覚を正常に保つために必要であることはよく知られていますが、その他にも、免疫や精神の安定に欠かせない重要なミネラルです。今回は、亜鉛が不足するとどのような症状が出るのか、亜鉛不足の解消のためにどうすれば良いか、について解説します。

【亜鉛とは】

ミネラルの一種で、成人の体内に約2g含まれています。大半は筋肉や骨に含まれていますが、肝臓や腎臓、前立腺などにも存在します。体の中には何千種類という酵素が存在しており、100種類を超える酵素については、その活性に亜鉛を必要とします。体内に存在する亜鉛は全て食事由来ですから、亜鉛は私たちの体に欠かせない重要な栄養素であり、不足すると様々な弊害をもたらします。

【体内での亜鉛の役割】

亜鉛の役割としてよく知られているのが、味覚や嗅覚を正常に保つこと。この他にも亜鉛は、精神安定に関わり、イライラを防止する効果や、健康な皮膚を保ち、脱毛を防ぐ効果があります。また、免疫機能や生殖機能を正常に維持することにも重要な役割を果たしています。

【亜鉛が不足するとどうなるの?】

亜鉛は私たちの体の中のたくさんの仕組みに関わっているため、不足すると不具合が出てきます。タンパク質やDNAの合成に支障が出て成長障害が起こることや、味を感じにくくなる味覚障害になる可能性があります。この他、亜鉛不足によって起こる症状には以下のようなものがあります。

  • 味覚異常
  • 食欲低下
  • 皮膚炎
  • 傷が治りにくい
  • 口内炎
  • 脱毛
  • 貧血
  • 下痢
  • 骨粗鬆症
  • 元気がない
  • 風邪をひきやすい
  • 発育障害(子ども)
  • 生殖機能低下

厚生労働省によって推奨されている1日の亜鉛摂取量は、成人男性で10mg、成人女性で8mgです。妊娠中や授乳中には、赤ちゃんへの栄養供給量が多くなるため、推奨摂取量は10~11mgと、通常よりも多くなります。一方、実際に摂取している量は推奨量に比べて少なく、亜鉛がやや不足気味であるのが現状です。

【亜鉛不足の原因】

では、なぜ亜鉛不足になるのでしょうか。亜鉛不足の原因は、摂取量の不足、吸収不全、需要増大、排泄増加の大きく4つに分けられます。

(摂取量の不足)
前回の鉄分不足同様、偏食や不規則な食事、外食が多い場合、無理な減量によって亜鉛が不足することがあります(第30回「貧血と鉄分不足」参照)。動物性のタンパク質をあまり食べない人や、減量目的で食事量が全体的に少ない人は亜鉛だけでなく、他の栄養素も含めて不足しやすくなりますので、気をつけましょう。

(吸収不全)
病気、一部の抗生物質によって亜鉛の吸収阻害を引き起こす可能性があります。特に高齢の方の場合、食べ物を消化吸収する力が弱まる結果、亜鉛を含む栄養素を吸収しにくくなります。

また、食べ合わせによっても亜鉛の吸収が悪くなることがあります。食物繊維の食べ過ぎやコーヒー、濃い緑茶、紅茶、ワインなどのタンニンが多い飲料、オレンジジュースなどは亜鉛の吸収を阻害することが知られているので、これらの飲料を食事中に過度に飲みすぎないようにしましょう。

さらに、亜鉛や鉄などのミネラルの吸収を阻害する物質として「フィチン酸」が知られています。フィチン酸は、玄米や全粒粉などの穀物や、ごま、大豆、ピーナッツなど種実類、豆類に含まれる物質で、これらの食品が元来有している亜鉛や鉄などのミネラルと結合した状態で存在しています。亜鉛はフィチン酸と結合している状態だと吸収されにくいことから、フィチン酸を多く含む植物性食品よりも動物性食品からの方が亜鉛の供給効率は高くなるというわけです。ただ、植物性食品であっても発酵によりフィチン酸と亜鉛の結合が分解されるので、発酵食品である全粒粉パンや、納豆などを食べると良いと考えられます。

(需要増大)
妊娠中や授乳中、特に赤ちゃんが急激に大きくなる過程では、亜鉛を含む栄養素全般の必要量が多くなります。妊娠中や授乳中は意識して、いつもよりも多くの栄養素を摂る必要があります。

(排泄の増加)
亜鉛は便や汗などから排泄されます。肝臓病(肝炎、肝硬変、肝がんなど)や腎臓病、糖尿病など、亜鉛不足を招く病気や、その治療薬によって亜鉛排泄が促進されることがあります。

【亜鉛を過剰摂取するとどうなる?】

以上のように、一般的には亜鉛の摂取量が十分でないことや、食べ合わせが良くないことによって亜鉛不足になります。サプリメントなどで簡単に亜鉛を摂取することは可能ですが、サプリメントで亜鉛を継続的に摂取すると、銅や鉄の吸収阻害による銅欠乏や鉄欠乏が問題となり、それに伴う貧血、免疫障害、神経症状、下痢、HDLコレステロールの低下などが起こるおそれがあるため、注意が必要です。

【亜鉛を含む食品と食事のポイント】

サプリメントによる継続的な過剰摂取によって不調をきたすよりも、日々の食事から亜鉛不足を解消するのが良いでしょう。

亜鉛を多く含む食品には、牡蠣や貝類などの魚介類、海藻類、肉類があります(表1)。特に、牡蠣は数ある食品の中でも亜鉛含量が多いです。また、野菜類、豆類、種実類にも含まれるので、魚介類、肉類、野菜類などをバランス良く食べることを心がけましょう。

上述のように、食べ合わせによって亜鉛吸収が阻害されることがありますが、逆に亜鉛吸収を促進する食品もあります(図1)。肉類、牛乳、乳製品などの動物性のタンパク質や、ビタミンCは、一緒に食べることで亜鉛の吸収を促進します。例えば、牡蠣にレモン汁を絞って食べるというのは理にかなっていると言えます。

亜鉛吸収を阻害するもの

食物繊維
コーヒー(タンニン含)
オレンジジュース
アルコール
フィチン酸

亜鉛吸収を促進するもの

肉魚類(動物性タンパク質)
クエン酸
ビタミンC

図1.亜鉛の吸収を阻害・促進する食品

【亜鉛不足にならないための献立例】

アクアパッツァ

魚介類をトマトとオリーブオイルなどで煮込んだナポリ料理。タイやスズキ、タラなどの白身魚や、サバやサワラなどを使っても良いでしょう。塩こしょうで味付けしておいた魚をオリーブオイル、にんにくとともに焼き、アンチョビ、玉ねぎ、トマト、アサリを加えてワイン蒸しにします。

(栄養のポイント)
魚貝類には亜鉛が豊富に含まれます。
ビタミンCを含む食材(トマトなど)と一緒に食べると亜鉛吸収が高まります。
タラモサラタ

茹でたじゃがいもに、玉ねぎのすりおろし、たらこを混ぜ、オリーブオイル、塩、レモン汁、にんにくで味付けします。

(栄養のポイント)
たらこには亜鉛が豊富に含まれます。
じゃがいもにはビタミンCが豊富に含まれます。また、じゃがいものビタミンCは加熱調理しても壊れにくいです。
トマトと柑橘のはちみつチーズサラダ

トマトとグレープフルーツや文旦などの柑橘類をサラダにして食べます。はちみつ、レモン汁をかけ、カッテージチーズなどの食べやすいチーズを混ぜるだけの簡単サラダ。デザート感覚で食べられます。

(栄養のポイント)
柑橘に含まれるビタミンC、クエン酸は亜鉛吸収を促進します。肉料理に添えて食べても良いでしょう。
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