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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

栄養と代謝(11)ミネラルの役割

第62回から始まったシリーズ「栄養と代謝」では、私たちの健康に必要な栄養素とその代謝について基礎から学び、ご自身の食生活をより豊かにできるよう、情報をお伝えしています。

シリーズ11回目は、ミネラル、特に1日の摂取目安量が少ない「微量ミネラル」について取り上げます。

【微量ミネラルとは】

五大栄養素のひとつであるミネラルには、1日の摂取目安量が多い「多量ミネラル」と、摂取目安量が少ない「微量ミネラル」があります(図1, 栄養と代謝 (10)「ミネラルの役割」)。微量ミネラルには、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ヨウ素、セレン、クロム、モリブデンの8種類がありますが、鉄や亜鉛は不足しがちなミネラルであり、酵素の活性や安定性に重要な役割を果たしています。

図⒈ 多量ミネラルと微量ミネラル
ミネラルには、1日の摂取目安量が多い「多量ミネラル」と、摂取目安量が少ない「微量ミネラル」が存在する。

【鉄(Fe)】

鉄は、赤血球を構成する成分です。赤血球は血液を構成する細胞のひとつで、肺から全身の組織へ酸素を運ぶ役割を果たしています。赤血球は、骨髄に存在する造血幹細胞が分化した赤芽球から作られます。鉄は血液中ではトランスフェリンというタンパク質に結合しており、これが赤芽球に取込まれると赤血球となります。赤血球に存在するグロビンというタンパク質と鉄が結合してヘモグロビンとなると、酸素を結合することができ、血液に乗って全身に酸素を運搬することができます(図2, 左)。また、肝臓、骨髄、脾臓、筋肉には鉄が貯蔵されており、これを貯蔵鉄と呼びます。貯蔵鉄は必要な時に血液中に供給されています。

赤血球は約120日の寿命があり、老化した赤血球は脾臓で処理されます。マクロファージという免疫細胞に赤血球が取り込まれると、赤血球が破壊され、放出された鉄はトランスフェリンと結合して、再度ヘモグロビンの合成に利用されます(図2, 右)

図⒉ 赤血球と鉄
赤血球は、骨髄で造血幹細胞から作られます。赤芽球に鉄が取り込まれることによって赤血球となります(左)。一方、老化した赤血球は、マクロファージに取り込まれて破壊され、放出された鉄は再利用されます(右)。

(鉄不足による症状)
前述のように、鉄は赤血球の重要な成分であるため、鉄の不足によって貧血になります。鉄不足のほか、ビタミンB12や葉酸の不足によっても赤血球やヘモグロビンを作ることができなくなります。また、赤血球の源である幹細胞の異常や、自己免疫疾患、感染、がんなどの病気によって、赤血球が正常に作られなかったり、破壊されてしまったりすることがあります。特に、腎臓は赤血球を増やすためのホルモン・エリスロポエチンを産生しており、腎臓の機能が低下することによってエリスロポエチンの産生量が減少するために、赤血球が不足するという「腎性貧血」が生じることがあります。

(鉄の過剰摂取による弊害)
鉄は、不足しないように食べることが大切ですが、過剰摂取による弊害もあるため、摂取方法には気をつける必要があります。通常の食事では過剰になることはまずありませんが、過剰摂取によって、便秘、胃部不快感、亜鉛の吸収阻害や、肝障害やがんなどの慢性疾患を引き起こす可能性があるため、サプリメントの摂取には注意しましょう。

(食事からの鉄の摂取)
カツオやマグロなどの赤身魚、レバー、牛肉、貝類、青菜、豆類、海藻類に鉄が多く含まれます。植物性の鉄(非ヘム鉄)は、動物性の鉄(ヘム鉄)と比べて吸収率が低いので、吸収を高める食品を組み合わせると良いでしょう。例えば、動物性タンパク質(魚、肉)や、ビタミンC(柑橘類、パプリカ、キウイなど)は、鉄を含む食品と一緒に食べると吸収率が高まります。
一方、食物繊維の過剰な摂取や、緑茶やコーヒーに含まれるタンニン、カフェインには鉄吸収を抑制する作用があります。また、ビタミンB6やビタミンB12、葉酸を一緒に食べることで効率良く赤血球を作ることができます。

【亜鉛(Zn)】

亜鉛は、骨格筋や骨、皮膚、肝臓、腎臓、脳などに分布していて、精神安定や味覚・嗅覚の維持、視力の維持、糖尿病の予防、免疫機能の維持、精子の形成、酵素の活性補助、コラーゲンの合成など、その役割は様々です(図3)。

図⒊ 亜鉛の役割
亜鉛は、骨格筋や骨、皮膚、肝臓、腎臓、脳などに分布していて、精神安定、味覚・嗅覚、視力、免疫機能などの維持、精子の形成などに関与しています。

(亜鉛欠乏による症状)
亜鉛が不足していると、味覚障害や食欲低下、皮膚炎、口内炎、脱毛、貧血、下痢、骨粗鬆症、感染症罹患などの症状が出ることがあります。また子どもでは発育障害が、男性では精子形成が阻害されるなどの性機能異常を引き起こすことがあります。

(亜鉛の過剰摂取による弊害)
亜鉛は毒性が極めて低いとされており、通常の食生活では亜鉛の過剰症が問題となることは、あまりありません。一方、急性亜鉛中毒では胃障害、めまい、吐き気がみられます。サプリメントなどで継続的に過剰摂取すると、銅や鉄の吸収阻害による銅欠乏や鉄欠乏が問題となり、それに伴う貧血、免疫障害、神経症状、下痢、HDLコレステロールの低下などが起こるおそれがあります。

(食事からの亜鉛の摂取)
亜鉛は、牡蠣や、豚肉、牛肉、鶏肉などの畜肉のレバー、ホタテ、うなぎなどに含まれます。クエン酸やビタミンCを一緒に食べると、亜鉛の吸収を促進する一方、食物繊維やタンニンを含むコーヒー、アルコールなどは亜鉛の吸収を阻害します。

【その他の微量ミネラル】

(銅)
食事から摂取した銅は、小腸から取り込まれて肝臓に運ばれた後、血中に放出されます。体内では、肝臓にとどまるもののほか、筋肉や骨にも存在して、エネルギー生成や鉄の代謝、神経伝達物質の酸性、活性酸素の除去などに関与しています。

銅は、魚介類、肉類、豆類に多く含まれます。銅欠乏には、遺伝的に銅を吸収できない病気と、食事からの摂取不足に起因する後天的なものがあり、白血球や好中球の減少、脊椎神経系の異常などの症状があります。一方、銅過剰症では、肝臓、脳、角膜に銅が蓄積して肝機能障害や神経障害が生じます。

(マンガン)
マンガンは、骨をはじめとする様々な臓器に存在しており、骨の健康維持に関わるミネラルです。また、糖尿病の予防に寄与すると考えられています。穀物や豆類などの植物性食品から摂取することができます。このことから、日本人のマンガン摂取量は欧米人と比べて多いです。

(ヨウ素)
ヨウ素は、甲状腺ホルモンを構成する重要なミネラルであり、エネルギー代謝、生殖、成長、発達に重要な役割を果たします。また、胎児の発達に重要であり、妊娠中のヨウ素欠乏は死産や流産、先天異常などを招く危険性があります。一方、過剰摂取によって赤ちゃんの甲状腺機能を低下させる可能性もあり、注意深く管理する必要があります。

ヨウ素は、昆布やひじきなどの海藻類に多く含まれるため、日本人のヨウ素摂取量は他の国に比べて多いです。日常的に食べても問題ないですが、過剰に摂取すると甲状腺の機能を低下させることがあります。

(セレン)
セレンは、セレノプロテインというセレンを含むタンパク質を構成し、抗酸化作用や甲状腺ホルモンの代謝に重要な役割を果たします。魚介類に多く含まれ、日本人は魚介類の摂取が多いため、不足しにくいと言えます。また、我が国の通常食生活においては過剰摂取が生じる可能性も低いとされています。

(クロム)
クロムは、糖尿病に対する予防効果があると期待されていますが、わかっていないことも多いミネラルでもあります。

(モリブデン)
モリブデンは、一部の酵素の補酵素として機能し、モリブデンの欠乏により、脳の萎縮や機能障害を生じることや、新生児の場合、死に至ることもあります。モリブデンは穀類や豆類に多く含まれ、日本人のモリブデン摂取量は欧米よりも多いです。

【まとめ】

今回は、1日の摂取目安量が少ない微量ミネラルについて解説しました。微量ミネラルの摂取量と病気の発症については不明な点も多いです。通常の食生活で過剰摂取する可能性は低いですが、サプリメントによって過剰摂取が生じる可能性は否定できません。次回は食物繊維について解説します。

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