文化講座
第8回 地中海式ダイエット
第7回では、日本人の国民病とも言える糖尿病と、最近話題の糖質制限ダイエットについて解説しました。「ダイエット」とは、単に「痩せる」を意味するのではなく、本来は食事のことを指すのであり、糖質制限ダイエットを行う場合には食物繊維やビタミンが不足しないように気をつける必要があること、また万人が糖質制限ダイエットを取り入れてもいいというわけではないことを述べました。今回は、「ダイエット=食事」のつながりで、「地中海式ダイエット」について解説したいと思います。
【地中海式ダイエットとは】
地中海式ダイエットとは、その名の通り、地中海沿岸諸国で食べられる料理のこと。地中海式食、Mediterranean dietとも呼ばれます。イタリア、スペイン、ギリシャ、モロッコが中心となり2010年にユネスコ無形文化遺産に登録され、2013年には、ポルトガル、クロアチア、キプロスが追加されました(図1)。これらの国々で食べられる料理はもちろんすべて同じではありませんが、地中海沿岸諸国に共通した特徴的な食事と、この食事スタイルが健康的であることが科学的に証明されている点が評価されています。
【地中海式ダイエットが注目される理由】
地中海式ダイエットが良好な健康をもたらすことはよく知られていますが、世界的に注目を集めたのは、1953年にさかのぼります。アメリカ合衆国・ミネソタ大学のアンセル・キーズ博士らは、地中海沿岸諸国では、アメリカ、イギリスや北欧などに比べて、狭心症や心筋梗塞などの疾患が少ないことに着目し、各国の食事内容を研究しました。そして、食事の脂質量と心血管疾患の発症率に相関があること、すなわち、脂質摂取量が多ければ多いほど、心血管疾患の発症率が高いことを見出しました(図2)。これがきっかけとなり、脂質の過剰摂取が健康に悪影響をもたらすことや、地中海沿岸諸国で食べられる料理が注目されることとなったのです。近年、さらに研究は進み、地中海式ダイエットは単に脂質の量が少ないだけでなく、脂質の質が重要であることも分かってきました。
【地中海式ダイエットの特徴】
地中海式ダイエットの特徴として、以下のようなものが挙げられます。
- 油脂は主にオリーブオイルを摂取する
(バターの代わりにオリーブオイルを使うなど) - 肉類を少なめに、魚介類を多めにとる
(肉類は、牛や豚は赤身部分、鶏はムネ肉やササミなどの脂肪の少ない種類のものを選ぶ) - 季節の緑黄色野菜やキノコ類を摂取する
- 適量の赤ワインを飲む
- 果物やナッツ類を摂取する
- チーズやヨーグルトなどの乳製品を摂取する
地中海式ダイエットの最も大きな特徴は、オリーブオイルを使うことでしょう。オリーブオイルにはオメガ9系の脂肪酸が含まれており、心血管疾患を予防する効果や悪玉LDLコレステロールを低下させる作用があります。また、赤肉類を食べる量が少なく、魚介類を食べる量が多いのも特徴です。魚類にはEPAやDHAというオメガ3系の脂肪酸が豊富に含まれており、健康的である理由のひとつです。すなわち、「脂質の質」が鍵となっています。脂質の質に関しては次回、もう少し詳しく解説したいと思います。
【地中海式ダイエットと体重】
さて、地中海式ダイエットは心血管疾患の予防という観点から有効な食事であることは述べましたが、減量という観点からも地中海式ダイエットが注目されています。
イスラエルでBMI30-32の男女約300人を対象に行われたDIRECT研究という臨床研究があります(BMIは、第5回「異常な脂肪蓄積は死亡への入り口」参照)。この研究では、対象者を3つのグループにわけて、2年間の経時的な体重変化を観察しました。
1つめのグループは、低脂質食。男性1800kcal 、女性1500kcalのカロリー制限をし、さらに脂質摂取量を総カロリーの30%以下に制限 。2つめのグループは地中海式ダイエット。前者とカロリー制限は同じで、男性1800kcal、 女性1500kcal。脂質摂取量を35%以下に制限し、脂質の質を地中海式に変えたもの。3つめは低糖質食。開始2ヶ月は1日20gまで糖質を制限し、その後徐々に増やしますが、1日120gまでに糖質を抑えるというものです。
興味深いことに、開始2年間で最も効果が低かったのが、低脂肪食でした。低糖質食と地中海式ダイエットは2年間で-5kgと同等の体重減少効果を示しましたが、その後4年間をフォローアップすると、地中海式ダイエットが最も体重減少を維持することができたのです(図3)。
この結果からも、地中海式ダイエットが体重減少に効果的かつ、長期間の効果が得られることがお分かり頂けると思います。
もちろん、地中海周辺諸国の人と我々日本人は体質が異なりますので、すべての食事を地中海式に変えることは難しいかもしれませんが、魚食を増やすことや、オリーブオイルを使うことなどは取り入れることができるでしょう。また、おやつにナッツを取り入れる、食事にはたっぷりの野菜を食べるなど、日常的に取り入れられることも沢山ありますので、少しずつ意識して地中海式ダイエットのメリットを取り入れていきましょう。
【地中海式ダイエットの献立例】
サーモンと野菜のイタリアングリル
フライパンににんにく、玉ねぎ、マッシュルーム、にんじん、キャベツなどを千切りにして並べ、サーモンとトマト、レモンのスライス、バジルをのせます。オリーブオイルと塩、こしょうで味付けし、ふたをして焼くだけの簡単な料理です。
- (栄養のポイント)
- サーモンにはEPA、DHAが含まれ、血液サラサラ効果や脳を活性化する作用が期待できます。
- たっぷりの野菜をサーモンやトマトの旨味で美味しく食べることができます。
- トマトやレモン、ハーブを使うことによって塩分を控えましょう。
キヌアのサラダ
茹でたキヌアに、細かく切った玉ねぎ、きゅうり、茹でタコ、コーン、トマトなどを混ぜてレモンドレッシングで和えたサラダ。ドレッシングは、レモン汁、塩、こしょう、オリーブオイルで手作りしましょう。
- (栄養のポイント)
- スーパーフードとして注目されるキヌアは、タンパク質、ミネラル、ビタミンが豊富で食物繊維も含まれます。
- 色とりどりの野菜と組み合わせて栄養バランスの良いサラダに仕上げましょう。
- ドレッシングを手作りすることで、新鮮で質の良いオイルを食べることができます。
じゃがいものフォカッチャ
フォカッチャの生地に、茹でてすりつぶしたじゃがいもを入れて焼き上げたパンです。
- (栄養のポイント)
- じゃがいもを入れてあるので、食物繊維を摂ることができます。