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インターネット公開文化講座

文化講座

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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第38回 世界の長寿食(1)スペイン

今回から数回にわたって、世界の食に目を向けてみたいと思います。日本が世界一の長寿国であることはご存知のことと思いますが、日本以外の長寿国ではどんな食生活が送られているのでしょう。健康で長生きするための食の秘訣を、世界の長寿食から学びます。

初めての今回はスペインです。WHO(世界保健機関)による2018年の報告によると、世界第1位の日本(平均寿命84.2歳)、第2位のスイス(平均寿命83.3歳)に次いで、スペインは世界第3位の長寿国。平均寿命は83.1歳です。2040年には日本を抜いて世界一の長寿国になるのでは、とワシントン大学の研究所が予測するほどです。スペインの食には一体どんな健康長寿の秘訣があるのでしょう?

【スペインの基本知識】

スペイン、スペイン王国、スペイン国と呼ばれる国。日本の約1.3倍の国土には、約4,600万人の人々が生活しています。南ヨーロッパはイベリア半島に位置するスペインは、南と東は地中海に面し、北と西は大西洋に面しています。イベリア半島は「ヨーロッパの尾」「アフリカの頭」と言われ、異なる民族や文化、宗教の影響を受けて、食文化も多様です。2010年には、スペインの料理は、イタリア料理、ギリシャ料理、モロッコ料理などとともに「地中海食」としてユネスコの無形文化遺産に登録されました。

【オリーブオイル】

地中海食の代表的な特徴は、オリーブを多用すること。スペインでも調理をする際に使われるのはオリーブオイルです。フランス料理ではパンにはバターをつけて食べますが、スペインではバターではなく、オリーブオイルをつけます。

スペインの市場に出かけると、オリーブオイル専門店を見かけます。オリーブの産地や製法によって味が異なり、驚くほどたくさんの種類があります。試食してみることもできます。味や香りが濃いものは肉料理に、香りが少なく軽いタイプは生の野菜に、などと使い分けて楽しみます。


スペインはサンセバスチャンの市場にあるオリーブオイル専門店の様子

私たちが食べるオイルの質は、どんな脂肪酸が含まれるかによって決まりますが(第9回第10回「老いるオイルと老いないオイル」参照)、オリーブオイルに含まれるのは、主にオメガ9系脂肪酸であるオレイン酸。LDL(悪玉)コレステロールを下げる効果があり、オリーブオイルをたくさん消費する地中海周辺では動脈硬化症の発症が少ないと報告されています。

【魚介類をたくさん食べる】

スペインでは、魚介類が豊富に獲れるため、タンパク質源は魚介類が中心です。市場に行くとたくさんの種類の魚介類が売られていますし、バル(日本の居酒屋のようなお店)に行くと魚介類を使った料理がズラリと並んでいます。また、そのほとんどがオリーブオイルで調理されたものです。

魚にはエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)のようなオメガ3系多価不飽和脂肪酸が含まれます。EPA やDHA には中性脂肪を下げる効果や、LDL(悪玉)コレステロールを低下させて動脈硬化症の発症を予防する効果、炎症を抑える効果、アレルギーを改善する効果、認知症やうつ病を予防する効果などが報告されており、魚介類の摂取量の多さがスペイン人や日本人に長寿が多い理由のひとつであると考えられます。

【野菜や果物をたくさん食べる】

トマトやズッキーニ、ピエメントと呼ばれるピーマンにきのこ類、春には白アスパラガスなど、たくさんの野菜が手に入ります。オリーブオイルを使ってソテーにするのが一般家庭の食べ方。スペインのアンダルシア地方が発祥のガスパチョは、トマトやキュウリにパン、にんにく、塩、水を加えて作ります。またスペインでは、たくさんの果物が手に入ります。オレンジやリンゴの他に、桃やバナナ、チェリモヤなども食べられます。

【スペインワイン】

イベリア半島にあるスペインは、ブドウ栽培に適した土壌に恵まれています。スペイン産ワインは赤ワインが中心ですが、比較的涼しい気候での白ワイン、カバなどのスパークリングワインも作られます。スペインの中でも、リオハ地方は、スペイン産ワインの最高級産地として知られています。リオハワインの全体の75%が赤ワインであり、その他には白ワインやロゼワインが生産されています。

赤ワインに含まれるポリフェノールには、抗酸化作用があり、動脈硬化の予防や美肌、脂肪分解などの効果があるといわれます。

スペインでは、飲酒量が多いにもかかわらず、動脈硬化症による死亡率が低いと言われており、日常的にポリフェノールを多く含む赤ワインを飲んでいるからだと考えられています。


リオハの赤ワイン

【チーズ】

スペインは、ヨーロッパにおける有数のチーズ消費国。マンチェゴチーズをはじめ、牛乳、羊乳、山羊乳で作られる100種類以上のチーズがあります。羊乳や山羊乳のチーズには、「メンブリージョ」という西洋かりんのジャムが欠かせません。チーズ専門店に行くと、店の外にまでチーズの香りが。あまりにたくさんの種類があって選びきれませんが、自分の好みを伝えると試食させてもらえるので、好みにぴったりなチーズを探すことができるでしょう。

チーズにはカルシウムがたくさん含まれるため歯や骨を強くしますし、イライラ防止にも効果的です。また、発酵食品として腸内環境を整えてくれます。

【食を楽しむ】

スペインに行くと、どの街でも多くの人が食を楽しんでいます。日本でいう居酒屋のような「バル」には人が溢れていて、ワインを飲みながら、周囲の人と会話をしながら、食事を楽しむ光景を見かけるでしょう。

スペインの北、ビスケー湾に面するサンセバスチャンはバスク料理と美食の文化で知られており、世界一の美食の街とも言われます。人口18万人の街、30キロ圏内に、ミシュランの星付きレストランが世界一多く存在しています。2015年のデータによると、サンセバスチャンにある星の数は16(レストランの数9店)、バスク地方にある星の数は28(レストランの数19店)。まさに食の銀河系とも言えます。

そんなサンセバスチャンには、「ソシエダガストロノミカ」という美食倶楽部が存在します。元々は男性たちが料理の腕を振るう、会員制の料理倶楽部。口うるさい女性たちに気兼ねなく、自由に料理をして酒を楽しむ場として広まったそうです。サンセバスチャン市内には100以上もの美食倶楽部があると言われています。昔は女人禁制でしたが、現在では奥様や家族を招いて料理を振る舞う倶楽部も増えてきています。


サンセバスチャンの美食倶楽部で料理を習う筆者(中央)

このようにスペインには、食べるだけでなく、料理を楽しむ場所がいくつもあり、人と人との交流を楽しみながら食事をする機会がたくさんあるのも健康長寿のポイントなのでしょう。

【まとめ・スペインの食に学ぶ長寿の秘訣】

スペインの食には、私たちの日々の生活にも取り入れられるたくさんの健康長寿の要素があります。
特に、食を楽しむことは誰でもどこでもできること。美味しく楽しく食べて健康長寿を目指しましょう。

・魚やオリーブオイルなど、油の質を良くする

魚に含まれるオメガ3脂肪酸、オリーブオイルに含まれるオメガ9脂肪酸を積極的に摂りましょう

・野菜をたくさん食べる

旬の野菜をたくさん食べましょう。日本人の1日当たりの野菜目標摂取量は350gです

・乳製品を食べる

歯や骨を強くし、イライラ防止にも役立ちます

・適度なアルコール

ポリフェノールを含む赤ワインや、糖質の少ない蒸留酒が良いでしょう飲み過ぎはいけません

・料理をする

自分で作るようになると、保存料や安定剤などを使用せずに食べられますし、自分にあった食事を準備できます

・人と交流して笑う

人と一緒に食事をすると、時間をかけてゆっくりと食事をとることができます

・とにかく食を楽しむ

毎日3回食事をするのですから、どうせなら楽しく、美味しく食べましょう!

【まとめ・スペインの食に学ぶ長寿の秘訣】

きのこのソテー

たっぷりのオリーブオイルをフライパンに入れ、お好みのきのこを塩こしょうで炒めます。仕上げに生の卵黄をのせて、卵を混ぜながら食べます。オイルごと、パンにのせて食べても美味しいでしょう。

タコのガリシア

タコと、皮をむいた玉ねぎを丸ごと圧力鍋に入れて塩を加えて煮ます。別の鍋で塩茹でしておいたじゃがいもとタコ、玉ねぎを合わせてオリーブオイル、粗塩、パプリカパウダーをかけて食べる料理です。

バスクチーズケーキ

クリームチーズ(400g)、全卵(2・1/2コ)、グラニュー糖(120g)、小麦粉(大さじ1)、生クリーム(200ml)を混ぜて、型に流し、200℃で40~50分程焼くだけの簡単チーズケーキ。温かいまま食べるとフワフワの食感を楽しむことができ、冷やすとしっとりとした食感を楽しむことができます。

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