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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第28回 本当は怖い脂肪肝

前回までの2回では、「肝腎要」の肝臓と腎臓について解説してきました。 沈黙の臓器と呼ばれる肝臓は、痛みや体の不調を感じないままに病気が進行してしまうことがあるため、健康診断などで定期的に健康状態をチェックし、早めに対処することが重要です(第27回「肝腎要・肝臓の役割と病気」参照)。特に、肝臓に炎症が起こった状態で放置すると、肝硬変から肝がんを発症するケースもあります。今回は、肝臓の不調をもたらす原因の中でも生活習慣の悪化と密接にかかわる、脂肪肝を取り上げます。

【脂肪肝とは】

脂肪肝とは、肝臓に脂肪がたまってフォアグラのようになる状態のことをいいます。脂肪がたまっただけで深刻な病気ではないと考える人は少なくないかもしれませんが、脂肪肝を放置しておくと、肝硬変や肝がんへと進行していく危険性があります。脂肪肝には、大量の飲酒が原因で起こるアルコール性脂肪肝と、飲酒量が少なくても起こる、非アルコール性脂肪肝があります。

いずれにしても、脂肪肝になって肝臓の機能が低下し始めると、肝がんへ進行する危険性が高くなります(図1、第27回「肝腎要・ 肝臓の役割と病気」参照)。脂肪肝だと分かった時点で、早急に手を打つことが大切です。

【アルコール性脂肪肝】

大量にお酒を飲む人は、アルコール性脂肪肝に気をつける必要があります。アルコールを飲みすぎて肝臓に脂肪がたまるのはどうしてでしょう?

アルコールは、肝臓でアセトアルデヒドという物質に分解されます。このアセトアルデヒド、人体 にとっては有害なものなので、アセトアルデヒドを無毒化して酢酸に変えなければいけません。飲酒の後、肝臓はこの有毒物質を除去することを優先させるため、その他の代謝は後回しにして、ひとまず中性脂肪としてため込んでおきます。アルコール自体のエネルギーもひとまず中性脂肪に変えて貯蔵しようとするため、大量にアルコールを飲むと、どんどん肝臓に脂肪がたまっていくわけです。

ちなみにアセトアルデヒドは二日酔いの原因となる物質なので、アセトアルデヒドを酢酸に変換する酵素が少ない人ほど、二日酔いになりやすいのです。

大量飲酒は急性肝炎の原因にもなります。急性肝炎とは、大量に入ってきたアルコールによって障害された肝臓を、自身の免疫細胞が異物だと認識して攻撃するため起こる、肝臓の炎症です。また、急性肝炎にならなくとも、大量飲酒が続くと肝臓が障害されることとなり、肝臓が線維化して肝機能を低下させ、肝硬変へと進行していきます。それとともに、肝がんへ進行するリスクも高くなります。

【適度な飲酒量とは?】

では、どのくらいの飲酒量であれば許されるのでしょう?アルコールの適量は、純粋なアルコールにして1日20g以内といわれています。アルコール20gの目安量は以下のとおり。これ以上の量を毎日飲んでいる人は注意が必要です。飲酒は継続していると抑制がきかなくなるからこそ、飲みすぎないように気をつけないといけません。

1日の適切な飲酒量・純アルコール20gの目安量(次のうちいずれか)

・ビール中瓶 1本
・日本酒 1合
・ワイン グラス2杯弱
・焼酎 半合弱
・ウイスキー ダブル1杯
・ブランデー ダブル1杯

【非アルコール性脂肪肝】

お酒は飲まないし、飲んでも少量しか飲まないから大丈夫、と思っている方でも脂肪肝になることがあります。非アルコール性脂肪肝はNAFL(ナッフル)と呼ばれます。これは、内臓脂肪型肥満を基盤として、糖尿病、脂質異常症、高血圧などを発症する、メタボリックシンドロームが原因となって起こります。この場合、心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化症の危険性が高まります。

一方、非アルコール性脂肪肝=NAFLがもとで、非アルコール性脂肪肝炎=NASH(ナッシュ)という肝臓の炎症を招くことがあります。NASHは、肝臓に炎症が起きており、肝臓の線維化が進みやすい状態で、肝硬変から肝がんへと進行しやすくなります。また、NASHになると脂肪肝だけの場合よりも動脈硬化症を発症する危険性が2倍以上になると言われています。

【脂肪肝を予防・改善するために】

非アルコール性脂肪肝は、メタボリックシンドロームの一部として起こるものであるため、生活習慣に気をつけてメタボリックシンドロームを改善することが何よりも大切です。目安となるのは体重。減量に成功すれば、肝臓の状態も良くなります。減量は、食事の量を減らすだけでは不健康なので、運動を加えます。ウォーキングやジョギング、水泳などの有酸素運動と、筋トレなどの筋肉に負荷をかけて筋力を増強するための運動を組み合わせると良いでしょう。食事およびその他の生活習慣について気をつけることは、第27回「肝腎要・ 肝臓の役割と病気」をご参照ください。

【脂肪肝予防のための献立例】

豚肉のはさみ焼き・ミラノ風

豚肉はしょうが焼き用の薄切り肉を準備し、塩こしょう、小麦粉をまぶします。みじん切りにしたゆで卵、鮭缶、ゆでた枝豆をマヨネーズで和えて、豚肉にはさみ、パン粉と粉チーズをまぶして揚げ焼きします。

(栄養のポイント)
豚肉を使いますが、中に鮭、卵、枝豆を混ぜることで、脂肪の多い肉類の食べ過ぎを防ぐことができます。
揚げ焼きすることで油を使いすぎることなく、健康的に食べられます。
野菜が不足するので、ゆでたオクラとえのきを添えました。ゆで野菜を食べることで、よりバランス良く食べることができます。
タコのボロネーゼ

ボロネーゼは通常牛ひき肉を使いますが、牛ひき肉の代わりにタコのみじん切りを使うのが特徴です。玉ねぎ、セロリ、にんじんなど、たくさんの野菜をトマトソースで煮込むので、野菜がたっぷり食べられます。

(栄養のポイント)
たっぷりの野菜を食べることができます。
牛ひき肉の代わりにタコを使うことで、高タンパク質でありながら脂質を抑えることができます。
スパゲティを食べ過ぎないように、少なめにして、薄味にしたソースをたっぷり食べるとより良いでしょう。
飲むフルーツ酢

いちごやブルーベリーなどの果物に氷砂糖と穀物酢を入れて氷砂糖が溶けるまで待ちます。そのまま飲んでも、ソーダで割って飲んでも楽しめます。写真は左から、いちご、はちみつレモン、ブルーベリー。

(栄養のポイント)
酢には、疲労回復や消化促進、脂肪をためにくくする効果があると言われています。
ソーダで割る場合には、無糖のソーダを使います。飲みすぎると砂糖の取りすぎで、かえって脂肪をためることになりますので、注意が必要です。
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