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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第48回 世界の長寿食(11)ドイツ

世界の食に学ぶ健康長寿の秘訣、11回目はドイツを取り上げます。WHO(世界保健機関)が2021年に報告した統計では、ドイツの平均寿命は81.7歳であり、世界20位。ドイツの食生活 から、健康寿命を延ばすヒントを考えてみましょう。

【ドイツの基本知識】

ドイツ連邦共和国(通称ドイツ)は、中央ヨーロッパに位置する連邦共和制国家です。ヨーロッパ大陸において、政治的、経済的に主要な国であり、世界的なリーダーのひとつでもあります。

近年、多くの難民を受け入れていることが話題になっているように、ドイツはアメリカ合衆国に次ぐ2番目の移民大国で、移民の総数はドイツ国民の約2割に達しつつあるといいます。移民は、ロシア人、ポーランド人、トルコ人、アラブ人などであり、確かにドイツに行くとトルコ料理店やケバブのファストフード店が多く見かけられ、アメリカほどでないものの、多国籍である様子を感じることができます。

北はデンマークと国境を接し、北海とバルト海に面しています。ドイツの東側はポーランドやチェコと隣接しますし、西側はオランダやベルギーと、南はルクセンブルク、フランス、スイス、オーストリアと接しているため、ドイツの中でも東西南北で文化が異なります。

【ドイツの食の特徴】

前述のようにドイツは、様々な周辺諸国と隣接しており、地域によって食文化も異なることが特徴のひとつです。

・魚を食べる
海に隣接している北部の地域(ブレーメンやハンブルクのような街)では、魚を食べる習慣があります。魚は燻製や酢漬けなどの保存食として食べることが多いようです。フィッシュマーケットに出かけると、様々な種類の魚の燻製が売られた店や、酢漬けの魚、あるいはフライドフィッシュを挟んだサンドイッチの店などがあります(写真1)。これらは北欧にも共通する食文化であり、ドイツの北部に特徴的な食です。魚は重要なタンパク質源であるだけでなく、魚の油にはエイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸という質の良い脂質が含まれるため、健康的であると言えます。一方で、燻製や酢漬けなどの加工食品の中には塩分が多いものがありますので、塩分過多にならないように気をつける必要があります。

写真1:フィッシュマーケットの様子。左から、魚の燻製の店、店先に立つ筆者、魚のサンドイッチ店

・ソーセージなどのドイツ特有のスナック
ドイツといえば、プレッツェル、ジャガイモ、ヴルストというソーセージが有名です。これらはドイツ全土に共通して食べられます(写真2)。プレッツェルは小麦粉と酵母で作られるスナックパンで、焼き上がりに塩をまぶします。子どものおやつとして食べられることもありますし、ビールを飲む時のつまみとして大人が食べることもあります。

ソーセージはドイツ語ではヴルストと言います。ヴルストは地域によって種類が異なります。フランクフルトというヴルストは、名前の通りフランクフルト周辺で食べられるもので、長細い形をしています。首都ベルリンでは、ボックヴルストという、フランクフルトによく似た、少し短いタイプのものが食べられます。また、ミュンヘンではヴァイスヴルストという白いタイプのものを食べます。いずれも沸騰した湯の中で茹でて、マスタードをつけて食べます。

写真2:ドイツ料理。左から、スナックパンのプレッツェル、ジャガイモとチーズのオープンサンドイッチ、ミュンヘンのビアガーデンにて。ビールを飲みながらニョッキとミートローフを食べる筆者、ミュンヘン名物のヴァイスヴルスト。朝食からビールを飲みながらヴァイスヴルストを食べる人も珍しくない。

・昼食に重きを置く
ドイツ人は、1日に1回だけ、朝食に温かいものを食べるとも言われます。実際、ドイツの家庭で食事をすると、昼にしっかりと食べる印象はあります(写真3)。温かいものと言っても、蒸したジャガイモと茹でたソーセージがメインであったり、パンケーキの残りを入れたようなスープであったりと、シンプルなものが多いです。写真3の右はマウルタッシェという、平たいパスタに肉のミンチや細かく刻んだ野菜を入れてスープにしたもので、ラビオリのような、水餃子のような料理です。一方、夕食は昼食の残りのニョッキや肉を焼いたものを食べることもあれば、サラミやハム、チーズ、サラダを並べただけという冷たい料理を食べることが多いです(写真4)。

このように、朝昼のご飯を多めに食べて、夜は控えめに食べるという食べ方は、私たちも取り入れたい食べ方です。私たちの体には体内時計が備わっており、夜には消化吸収をする能力が低下するため、夕食の量が多いと脂肪に変わりやすいです。朝食を食べてから12時間以内に夕食を食べるように心がけ、遅くても夜9時までに食事を終えるのが理想的です。

ちなみにドイツでは、ビールは水よりも安いことが多く、食事の際にビールやワインを飲むのが一般的ですが、ビールやワインには糖質が多く含まれます。アルコール摂取過多にならないように心がけましょう。

写真3:ドイツの昼食例。
左から、ソーセージ(フランクフルト)と蒸したジャガイモ、サラダなどの簡単な昼食、スープ、マウルタッシェ

写真4:ドイツの夕食例。
左から、ニョッキ、肉のグリル、インゲン豆のワンプレート料理、サラミや生ハム、チーズなどの盛り合わせとサラダの夕食、茹でたカニ、サラダなどの夕食。

・チーズ
ドイツ南部はスイスやフランスと接しており、スイスやフランスの食文化の影響を大きく受けています。そのため、良質のチーズを安価で買うこともできます(写真5)。

チーズには、タンパク質やカルシウムなどのミネラルが豊富に含まれるため、骨や筋肉を健康に維持するための食材として取り入れると良いでしょう。ただし、ソーセージやハムと同様、塩分や脂肪を多く含むため、食べ過ぎには注意が必要です。1日20~40g程度のチーズを目安にすると良いでしょう。

写真5:チーズ専門店にて。種類の多さと価格の安さには驚く。日本に持ち込みたい場合は、真空パックにしてもらえるか聞くと良い。

【まとめ・ドイツの食に学ぶ長寿の秘訣】

ドイツの食に秘められた健康長寿の要素、私たちの日々の生活に取り入れられるものは見つけられたでしょうか。

・魚を食べる
なるべく多くの魚を食べるようにしましょう。特に青魚には、血中の中性脂肪やコレステロールを低下させ、動脈硬化症を予防する効果のあるEPA、脳にたくさん存在し、その機能保持に重要なDHAを多く含みます。ただし、塩分を多く含むような魚の加工品を食べる際には注意が必要です。塩分過多にならないように気をつけましょう。塩の摂取量は、成人男性の場合1日8g、成人女性の場合1日7gが上限とされているので、目安にしてください。

・加工食品の食べ過ぎには要注意
加工食品には塩分が多く含まれ、保存料や着色料などの食品添加物が含まれることも多いです。ドイツではソーセージを食べる習慣がありますが、メツゲライと呼ばれる精肉店やソーセージ・ハムの専門店が多くあり、その店で加工されたものが食べられるため、添加物が含まれることは少ないかもしれません。一方、スーパーマーケットなどで売られている大量生産されたものの中には、パッケージの裏側を見るとたくさんの添加物が書かれているものも多くあります。このような添加物はもちろん安全性が確認されているものですが、食べ過ぎには気をつけましょう。

・食事は朝昼を多めに、夜は少なく
日本人の場合、1日の食事のうち、夕食の量が一番多いという人は少なくないことと思いますが、理想の食べ方は朝:昼:夜が4:3:3あるいは3:4:3と、夜は食べ過ぎないこと。朝食を食べてから12時間以内に夕食を食べるように心がけ、遅くても夜9時までに食事を終えましょう。

・乳製品を食べる
タンパク質やカルシウムを補うために、牛乳を飲んたり、チーズを食べたりしましょう。カルシウムが不足していると、普段は骨に蓄えているカルシウムを使ってしまうこととなり、骨粗しょう症の原因になります。塩分過多に気をつけながら適度に取り入れましょう。

【ドイツ料理レシピ】

シュペッツレ

南ドイツ、バーデン=ヴュルテンベルク州の郷土料理「シュペッツレ」。日本の「すいとん」のような南ドイツのパスタです。

熱々に細かく刻んだチーズを混ぜて食べることもありますし、写真のようにレンズ豆とソーセージを添えて食べることもあります(写真のソーセージはフランクフルト)。

シュペッツレは、ボウルに小麦粉、塩、ナツメグを入れて混ぜておいたところに、溶き卵と水を交互に少しずつ加えて混ぜます。ちなみに、ドイツ人は卵を多めに入れるのがお好み。沸騰した湯に塩を加えて、穴あきおたまに生地を流し入れ、茹でます。

レンズ豆は、ベジブロス(水に玉ねぎ、にんじん、セロリを入れて一晩水出ししておいたもの)にみじん切りした玉ねぎとにんじんを入れて茹で、塩こしょうで味つけします。茹でたソーセージを添えて盛りつけます。

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