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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

私たちの身体と栄養(2)骨

2024年9月からは「私たちの身体と栄養」というテーマを取り上げています。私たちの身体には、心臓や肝臓、筋肉などのさまざまな臓器があり、臓器を作るための細胞が存在します。臓器や細胞は、協調してはたらき、私たちの生命や健康を維持するために機能しています。また、私たちが食べたものは、消化吸収された後、全身に運ばれて細胞や臓器がはたらくためのエネルギーとなります。本シリーズでは、身体の仕組みと栄養との関連について、解説していきます。今月は、私たちの身体を支える骨を取り上げます。

【骨について】

人体には約200個もの骨が存在し、骨格を形成しています(図1)。その中でも最大の骨は太ももの大腿骨(だいたいこつ)で、大人で40cm前後あります。最も小さい骨は、耳に存在する耳小骨(じしょうこつ)で、わずか数mmしかありません。

図1. 人体における主な骨

人体には約200個もの骨が存在する。

(骨の構造)
骨は、表面を覆う白色の結合組織である骨膜、その内側の硬い骨質からなる緻密質(ちみつこつ)、内部に骨髄を含む柔軟な骨質の海綿質という3層から成っています。骨膜には、神経や血管、リンパ管が通っていて、刺激伝達や栄養の運搬を行っています。また、海綿質の中心にある骨髄腔には骨はなく、血液を作るための造血幹細胞が存在しています(図2)。

図2. 骨の構造

骨は、表面から骨膜、緻密質、海綿質という3層で成り立っており、
海綿質の中には血液成分を作るための造血幹細胞が存在する。

【骨の役割】

骨は、私たちの体を支えるだけでなく、内臓を守り、運動の補助をしてくれます。また、骨の内部に存在する骨髄は血液を作る場として重要です。また、骨はカルシウムやリンなどの貯蔵場所としても欠かせません。

① 体を支える
前述のように、私たちの体を支える骨は200以上も存在します。これらの骨が関節によってつながることによって、骨格を形成しています。関節には、頭蓋骨の骨同士を結合する動かない関節(不動結合)と、曲げ伸ばしなどの運動ができるように動く関節(稼働結合)があります。

② 内臓を守る
骨格が作られると、空間部分ができ、その中に重要な臓器が配置され、保護されています。例えば頭蓋骨は脳を、肋骨や胸骨は肺や心臓を、骨盤は膀胱や女性の場合、卵巣や子宮を、背骨(脊椎)は脊髄神経を保護しています。

③ 運動の支点となる
骨と関節、筋肉が協調して支点となり、私たちは体を動かし、運動することができます。関節には様々な形のものが存在し、骨と骨とを連結しているだけの不動のもの、回転が可能なもの、前後左右に動かせるもの、一方向にしか動かせないものなどがあります。

④ 血液を作る
骨の中心に存在する骨髄には、造血幹細胞という、赤血球、白血球、血小板のような血液成分のもとになる細胞が存在します。これらの細胞は、骨髄の中で分裂、増殖をすると共に、酸素を全身に運ぶための赤血球や、体内に侵入した病原体や異物から体を守る白血球、出血を止めるための血小板に分化します。

⑤ ミネラルを貯蔵する
骨にはカルシウムやマグネシウム、リンなどのミネラルが貯蔵されています。特に、カルシウムは、体内の99%をハイドロキシアパタイトの形で骨は歯に貯蔵しており、血液中の量が少なくなると、骨に蓄えていたカルシウムを放出することで血液のカルシウムを補います。カルシウムは、骨の維持だけでなく、筋肉の収縮や神経の伝達、細胞からのホルモンの分泌などにおいて重要な役割を果たします(栄養と代謝(10)「ミネラルの役割」参照)。

【骨の強度を決める骨量】

骨の強さは骨量によって決まります。骨量とは、骨全体に含まれるカルシウムなどのミネラルの量のことで、正しくは骨塩量と言います。骨密度は、骨量(骨塩量)が単位面積あたりどれだけ存在するかを算出したもので、骨量や骨密度が多ければ骨が丈夫であり、逆に少なければ骨がもろい状態にあると言えます。

この骨量は、骨を壊す骨吸収と、骨を作る骨形成が絶えず繰り返されることにより決定されます(図3)。血液中に十分量のカルシウムが保たれているときには、カルシウムは骨に貯蔵され、骨を作るための骨芽細胞(こつがさいぼう)という細胞が活発に骨を作ります。この過程を骨形成と言います。一方で、血液中のカルシウムが少ないときには、破骨細胞(はこつさいぼう)という細胞が骨を壊しつつ、骨から血液へとカルシウムを供給します。この過程を骨吸収と言います。すなわち、血中にカルシウムが不足していると骨が弱く、もろくなりやすくなるのです。カルシウムは体の中では作られないので、食事から摂取することが大切です。

図3. 骨量を決める骨形成と骨吸収

血液中に十分量のカルシウムが保たれているときには、カルシウムは骨に貯蔵され、
骨芽細胞(こつがさいぼう)が骨形成を行う。一方で、血液中のカルシウムが少ないときには、
破骨細胞(はこつさいぼう)が骨から血液へとカルシウムを供給する骨吸収を行う。
骨の強度は骨形成と骨吸収によって決まる。

【骨量の減少による骨粗鬆症】

骨形成と骨吸収のバランスが悪くなり、骨量が減ってしまうと骨折しやすくなります。この状態を骨粗鬆症と言い、日本には約1,000万人以上の患者がいます(日本骨粗鬆症学会)。

骨粗鬆症の原因のひとつとして、閉経による女性ホルモンの減少があります。実際、閉経後の女性に骨粗鬆症が増加します。その他、加齢や遺伝的な要素、体型も影響します。太り過ぎもよくありませんが、痩せ過ぎもいけません。また、喫煙や過度な飲酒、運動不足などの良くない生活習慣も骨粗鬆症の引き金となります。

【健康な骨を支える栄養】

日本人の食事摂取基準2020年版では、成人の場合、1日700〜800mgのカルシウムを摂取することが推奨されています。以下の食品や納豆、大豆製品、緑黄色野菜から十分にカルシウムを摂取しましょう。一方で、カルシウムは過剰に摂取することにより、弊害が生じることがあります。通常の食事から過剰症になる可能性は低いですが、1日あたりの摂取量が2,500mgを超えないように気をつける必要があります。

(食品に含まれるカルシウムの量)
牛乳1本(200ml) 220mg
ヨーグルト(210g) 280mg
チーズ(18g) 90〜150mg
しらす干し(5g) 25mg
わかさぎ(10g) 45mg
ひじき(2g) 20mg
わかめ(10g) 87mg
あおさ(2g) 10mg

カルシウムを多く含む食品のほか、カルシウムの吸収を高めるビタミンDや、吸収されたカルシウムの骨への沈着を高めるビタミンK2も併せて摂取することで、より健康な骨の維持が期待できます。ビタミンDは魚類やきのこ類に、ビタミンは納豆や緑黄色野菜に含まれます。また、骨にはコラーゲンも含まれ、骨の中の骨子となるものなので、その基となるタンパク質を十分に摂取することは、強い骨を維持するために重要です。カルシウム、ビタミンD、タンパク質を食べて、健康な骨を維持しましょう。

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