文化講座
食の安全について考える(11)輸入食品
2023年9月からは「食の安全について考える」というテーマを取り上げています。私たちは日々、食品を食べて生きており、食生活は、住んでいる場所や気候、個人の生活習慣、好き嫌い、経済状況などを反映しています。いかに食の安全を確保するかは、私たちの健康を左右する大きな要因のひとつです。本シリーズでは、食の安全について考え、ご自身の食生活をより豊かにできるよう、情報をお伝えしていきたいと思います。今月は、輸入食品について解説します。
【輸入食品とは】
食料自給率が年々低下傾向にある日本において、輸入食品は私たちの生活の維持に欠かせないものとなっています。輸入食品は、税関手続きを経て日本に入ってくる食品のことで、肉や魚、野菜、果物などの生鮮食品、飲料、菓子、加工食品や加工食品に使用される原材料や香辛料など、様々なものが含まれます。
2022年に輸入された生鮮野菜は70万トンにも上ります。主な輸入品目は、玉ねぎ、かぼちゃ、にんじん、ねぎ、じゃがいもの5品目で全体の7割を占めています。また、野菜加工品としての輸入食品の中では、冷凍野菜やトマト加工品が多く、7割を占めています。
日本での消費が多い魚類も、輸入されたものをスーパーマーケットなどで見かけることと思いますが、輸入額の上位を占めるのは、サケ・マス類、カツオ・マグロ類とエビです。サケ・マス類はチリやノルウェーから、カツオ・マグロ類は台湾、中国、韓国から、エビはベトナム、インド、インドネシアから多く輸入されています。
販売または営業上使用する食品等を輸入する場合には、その安全性確保の観点から、食品衛生法に基づいて、輸入届出の義務が課せられています。また、全国32ヶ所に存在する検疫所にて、審査され、検査が必要な貨物とそうでない貨物に分類されています。
【日本の自給率と諸外国の自給率】
輸入食品に頼る原因として、食料自給率の低下が挙げられます。食料自給率とは、食料供給に対する国内生産の割合を示す指標です。私たちが体・健康の維持に必要とするエネルギー(カロリー)を基に計算された「カロリーベースの自給率」と、経済的な価値に着目して、国内で消費される額に基づいて計算される「生産額ベースの自給率」に分けて算出されます。
(日本の自給率)
日本の食料自給率は、1965年(昭和40年)時点では、カロリーベースで73%、生産額ベースで86%であったものの、その後、長期的に低下傾向が続いています。2021年度(令和3年度)、カロリーベースで38%、生産額ベースで63%でした(図1)。この理由として、米の消費が減少する一方、畜産物や油脂類の消費が増えているなどの食生活の変化が関与していると考えられます。例えば、米の自給率はほぼ100%である一方、パンや麺を食べる人が増えているにもかかわらず、小麦の自給率は20%を下回っているのが現状です。
図1. 日本の食料自給率の推移
1965年以降、日本の食料自給率は低下傾向が続いており、2021年度時点でカロリーベースは38%、生産額ベースは63%になっている。(農林水産省データより作図)
(諸外国の自給率との比較)
日本の食料自給率は、諸外国と比較しても低い水準にあり、特にカロリーベースの自給率が低いです(図2)。一方、生産額ベースで見ると、ドイツやイギリス、スイスとあまり変わりません。カロリーベースと生産額ベースで自給率に差が生じる理由は、エネルギー(カロリー)が高いものを生産できるか、カロリーに比して価格が高いものを生産できるか、に依存します。例えば、カナダやオーストラリアは、国内の消費人口が少なく、カロリーの高い穀物や、植物油の原料として利用されるような食料を多く生産するため、カロリーベースの自給率が高いです。また、イタリアはドイツやイギリスに比べ、野菜や果物など価格の高い食料の輸出量が多いため、生産額ベースにすると、ドイツやイギリスよりもイタリアの自給率が高いことになるのです。
図2. 諸外国と日本の食料自給率の比較
農林水産省データより作図
(食料自給率の目標)
農林水産省は、2030年度までに、カロリーベース自給率を45%に、生産額ベース自給率を75%に高めることを目標として掲げています。この実現のために、国産食品の消費を高めることや、スマート農業による作業の効率化や品質向上などが課題となっています。
【輸入食品の安全性確保】
食品安全委員会による消費者を対象とした調査では、食の安全性に関して、輸入食品の安全性が気になると考えている人は全体の6割以上を占めています。一方で、輸入届出件数は年々増加しています。その安全性はどのように管理しているのでしょうか。
日本では、農林水産省、厚生労働省、財務省が食品輸入に関わり、それぞれ異なる法律に基づき管理されています。農林水産省は、野菜や果物、食肉などが対象とし、輸入時に持ち込まれる可能性のある病気や害虫から国内の食品を守る「植物防疫法」、「家畜伝染病予防法」を所管しています。さらに、厚生労働省の「食品衛生法」による食品全般の輸入管理、財務省の「関税法」による税関手続きを経て、国内流通につながります。
特に、厚生労働省では安全性確保対策として、輸出国における安全対策、水際(輸入時)の対策、国内での対策が実施されています。
(輸出する国での取り組み)
違反の可能性が高く、輸入時の検査を強化している食品については、輸出国の政府などに対して違反原因の究明と再発防止対策の確立が要請されます。また、二国間協議を通じて、日本の規制に合った生産や製造、加工などの管理が推進されています。管理体制を強化するために、輸出前検査を実施したり、輸出国政府による証明書の発給が行われ、証明書がない場合は日本への輸入は不可能となったりするなどの取り組みが行われています。
(輸入時の取り組み)
食品衛生法によって、販売や営業上使用する食品や添加物、容器包装、器具、乳幼児用おもちゃについては、輸入者に対して、都度、厚生労働大臣に対して届け出ることが義務となっています。届出は、全国32ヶ所の検疫所食品監視窓口で受理され、輸入される食品が食品衛生法に基づく規格基準などに適合するか、食品衛生監視員が審査を行うとともに、違反の可能性に応じたモニタリング検査が実施されています。
モニタリングは、抗菌性物質、残留農薬、添加物、病原微生物、毒、認められていない放射線照射の有無などについて、統計学的に有効であるとされる割合で検査されます。実際は全体の1割程度のものがモニタリング対象となっていますが、法違反の可能性が高いと判断される食品については、輸入の都度、全ロット検査が行われ、食品衛生法に違反する食品が輸入されないようなシステムとなっています。
(国内での取り組み)
国産品と同様に、地方公共団体が年間計画に基づいて検査を行うなどの取り組みがなされています。違反が発見された場合には、通報し、違反情報に基づいて輸出国対策、輸入時対策、国内対策に共有される仕組みになっています。
【輸入食品は安全か?】
上述のような対策を経て輸入されるため、ある程度の安全性は担保されていると言えるでしょう。特に、抗菌性物質、残留農薬、添加物、病原微生物、毒、放射線照射の有無に関して、日本で認められていないものが使用されていないか、モニタリング検査が実施されています。実際、厚生労働省によると、全輸出国による食品衛生法の違反率は0.03%であり、違反率が高いわけではありません。また中国産食品に関して、危険性を指摘するような報道もありますが、中国から輸入される食品の違反率は0.02%であり、特に高いという状況ではないとしています。
【まとめ】
輸入食品の増加に伴って、これまで外国でしか手に入らなかった食材や食品が、日本国内でも手に入るようになり、私たちの食生活はより豊かになりました。一方で、食料自給率の低下や、品質管理の難しさ、輸入することによって環境に与える影響など、懸念点もあります。一過的な流行によって発展途上国における環境破壊や労働環境問題が生じることもあるため、消費者として正しく情報を理解し、購入・消費の際に心がけたいものです。
参考資料
- 農林水産省「知ってる?日本の食糧事情」
- 厚生労働省「輸入食品監視業務FAQ」