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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

栄養と代謝(6)タンパク質と代謝

第62回から始まったシリーズ「栄養と代謝」では、私たちの健康に必要な栄養素とその代謝について基礎から学び、ご自身の食生活をより豊かにできるよう、情報をお伝えしています。

シリーズ6回目は、タンパク質とその代謝について解説します。

【タンパク質とは】

タンパク質とは、20種類のアミノ酸が結合してできたものです。構成するアミノ酸の数や種類、結合の順番によってタンパク質の種類が異なり、ヒトでは10万種類以上ものタンパク質が存在しています。体内に存在するタンパク質には、血糖値を下げるためのホルモンである「インスリン」のように50個程度のアミノ酸が結合した低分子のタンパク質から、赤血球に存在し、酸素と結合して酸素を全身に運ぶ「ヘモグロビン」のように600個近いアミノ酸が結合した高分子のタンパク質まで多種類が存在します。

タンパク質を構成する20種類のアミノ酸のうち、9種類は体内では合成されないため、食事から摂取する必要があり、必須アミノ酸と呼ばれます。必須アミノ酸は、バリン、ロイシン、イソロイシン、スレオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン、ヒスチジン、メチオニンです。

その他11種類は他のアミノ酸、または中間代謝物から体内で合成することができるため、非必須アミノ酸と呼ばれます(図1)。

図⒈ タンパク質を構成する20種類のアミノ酸
タンパク質を構成するアミノ酸は20種類が存在する。うち9種類は体内で合成されないため、食品からの摂取が必要な必須アミノ酸、他11種類は体内で他のアミノ酸や中間代謝物から合成することができる非必須アミノ酸である。

【タンパク質の摂取量】

日本人の食事摂取基準によると、1日に必要なタンパク質はエネルギー摂取量全体のうち13~20%とされています。18~49歳では13~20%エネルギー比ですが、50~64歳では14~20%、65歳以上では15~20%というように、年齢が高くなるほどタンパク質の量を増やすことが推奨されています(図2)。

図2. 三大栄養素の
摂取バランス

エネルギー摂取量全体に占める三大栄養素の理想的な摂取バランスは、炭水化物50~60%、タンパク質13~20%、脂質20~30%

タンパク質を構成するアミノ酸20種類のうち、必須アミノ酸9種類をバランス良く含む食品は、良質のタンパク質を含む食品と言えます。タンパク質の質を示す指標として「アミノ酸スコア」が使われます。アミノ酸スコアが100に近いほど、必須アミノ酸をバランス良く含んでいると言えます。例えば、肉類や魚類、卵、大豆、牛乳のアミノ酸スコアは100であり、タンパク質源として食べたい食品です。一方、米や小麦、芋類、ナッツ類などにもタンパク質は含まれますが、アミノ酸スコアは60~80と低い食品です。すなわち、必須アミノ酸の中に不足しているものがあるということです。

タンパク質は筋肉を維持するために重要な栄養素であることから、2020年に改定された食事摂取基準では、全ての年齢において、0.66g/kg体重/日以上のタンパク質を摂取することが推奨されています。また、タンパク質の摂取不足が最も直接的に影響するのが、高齢者におけるフレイルとサルコペニアです。フレイルは虚弱のこと、サルコペニアは筋肉の量が低下して体の機能が衰えた状態のことを指します。そのため特に高齢者(65歳以上)では、少なくとも1.0g/kg体重/日以上のタンパク質を摂取することが望ましいとされています。

日本では稀ですが、アジアやアフリカの一部では食料が不足し、栄養失調の地域があります。タンパク質やエネルギーが欠乏状態になると、鉄やビタミンAなど、他の栄養素の利用も抑制されてしまうため、複合的な栄養素欠乏状態に陥りやすく、貧血を伴うことや、感染に対する免疫力が低下することもあります。

一方、タンパク質の過剰摂取は腎機能を低下させる可能性が考えられていますが、健康な人を対象として異なるタンパク質量を食べた時の腎機能への影響を検討した解析では、35%エネルギー未満であれば腎機能を低下させることはないだろうと考察されています(Adv Nutr 9: 404-18, 2018)。それゆえ、現時点ではタンパク質摂取量の上限値は設けられていません。

【タンパク質の役割】

①体の構成成分(図3)
タンパク質は、私たちの体を構成する成分です。筋肉、毛髪、皮膚、歯、骨、爪、血管、血管成分に至るまで、タンパク質がその構成成分として欠かせません。コラーゲンは、皮膚や骨を構成するために必要なタンパク質です。毛髪や爪を構成するケラチン、血液成分を構成するヘモグロビンやアルブミンなど、さまざまなタンパク質が存在しています。

また、タンパク質を構成するアミノ酸の中でも、分岐鎖アミノ酸(BCAA: branched chain amino acid)と呼ばれるバリン、ロイシン、イソロイシンは、アミノ酸の中でも筋肉の維持や増量に重要な役割を果たしています。分岐鎖アミノ酸は、マグロの赤身、鶏むね肉、高野豆腐、牛乳、卵、納豆、チーズなどに多く含まれているので、筋肉を増強したい人、衰えないように維持したい人は積極的に食べると良いでしょう。適度な運動を加えることで、効率良く筋肉が作られます。

②体の機能調節(図3)
タンパク質は、私たちの体の機能を調節するためにも欠かせません。前述のように、血糖値を下げるインスリンというホルモンのほか、成長ホルモンや、一般に幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンもタンパク質でできています。

また、食事から得た栄養素を消化(分解)するための酵素には、糖質を分解するためのアミラーゼ、タンパク質を分解するためのペプシン、脂質を分解するためのリパーゼなど、様々ありますが、これらもタンパク質で構成されますし、栄養素を代謝して体内で有効活用するための酵素もタンパク質です。

抗体もタンパク質で構成されています。この時期、コロナウイルスだけでなく、インフルエンザウイルスや風邪ウイルスが流行しやすいですが、これらのウイルスに感染すると、体内で樹状細胞やマクロファージなどの免疫細胞が免疫反応を開始します。樹状細胞やマクロファージはT細胞やB細胞を活性化させ、B細胞が抗体を産生します。ワクチンもこの原理を利用していて、ウイルスを不活性化させたもの、あるいはウイルスの一部を体内にあらかじめ投与することによって、抗体産生させ、ウイルスが体内に入ってきたときに素早く対処できるようにしています。

この他、タンパク質は、体内での栄養の運搬に関わる物質や神経の情報伝達、筋収縮に関わっており、私たちの体が正常に機能するために働いています。

図3. タンパク質の役割
タンパク質は体の構成要素として欠かせないだけでなく、ホルモンや酵素、抗体などを構成し、体の機能調節に関わっている。また、炭水化物や脂質からのエネルギー供給が少なくなると、タンパク質をエネルギー源として利用する。

③エネルギー源
炭水化物や脂質からのエネルギー供給が少なくなると、タンパク質やアミノ酸がエネルギー源として利用されます。

【タンパク質の代謝】

食事から摂り入れたタンパク質は合成と分解を繰り返して動的平衡状態を保っています。分子量が大きいため、食事中のタンパク質は口の中で噛み砕かれ、胃に運ばれてペプシンという消化酵素によってペプチド(アミノ酸が数個から数十個結合したもの)に分解されます。その後、膵臓においてトリプシン、キモトリプシン、ペプチダーゼによってさらに細かく分解され、アミノ酸として小腸から吸収されます。こうして体内に取り込まれたアミノ酸は、アミノ酸プールを形成し、必要に応じて体内でタンパク質を合成したり、アミノ酸からエネルギーに変えたりしています。

アミノ酸をエネルギーに変える反応のほとんどは肝臓で行われますが、分岐鎖アミノ酸に関しては主に筋肉で分解されます。

コラーゲンが肌に良いと、フカヒレや鳥軟骨、豚足などの食品や、コラーゲンを含むドリンクを摂取する人も多いことと思いますが、上述のように、タンパク質は分解されてアミノ酸になった状態で吸収されるため、コラーゲンを食べたからと言って体内にコラーゲンが届くわけではありません。しかしながら、経験的にフカヒレを食べた翌日に肌の張りが良いような気持ちになることもあります。この点については科学的に十分に明らかにされているわけではありませんが、コラーゲンを経口摂取したときの作用として、血流量を増加させる作用が報告されており(Angiology 16: 170-176, 1965)、血流の改善が肌の張りに繋がっているのかもしれません。

【まとめ】

今回は、タンパク質の役割と代謝について解説しました。タンパク質は水に次いで多く体を構成する成分であり、常に分解と合成を繰り返しながら私たちの体の機能を調節しています。不要になったタンパク質や異常な状態で合成されてしまったタンパク質は分解されますが、このプロセスが破綻すると異常タンパク質が蓄積して病気を発症することもわかってきました。次回はタンパク質の代謝異常による疾患について解説します。

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